方ホウの字源については諸説あり、[甲骨文字辞典]は首枷をつけた人の形の側面形とし、[字統]は横にわたした木に死者をつるした形とするが、私は耤セキ(スキで耕す)の甲骨文字に描かれたスキが「方」と似ていることからスキの意で解釈したい。方の字源をスキとする理由のもう一つは、首枷をつけた人の側面形や、横にわたした木に死者をつるした形では、音符イメージが出てこないためである。方は「左右に」「四角」「四方に」のイメージがあり、これらはスキで耕す意から導きやすい。
錺かざりを追加しました。
方 ホウ・かた 方部
<参考>耤セキ(人がスキで耕す姿)の甲骨文
解字 甲骨文第一字は、踏むための柄が左右に張り出たスキの象形。耤セキの甲骨文に描かれているスキと似ている。甲骨文第二字は左右の柄の端を強調した形。金文以降の変化で最終的に「方」になった。意味は、スキの進む方向、スキを使うやりかた(方法)、スキを使う土地(地方)、スキでたがやした四角な土地(方形)などから出てくる。
意味 (1)かた(方)。むき。「方角ホウガク」「方向ホウコウ」 (2)分野。部分。「方面ホウメン」 (3)ある土地。「地方チホウ」 (4)四角。「方形ホウケイ」 (5)わざ。やりかた。「方法ホウホウ」「医方イホウ」 (6)[国]ころ・時分。「夕方ゆうがた」 (7)[国]かた(方)。他人をさす。「お乗りの方」「敵方てきがた」
参考 方は部首「方ほう・ほうへん」になる。漢字の左右や下に付き、主に旗の意味を表す。旗は「方+𠂉+其」から成るが、「方+𠂉」の部分が古代文字では旗竿と吹き流しに当たる。[もう一つの部首 「㫃(方𠂉)エン」<旗がなびくさま>を参照]そこで旗の意味の字は、すべて方𠂉がつくから必然的に方部に属することになる。
常用漢字で方ホウ・施シ・旅リョ・旋セン・族ゾク・旗キの6字あるが、部首を除くとすべて方𠂉であることから旗に関する意味がある。約14,600字を収録する『新漢語林』は、28字を収録するが旁ボウ・於オなどを除くと、ほとんど方𠂉が含まれ旗の意味である。
並んでスキを使う「耦耕グウコウの図」(中国農業博物館の展示から)
https://new.qq.com/rain/a/20210822a07oc300
「商周の時期は井田(田を九等分し中央の田を公田とし、その他を私田とする方式)の耕作が連綿として続いた。男たちは三人が一緒に耕作した。人々はこのような耕作方式を協田と呼んだ。西周の時期に二人が一緒に耕作する耦耕となった。卜辞中、已にこの記載がある」(説明文の要旨):この説明に全て賛同するわけではないが、耦耕という言葉がある以上、存在したことは確かである。私は、耦耕は二人並んで田起こしするほうが横の人が起こしたひび割れを共有でき効率がいいから存在したと思う。牛に引かせるスキが普及するまで続いたのではないだろうか。(私見)
イメージ
並んでスキを使うことから「左右に」(方・房・防・紡・妨・仿・倣・彷・舫)
意味(4)の「四角」(坊)
「四方に」(芳・放・肪・訪)
音の変化 ホウ:方:仿・倣・彷・舫・芳・放・訪 ボウ:房・防・紡・妨・坊・肪
左右に
房 ボウ・ふさ 戸部
解字 「戸(一枚とびら)+方(左右に)」 の会意形声。堂(母屋)の左右に張り出た一枚とびらの部屋「東房」など。大きな部屋に付属する小部屋が原義。のち、住まい・家の意。また、内部が小部屋状に分かれたものや、房(ふさ)の意味にもなる。
意味 (1)へや。ねま。小さな部屋。「独房ドクボウ」「女房ニョウボウ」(女官の部屋。婦人。妻) (2)寝屋。「房事ボウジ」 (3)いえ。すまい。「山房サンボウ」「房屋ボウオク」(家屋) (3)部屋のように区切られたもの。「心房シンボウ」「蜂房ホウボウ」(蜂の巣) (4)ふさ(房)。①たっぷりついた実が垂れさがってみえるもの。②糸を束ね、先を散らしたもの。「花房はなぶさ」「一房ひとふさ」 (5)星の名。「房宿ボウシュク」(二十八宿のひとつ。そいぼし)
防 ボウ・ふせぐ 阝部
解字 「阝(土盛り)+方(左右に)」 の会意形声。左右に長くのびる堤。
意味 (1)つつみ。土手。「堤防テイボウ」 (2)ふせぐ(防ぐ)。そなえる。まもる。「予防ヨボウ」「防衛ボウエイ」「防空ボウクウ」
紡 ボウ・つむぐ 糸部
解字 「糸+方(左右に)」 の会意形声。左右に繊維を入れかえて縒り合わせ、糸にする。
意味 つむぐ(紡ぐ)。繊維をより合わせて糸にする。「紡績ボウセキ」(糸をつむぐ)「紡織ボウショク」(糸を紡ぐことと織ること)「混紡コンボウ」(質の異なる糸を混ぜて紡ぐ)
妨 ボウ・さまたげる 女部
解字 「女+方(左右に)」 の会意形声。女が左右に手を広げて立ちはだかること。
意味 さまたげる(妨げる)。じゃまをする。「妨害ボウガイ」「妨遏ボウアツ」(さまたげとめる)
仿 ホウ
解字 「イ(人)+方(左右に)」の会意形声。左右の人と、にていること。
意味 (1)にている。「仿彿ホウフツ」(①よく似ているさま。②ありありと思い浮かぶさま) (2)(倣ホウに通じ)まねる。 (3)(彷ホウに通じ)さまよう。
倣 ホウ・ならう イ部
解字 「仿(にている)+攵(動作)」の会意形声。仿は左右の人と似ていること。倣は似ようとする動作。
意味 ならう(倣う)。まねる。「模倣モホウ」
彷 ホウ・さまよう 彳部
解字 「彳(ゆく)+方(左右に)」 の会意形声。右や左にあてもなく歩くこと。
意味 (1)さまよう。「彷徨ホウコウ」 (2)(仿ホウに通じ)にかよう。ほのか。「彷彿ホウフツ」
舫 ホウ・もやう 舟部
解字 「舟(ふね)+方(左右にならぶ)」 の会意形声。左右に並んだ舟。
意味 (1)舟。もやいぶね(舫)。「舫船もやいぶね」(二隻並べてつないだ舟)(2)もやう(舫う)。①舟と舟をつなぎあわせる。②杭などに船をつなぎとめる。
四角い
坊 ボウ・ボッ 土部
解字 「土+方(四角に)」 の会意形声。四角に区切った土地。
意味 (1)まち。市街。「条坊ジョウボウ」(都の大路・小路によって分けられた区画)「坊間ボウカン」(街のなか) (2)てら。寺院の内部も坊に分かれていた。僧侶のすまい。また、僧。「僧坊ソウボウ」「坊主ボウズ」 (3)[国]男児を親しんで呼ぶ語。「坊や」「坊ちゃん」
四方に
芳 ホウ・かんばしい 艸部
解字 「艸(草)+方(四方に)」 の会意形声。四方に草花のかおりが伝わること。
意味 (1)かんばしい(芳しい)。かぐわしい(芳しい)。よい香りがする。「芳香ホウコウ」「芳醇ホウジュン」(酒がかおり高く味のよいこと) (2)評判がよい。「芳名ホウメイ」 (3)他人の物事に対する敬称。「芳志ホウシ」
錺<国字> かざり 金部
錺引手かざりひきて(「錺屋」HPより)
解字 「金(金属)+芳(はなやか)」の会意。芳は花が咲き乱れ香りが四方に伝わること。花が咲き乱れるようにはなやかな金属の細工物をいう。
意味 かざり(錺)。金属を加工して装飾をほどこしたもの。「錺金具かざりかなぐ」(襖ふすまの引手や、蝶番ちょうつがい、などの金具に装飾性をもたせたもの)「錺細工かざりさいく」「錺職かざりしょく」(錺を作る職人。錺師。)
肪 ボウ・あぶら 月部にく
解字 「月(からだ)+方(四方に)」 の会意形声。身体が太ってまわりについてくるあぶら。
意味 あぶら(肪)。動物の体内のあぶら。「脂肪シボウ」
放 ホウ・はなす・はなつ・はなれる・ほうる 攵部
解字 「攵(うつ)+方(四方に)」 の会意形声。四方に打ちはなつこと。
意味 (1)はなす(放す)。はなれる(放れる)。はなつ(放つ)。ときはなす。「放牧ホウボク」「解放カイホウ」「放棄ホウキ」 (2)ほうる(放る)。おいやる。「追放ツイホウ」 (3)発する。送り出す。「放送ホウソウ」「放射ホウシャ」
訪 ホウ・おとずれる・たずねる 言部
解字 「言(はなす)+方(四方に)」 の会意形声。[説文解字]に「汎(ひろ)く謀(はかる)を訪と曰(い)う」とあり、ひろくあちこちに行き人と話をすること。転じて、訪れる意となった。
意味 (1)おとずれる(訪れる)。たずねる(訪ねる)。「訪問ホウモン」「来訪ライホウ」 (2)たずね求める。「探訪タンポウ」「歴訪レキホウ」 (3)はかる。「訪議ホウギ」(質問して相談する。はかりごとをする)
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方 ホウ・かた 方部
<参考>耤セキ(人がスキで耕す姿)の甲骨文
解字 甲骨文第一字は、踏むための柄が左右に張り出たスキの象形。耤セキの甲骨文に描かれているスキと似ている。甲骨文第二字は左右の柄の端を強調した形。金文以降の変化で最終的に「方」になった。意味は、スキの進む方向、スキを使うやりかた(方法)、スキを使う土地(地方)、スキでたがやした四角な土地(方形)などから出てくる。
意味 (1)かた(方)。むき。「方角ホウガク」「方向ホウコウ」 (2)分野。部分。「方面ホウメン」 (3)ある土地。「地方チホウ」 (4)四角。「方形ホウケイ」 (5)わざ。やりかた。「方法ホウホウ」「医方イホウ」 (6)[国]ころ・時分。「夕方ゆうがた」 (7)[国]かた(方)。他人をさす。「お乗りの方」「敵方てきがた」
参考 方は部首「方ほう・ほうへん」になる。漢字の左右や下に付き、主に旗の意味を表す。旗は「方+𠂉+其」から成るが、「方+𠂉」の部分が古代文字では旗竿と吹き流しに当たる。[もう一つの部首 「㫃(方𠂉)エン」<旗がなびくさま>を参照]そこで旗の意味の字は、すべて方𠂉がつくから必然的に方部に属することになる。
常用漢字で方ホウ・施シ・旅リョ・旋セン・族ゾク・旗キの6字あるが、部首を除くとすべて方𠂉であることから旗に関する意味がある。約14,600字を収録する『新漢語林』は、28字を収録するが旁ボウ・於オなどを除くと、ほとんど方𠂉が含まれ旗の意味である。
並んでスキを使う「耦耕グウコウの図」(中国農業博物館の展示から)
https://new.qq.com/rain/a/20210822a07oc300
「商周の時期は井田(田を九等分し中央の田を公田とし、その他を私田とする方式)の耕作が連綿として続いた。男たちは三人が一緒に耕作した。人々はこのような耕作方式を協田と呼んだ。西周の時期に二人が一緒に耕作する耦耕となった。卜辞中、已にこの記載がある」(説明文の要旨):この説明に全て賛同するわけではないが、耦耕という言葉がある以上、存在したことは確かである。私は、耦耕は二人並んで田起こしするほうが横の人が起こしたひび割れを共有でき効率がいいから存在したと思う。牛に引かせるスキが普及するまで続いたのではないだろうか。(私見)
イメージ
並んでスキを使うことから「左右に」(方・房・防・紡・妨・仿・倣・彷・舫)
意味(4)の「四角」(坊)
「四方に」(芳・放・肪・訪)
音の変化 ホウ:方:仿・倣・彷・舫・芳・放・訪 ボウ:房・防・紡・妨・坊・肪
左右に
房 ボウ・ふさ 戸部
解字 「戸(一枚とびら)+方(左右に)」 の会意形声。堂(母屋)の左右に張り出た一枚とびらの部屋「東房」など。大きな部屋に付属する小部屋が原義。のち、住まい・家の意。また、内部が小部屋状に分かれたものや、房(ふさ)の意味にもなる。
意味 (1)へや。ねま。小さな部屋。「独房ドクボウ」「女房ニョウボウ」(女官の部屋。婦人。妻) (2)寝屋。「房事ボウジ」 (3)いえ。すまい。「山房サンボウ」「房屋ボウオク」(家屋) (3)部屋のように区切られたもの。「心房シンボウ」「蜂房ホウボウ」(蜂の巣) (4)ふさ(房)。①たっぷりついた実が垂れさがってみえるもの。②糸を束ね、先を散らしたもの。「花房はなぶさ」「一房ひとふさ」 (5)星の名。「房宿ボウシュク」(二十八宿のひとつ。そいぼし)
防 ボウ・ふせぐ 阝部
解字 「阝(土盛り)+方(左右に)」 の会意形声。左右に長くのびる堤。
意味 (1)つつみ。土手。「堤防テイボウ」 (2)ふせぐ(防ぐ)。そなえる。まもる。「予防ヨボウ」「防衛ボウエイ」「防空ボウクウ」
紡 ボウ・つむぐ 糸部
解字 「糸+方(左右に)」 の会意形声。左右に繊維を入れかえて縒り合わせ、糸にする。
意味 つむぐ(紡ぐ)。繊維をより合わせて糸にする。「紡績ボウセキ」(糸をつむぐ)「紡織ボウショク」(糸を紡ぐことと織ること)「混紡コンボウ」(質の異なる糸を混ぜて紡ぐ)
妨 ボウ・さまたげる 女部
解字 「女+方(左右に)」 の会意形声。女が左右に手を広げて立ちはだかること。
意味 さまたげる(妨げる)。じゃまをする。「妨害ボウガイ」「妨遏ボウアツ」(さまたげとめる)
仿 ホウ
解字 「イ(人)+方(左右に)」の会意形声。左右の人と、にていること。
意味 (1)にている。「仿彿ホウフツ」(①よく似ているさま。②ありありと思い浮かぶさま) (2)(倣ホウに通じ)まねる。 (3)(彷ホウに通じ)さまよう。
倣 ホウ・ならう イ部
解字 「仿(にている)+攵(動作)」の会意形声。仿は左右の人と似ていること。倣は似ようとする動作。
意味 ならう(倣う)。まねる。「模倣モホウ」
彷 ホウ・さまよう 彳部
解字 「彳(ゆく)+方(左右に)」 の会意形声。右や左にあてもなく歩くこと。
意味 (1)さまよう。「彷徨ホウコウ」 (2)(仿ホウに通じ)にかよう。ほのか。「彷彿ホウフツ」
舫 ホウ・もやう 舟部
解字 「舟(ふね)+方(左右にならぶ)」 の会意形声。左右に並んだ舟。
意味 (1)舟。もやいぶね(舫)。「舫船もやいぶね」(二隻並べてつないだ舟)(2)もやう(舫う)。①舟と舟をつなぎあわせる。②杭などに船をつなぎとめる。
四角い
坊 ボウ・ボッ 土部
解字 「土+方(四角に)」 の会意形声。四角に区切った土地。
意味 (1)まち。市街。「条坊ジョウボウ」(都の大路・小路によって分けられた区画)「坊間ボウカン」(街のなか) (2)てら。寺院の内部も坊に分かれていた。僧侶のすまい。また、僧。「僧坊ソウボウ」「坊主ボウズ」 (3)[国]男児を親しんで呼ぶ語。「坊や」「坊ちゃん」
四方に
芳 ホウ・かんばしい 艸部
解字 「艸(草)+方(四方に)」 の会意形声。四方に草花のかおりが伝わること。
意味 (1)かんばしい(芳しい)。かぐわしい(芳しい)。よい香りがする。「芳香ホウコウ」「芳醇ホウジュン」(酒がかおり高く味のよいこと) (2)評判がよい。「芳名ホウメイ」 (3)他人の物事に対する敬称。「芳志ホウシ」
錺<国字> かざり 金部
錺引手かざりひきて(「錺屋」HPより)
解字 「金(金属)+芳(はなやか)」の会意。芳は花が咲き乱れ香りが四方に伝わること。花が咲き乱れるようにはなやかな金属の細工物をいう。
意味 かざり(錺)。金属を加工して装飾をほどこしたもの。「錺金具かざりかなぐ」(襖ふすまの引手や、蝶番ちょうつがい、などの金具に装飾性をもたせたもの)「錺細工かざりさいく」「錺職かざりしょく」(錺を作る職人。錺師。)
肪 ボウ・あぶら 月部にく
解字 「月(からだ)+方(四方に)」 の会意形声。身体が太ってまわりについてくるあぶら。
意味 あぶら(肪)。動物の体内のあぶら。「脂肪シボウ」
放 ホウ・はなす・はなつ・はなれる・ほうる 攵部
解字 「攵(うつ)+方(四方に)」 の会意形声。四方に打ちはなつこと。
意味 (1)はなす(放す)。はなれる(放れる)。はなつ(放つ)。ときはなす。「放牧ホウボク」「解放カイホウ」「放棄ホウキ」 (2)ほうる(放る)。おいやる。「追放ツイホウ」 (3)発する。送り出す。「放送ホウソウ」「放射ホウシャ」
訪 ホウ・おとずれる・たずねる 言部
解字 「言(はなす)+方(四方に)」 の会意形声。[説文解字]に「汎(ひろ)く謀(はかる)を訪と曰(い)う」とあり、ひろくあちこちに行き人と話をすること。転じて、訪れる意となった。
意味 (1)おとずれる(訪れる)。たずねる(訪ねる)。「訪問ホウモン」「来訪ライホウ」 (2)たずね求める。「探訪タンポウ」「歴訪レキホウ」 (3)はかる。「訪議ホウギ」(質問して相談する。はかりごとをする)
<紫色は常用漢字>
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