漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「公コウ」<宮廷の廷前>と「松ショウ」「訟ショウ」「頌ショウ」「翁オウ」

2023年04月20日 | 漢字の音符
  鶲オウ・菘すずな、を追加しました。
 コウ・ク・おおやけ  八部

解字 甲骨文字・金文は、「八(ひろがるさま)+囗(建物)」の会意。建物とその前に広がる庭を表し、儀礼を行なう宮廷の廷前をいう[字統]。篆文から口⇒ムに変化した。公は、宮廷の廷前で行なわれる諸活動であることから、本来の意味は政治的な権力をもつ層(天子・諸侯)の活動で公権力のこと。のち、「私」の概念と対する公平・公正の意となった。
意味 (1)おおやけ(公)。①国家や政府に関すること。「公営コウエイ」「公職コウショク」 ②みなが共にすること。(⇔私)。「公共コウキョウ」「公益コウエキ」 (2)きみ。天子。諸侯。また、高位高官。「公子コウシ」(諸侯や貴族の子)「公主コウシュ」(天子のむすめ。天子が娘を嫁がせるとき、三公(高官)にその事をつかさどらせたから)「公卿クギョウ」(高位高官の人)
覚え方 「八(左右に開く)+ム(私の略体)」の会意。私有しているものを開いて公にする。

イメージ 
 「宮廷の廷前」
(公・衮・頌・松・鬆・菘)
 「おおやけ」(訟) 
 「形声字」(翁・鶲・瓮・滾)
音の変化  コウ:公  コン:衮・滾  ショウ:頌・松・鬆・訟  オウ:翁・鶲・瓮  すずな:菘

宮廷の廷前 
衮[袞] コン  衣部  ※衮の上は一に見えるが、亠である。
解字 「衣(ころも)+公(宮廷の廷前)」 の会意形声。衣は上(亠)と下に分かれている。宮廷の廷前の行事に天子や三公(高官)がまとう衣服。特に天子の衣を言う。衣の中が「八+口」(本来の公の形)の袞コンも通用する。

明の皇帝の衮衣コンイ(ウィキペディアより)
意味 (1)竜の縫いとり模様のある天子の礼服。「衮衣コンイ=袞衣」「衮竜衣コンリュウイ=袞竜衣」 (2)高官の礼服。高官。
 コン・たぎる  氵部
解字 「氵(水)+袞(コン)」 の形声。袞コンは衮コンの異体字で、公の古形を残す字。氵(水)を付け、コンコンと重ねて、豊かに流れる意の擬声語の用法に用いる。「滾滾コンコン」「混混コンコン」「渾渾コンコン」は同じ意味を表す。
意味 たぎる(滾る)。わきたつ。「滾滾コンコン」(水が湧き出て流れるさま)
 ショウ・ジュ・ほめる  頁部
解字 「頁(ひざまずく姿)+公(宮廷の廷前)」 の形声。頁ケツは、頭を強調したひざまずく人の姿。ふつう頭や顔の意で部首となるが、ここではひざまずく姿を表す。頌ショウは、公の場である宮廷の廷前で、天子に向かい、ひざまずいて声を出して祝いの言葉をとなえる儀礼をいい、となえる・ほめる意となる。音符「頁ケツ」を参照。
意味 (1)ほめる(頌める)。たたえる。「頌春ショウシュン」(新年をたたえて祝う)「頌徳ショウトク」(人の徳をたたえる)「頌詩ショウシ」(ほめたたえる詩)「頌寿ショウジュ」(長寿をたたえる) (2)となえる。「読頌ドクショウ」(読みとなえる) (3)「頌偈ジュゲ」とは、仏教経典で詩の形で仏の徳をたたえたもの。
 ショウ・まつ  木部
解字 「木(き)+公(=頌。ほめる)」 の会意形声。常緑で高くそびえるさまから吉祥の木とされ、頌詩ショウシ(ほめたたえる詩)に歌われる木である松。
意味 まつ(松)。マツ科の常緑高木。長寿や節操を象徴するものとされ、古来尊ばれる。「松籟ショウライ」(松風の音)「松明たいまつ」「松茸まつたけ
 ショウ・す  髟部
解字 「髟(かみのけ)+松(松の葉)」 の会意形声。松の葉のように隙間だらけの髪の毛の意。 
意味 (1)髪の毛が一本ずつばらばらに生える。髪のみだれているさま。 (2)ゆるい(鬆い)。あらい。隙間があいてゆるんでいる。「粗鬆ソショウ」(おおざっぱであらい。すかすか) (3)[国]す(鬆)。時期が過ぎたダイコン・ゴボウなどの芯にできる細かい穴。「骨粗鬆症コツソショウショウ」(骨に小さな穴が多発する症状)
 スウ・シュウ・すずな  艸部
すずな(「季節の花300」より)
解字 「艸(野菜)+松(松の葉)」の会意形声。常緑針葉樹である松の葉のような深い緑色の葉をつける蕪かぶらをいう。日本で「すずな」とよばれ春の七草のひとつ。
意味 (1)すずな(菘)。鈴菜すずな。青菜あおな・蕪かぶの別称。「すずな」の語源は、白い根の部分が鈴のようにまるいからとされる。 (2)とうな(唐菜)。野菜の名。つけな。

おおやけ
 ショウ・うったえる  言部
解字 「言(いう)+公(おおやけの場)」 の会意形声。おおやけの裁きの場で発言すること。
意味 (1)うったえる(訟える)。うったえ。「訴訟ソショウ」「訟廷ショウテイ」(裁判所)「訟獄ショウゴク」(うったえごと。訟も獄も、うったえる意) (2)あらそう(訟う)。「争訟ソウショウ」(訴訟を起こして争う)

形声字
 オウ・おきな  羽部
解字 「羽(はね)+公(コウ)」の形声。コウという名の鳥の羽。鳥のくび毛をいう。それが長いひげを垂らした長老との連想から老人の意となった。発音はコウkouからk が取れたオウouに変化。
意味 (1)鳥のふわふわしたのどの毛。 (2)男の老人に対する尊称。おきな(翁)。「老翁ロウオウ」「翁草おきなぐさ」(①草の名。キンポウゲ科の多年草。②書名。江戸後期の京都の随筆)
 オウ・ひたき  鳥部

ジョウビタキ(「日本の四季」より)
解字 「鳥(とり)+翁(オウ)」の形声。オウという名の鳥。中国南北朝時代の[玉篇]は「鳥の名。音は翁」とする。現在の中国では「形は小さく、上面は黒褐色で下面は淡白色。嘴くちばしは稍し扁平。害虫をたべる益鳥」とする。日本では、ひたき(鶲)と呼ばれる。
意味 ひたき(鶲)。ヒタキ科の野鳥。飛んでいる虫をとる。色彩が美しく、よくさえずる。鳴き声の「ヒッ・ヒッ」が火打石を打つ音に似ているために生じたとされる。ジョウビタキ、ルリビタキ、キビタキなど多くの種類がある。
 オウ・もたい  瓦部
解字 「瓦(土焼き)+公(コウ⇒オウ)」 の形声。公に翁オウの音がある。オウは甕オウ(かめ)に通じ、瓦(土焼き)のかめをいう。甕オウと同じ。
意味 もたい(瓮)。かめ(瓮)。みか。水や酒などをいれるかめ。「瓮水オウスイ」(かめの水)「一瓮村醪イチオウ ソンロウ」(ひとかめの田舎のどぶろく)
<紫色は常用漢字>

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