漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「辰シン」<石製の農具>と「振シン」「娠シン」「唇シン」「震シン」

2023年04月24日 | 漢字の音符
 これまで多くの漢字字典は、辰を二枚貝がカラから足をだしている形の象形としてきた。ところが落合淳思氏の[甲骨文字辞典]は、辰を石製の農具の象形とし、これまでの説を覆した。これにより辰を含む辱ジョク・農ノウの音符字は、石製の農具説でより明快な解字が可能となった。 

 シン・たつ  辰部

 ②
①新石器時代の石製農具。②新石器時代・良渚文化の犂。
(中国のネット検索画面より) 
解字 甲骨文字は石の農具のかたち。文字に石の原文である厂の角が三角形になった形が含まれている[甲骨文字辞典]。先端の三角形から延びる二本の線は農具の柄か。金文は甲骨の第2字がさらに変化し、篆文をへて現代字の辰になった。甲骨文字の時代から仮借カシャ(当て字)されて十二支の5番目の辰(たつ)となっている。
 農具であることから、農業生産に関するとき(辰)の意味となり、さらに辰(とき)を支配する天体の日・月・星・北極星などの意味にひろがった。
 なお、石製農具である辰は、音符字のジョク(農具を手で使う)ノウ(農具で田をたがやす)の字にも用いられている。
意味 (1)たつ(辰)。十二支の第5位。十干と組み合わせて年月日を表す。時刻では午前八時ごろ。またその前後一時間。方位では東南東。動物では龍。「辰巳たつみ」(東南の方角) (2)とき(辰)。時間。時期。日。あさ。「辰刻シンコク」(時刻)「芳辰ホウシン」(よいとき) (3)日・月・星。また、その総称。天体。北極星。「辰宿シンシュク」(星座)「星辰セイシン」(ほし。星座)「辰極シンキョク」(北極星)「辰駕シンガ」(天子の車。天子を北辰にたとえていう)(4)地名。「辰砂シンシャ」(水銀と硫黄の化合物。水銀や赤絵具の原料。辰州(湖南省)に産する朱砂)

イメージ
 「たつ・北極星(仮借)」
(辰・蜃・宸・晨) 
 石製農具が「うごく」(振・娠・唇・賑・震)

音の変化  シン:辰・蜃・宸・振・娠・唇・賑・震・晨

たつ・北極星(仮借) 
 シン  虫部
解字 「虫(動物)+辰(たつ)」の会意形声。たつに似た伝説上の動物。また、オオハマグリにも当てられた。
意味 (1)みずち(蛟)。想像状の動物で竜の一種。(2)おおはまぐり(大蛤)。(3)「蜃気楼シンキロウ」とは、みずち(蛟)や、おおはまぐり(大蛤)の吐く気(息)によって生ずると考えられた現象。海上や沙漠で光線の異常屈折のため遠方の楼閣や景色が空中に現れる。「蜃楼シンロウ」(=蜃気楼)「蜃景シンケイ
 シン 宀部
解字 「宀(たてもの)+辰(北極星=天子)」の形声。北極星は北の空にあり、そこを中心として星々が巡っているように見えるので、辰は宇宙の中心と考えられ、天子に当てられた。宸は天子の住まいを表す。
意味 (1)天子のすまい。「紫宸殿シシンデン」(宮中の正殿) (2)天子に関する事柄に添える語。「宸翰シンカン」(天子が自ら書いた文書)「宸筆シンピツ」(天子の自筆)
 シン・あした  日部
解字 「日(太陽)+辰(=辰刻。とき)」の形声。日がのぼる前の時刻をいう。明け方、夜明けの意。
意味 (1)あした(晨)。よあけ。あさ。「晨旦シンタン」(早朝。晨も旦も、あさの意)「晨起シンキ」(朝早く起きる)「晨星シンセイ」(明け方の空に残る星) (2)とき(晨)。夜明けのときを告げる。「牝鶏之晨ヒンケイノシン」(メンドリが夜明けのときを告げること。ときを告げるのは雄鶏。めんどりがときを告げるとは女性が権力をもつこと。中国では王妃や皇后などが権勢を振るうと国家は乱れると考えられた)

うごく
 シン・ふる・ふるう・ふれる  扌部
解字 「扌(手)+辰(うごく)」の会意形声。手をふって動かすこと。
意味 (1)ふる(振る)。ふるえる。「振動シンドウ」「振幅シンプク」 (2)ふるう(振るう)。盛んになる。「振興シンコウ」 (3)ふり。ふるまい。「人の振り見てわが振り直せ」
 シン・はらむ  女部
解字 「女(おんな)+辰(うごく)」の会意形声。女が身ごもり胎児が動くこと。
意味 はらむ(娠む)。みごもる。「妊娠ニンシン
 シン・くちびる  口部
解字 「口(くち)+辰(うごく)」の会意形声。口のまわりを囲む柔らかい部分。ここをうごかして声を出す。
意味 くちびる(唇)。「口唇コウシン」「紅唇コウシン
 シン・にぎわう・にぎやか  貝部
解字 「貝(財貨)+辰(うごく)」の会意形声。財貨のやり取りが盛んで賑やかなこと。
意味 にぎやか(賑やか)。にぎわう(賑わう)。「殷賑インシン」(盛んでにぎやか)「賑給シンキュウ」(貧民にほどこして賑わすこと)
 シン・ふるう・ふるえる  雨部
解字 「雨(あめ)+辰(うごく)」の会意形声。雨の中をビリビリと空気をふるわせて落ちるカミナリの震動をいう。
意味 (1)ふるえる(震える)。ふるう(震う)。ゆれ動く。「震動シンドウ」「地震ジシン」 (2)ふるえおののく。おそれる。「震撼シンカン」(震え動かす) (3)「地震」の略。「震源シンゲン
<紫色は常用漢字>

参考
ジョク(石の農具でくさぎる)
ノウ(田を石の農具で耕す)

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