漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「雁ガン」と「贋ガン」

2023年04月06日 | 漢字の音符
 解字を改めました。
大空をカギ形になって飛行する鳥


 ガン・かり  隹部ふるとり 

ガン(「ネイチャーエンジニア いきものブログ」より)

解字 「厂(ガン)+イ(ひと)+隹(とり)」の会意形声。[說文解字]は「鳥也(なり)。隹とりに从(したが)い、人に从(したが)う。厂(ガン)の聲(声)。発音は五晏切(ガン)。また[同注]は「臣鉉ゲン(=徐鉉。南唐・宋の文学者)等曰(いわ)く:雁。時を知る鳥。大夫タイフ(公卿に次ぐ家柄)以(もっ)て摯(あいさつの贈り物)と爲(な)す。昬禮(婚礼)に之(これ)を用いる、故に人に从(したが)う」とする。要するに、人が隹を用いるので「イ隹」となり、これに発音をあらわす厂(ガン)がついた字である。(飛ぶときに厂の形になる、と覚えることもできる)
 また、雁という鳥は中国で「時を知る鳥」(春分を過ぎると北に向かってへ飛び、秋分以後に南へ帰ってくる鳥)であり、大夫タイフ(公卿に次ぐ家柄)の者は、この鳥を時候のあいさつとして公卿など上の階級の者に摯(贈り物)として用いた。
 なお、雁は渡りをするとき雄雌がいつも一緒であると考えられ、このことから男女の結婚に際しても摯(贈り物)として用いられた。具体的には結納の品物として新郎が雁(木製)を持って花嫁の家にゆき、つがいの雁を花嫁の両親に差し上げる儀式があり、これを「奠雁テンガン」といった。
意味 (1)がん(雁)。かり(雁)。カモ科の大形の鳥の総称。カモに似ているが、ガンの方が大きくて、相対的にくびと脚が長い。羽色は種類によって異なるが雌雄同色。飛ぶときはかぎ形をなすことが多い。ほとんどが北半球の北部で繁殖し、秋に南方へ渡る。「雁が音・雁金かりがね」(①雁の鳴き声。転じて雁。②紋所の名)「帰雁キガン」(春に北へ渡る雁)「秋雁シュウガン」(秋に北から南にわたる雁)「落雁ラクガン」(①空から下りる雁。②型に押して固めた干菓子) (2)雁の飛ぶときの並び。V字型や階段の一段型あるいはその連続型。「雁行ガンコウ」(雁がV字形に列をなすさま)「雁序ガンジョ」(①飛ぶ雁のような整然とした序列。②兄弟のたとえ)「雁木ガンギ」(①船着き場の階段のある桟橋。②雪の多い新潟県で、町屋の庇(ひさし)を長くして柱で支え(厂型)、その下を通路としたもの) (3)贈り物にする雁。「奠雁テンガン」(結婚の際、新郎側から新婦側に渡される木製の雁)「木雁モクガン」(木製の雁。婚礼の贈り物として用いる。この風習は陸続きの朝鮮半島にも伝わり、李朝時代に盛んに行われた。[木雁の画像検索結果])

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 「鳥のガン」
(雁)
 「贈り物のガン」(贋)
音の変化 ガン:雁・贋

 ガン・にせ  貝部
解字 「貝(財貨)+雁(贈り物のガン)」の会意形声。この字の雁は摯(あいさつの贈り物)としての雁。雁が北から飛来し捕獲できる季節になると、大夫タイフ階級の人は雁を手にいれ、上司である公卿に贈り物とする。中国ネットを見ると、雁が入手できないときは鵞鳥ガチョウを贈ることもあったとする。
 ここからは私の想像であるが、生きた野禽や家禽を入手できない場合、財貨(貝=金銭)を渡すことがあったのではなかろうか。その際は「雁が手に入らないので・・・。これは本物の雁ではなく「にせもの」ですが、お受け取りください。」と言って渡したのであろう。そこから「贋にせ」の意味が発生したとおもわれる。
意味 にせ(贋)。にせもの。本物に似せてつくった物。「贋作ガンサク」「贋造ガンゾウ」「贋鼎ガンテイ」(にせのかなえ。斉が魯国に国宝の鼎を求めたのに対し、にせ物を与えた故事から)「贋本ガンポン」(にせの書や画)「贋札にせさつ」「贋金にせがね」(偽造や変造した貨幣)「贋物にせもの」「真贋シンガン」(本物と偽物)

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音符「妻サイ」と「凄セイ」「棲セイ」「褄つま」と「疌ショウ」「捷ショウ」「睫ショウ」

2023年04月03日 | 漢字の音符
  棲の解字を改めました。
 サイ・つま  女部
          
解字 甲骨文は、頭髪にカンザシをいくつもさした女をあらわす。甲骨文字で既に「つま」の意味になっているという[甲骨文字小字典]。篆文は、カンザシが屮のかたちになり、その下に手(ヨの出たかたち)がつき、カンザシを手でつけているかたち。現代字はカンザシが十に変化した妻になった。頭髪にたくさんカンザシを加えて髪をかざった女は、婚儀のときの盛装であり結婚した女性を示す。妻を音符に含む字は、夫と「そろう」イメージを持つ。
意味 (1)つま(妻)。夫の配偶者。「夫妻フサイ」「妻帯サイタイ」「正妻セイサイ」 (2)めあわす。よめにやる。
参考 日本語の「つま」は、つま(端=はし・末端)の意から出ている。岩波古語辞典は「結婚にあたって本家の端(つま=はし)に妻屋を建て住む者の意。結婚の相手となるもの。男女ともに言う。」とあり、日本で古くは夫も「つま」と呼んだ。また、爪(つめ)も「つま(爪)」というのは足や指の末端にあるからで、「爪(つま)はじき」「爪先(つまさき)」などの言葉に残っている。

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 「つま」
(妻) 
  夫と「そろう」(凄・悽・褄)
 「形声字」(棲)
音の変化  サイ:妻  セイ:凄・悽・棲  つま:褄

そろう
 セイ・すごい・すさまじい・すごむ 冫部
解字 「冫(こおり)+妻(そろう)」の会意形声。寒さ(氷)がそろう意で、さむい意。転じてすさまじいさまを言う。
意味 (1)さむい。 (2)すさまじい(凄まじい)。「凄惨セイサン」(むごたらしい)「凄絶セイゼツ」(例えようもないほどすさまじい) (3)[国]すごい(凄い)。「凄味すごみ」「凄腕すごうで」 (4)[国]すごむ(凄む)。おどすような様子をみせる。
 セイ・いたむ  忄部
解字 「忄(こころ)+妻(=凄。すさまじい)」の会意形声。凄まじいことに心を痛めること。
意味 いたむ(悽む)。かなしむ。いたましい。「悽惨セイサン」(=凄惨)「惨然セイゼン」「悽惻セイソク」(悽も惻も、いたむ意)
<国字> つま  衣部
 裾(すそ)の左右両端が褄(褄先)、そこから衿(えり)までが立褄。
解字 「衣(ころも)+妻(そろう=両方)」の会意。着物の裾の両方の端の部分。
意味 つま(褄)。長着の裾(すそ)の左右両端の部分。また、そこから衿(えり)まであがる立褄(たてづま)のこと。「褄取(つまと)り」(着物の立褄を手に取って少し持ち上げること)

形声字
 セイ・すむ・す  木部
解字 「木(き)+妻(セイ)」の形声。セイは異体字の栖セイに通じる。栖は「木+西(ざる・かご)」で、木の上のザルのような鳥の巣の意味。鳥の栖(す)・すむ(栖む)意味になる。棲セイは栖セイの西セイを同音の妻セイに置きかえた字。木の上に鳥がそろって巣をつくってすむ意。鳥に限らず、動物・人にも使う。西の元の意味はザル・カゴ。
意味 すむ(棲む)。すまう。すみか。「棲息セイソク」(生きて住む)「同棲ドウセイ」(結婚していない男女が一緒に棲む)「隠棲インセイ」(世俗を逃れて棲む) (2)す(棲)。ねぐら。鳥の巣。「棲烏セイウ」(ねぐらに帰るカラス。=棲鴉セイア

    ショウ <すばやい>
 ショウ  疋部    

解字 「妻の略体+あし」の会意。妻は、髪飾りを整えた婦人の形。その婦人の略体に、あしの形をつけた疌は、婦人が祭事に奔走する形。すばやい意となる。
意味 はやい。すばやい。

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 「すばやい」
(捷・睫)
音の変化  ショウ:捷・睫

すばやい
 ショウ・はやい  扌部
解字 「扌(手)+疌(すばやい)」の会意形声。疌は、足の動作がすばやい意。そこに手をつけて、手足の動作が機敏なこと。また、勝ショウに通じ、戦いに勝つ意もある。
意味 (1)はやい(捷い)。すばやい。「敏捷ビンショウ」(敏も捷も、すばやい意) (2)かつ。勝ちいくさ。「捷報ショウホウ」(勝ったという知らせ)
 ショウ・まつげ  目部
解字 「目(め)+疌(すばやい)」の会意形声。目をまたたくこと。またたく動作は素早く行なわれるので、睫という。また、またたきに伴いまつげも動くことから、「まつげ」の意でも使われ、この意味が主流になった。
意味 (1)またたく。 (2)まつげ(睫)。睫毛とも書く。「目睫モクショウ」(①目とまつげ。②極めて接近している所の例え)「眉睫ビショウ」(まゆと、まつげ。極めて近い所の例え)
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



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音符「郷キョウ」<向かい合う> と 「響キョウ」「饗キョウ」「卿ケイ」

2023年04月01日 | 漢字の音符
 追加訂正しました。
[鄕] キョウ・ゴウ・さと  阝部おおざと
   
解字 甲骨文と金文は、ご馳走の入った器を中心にして左右の人が向かい合ってすわり、ご馳走の席につく形。篆文は、向かい合う人⇒邑(むら)に変化し、向かい合う邑の人々が真ん中に盛られたご馳走の席につく形。近隣の村々が交流する意味を表し、さと・ふるさとの意となる。旧字は左辺が乡(邑:むら)に変化した鄕となり、現代字は郷に簡略化された。
意味 さと(郷)。ごう(郷)。ふるさと。「故郷コキョウ」「郷土キョウド」「近郷キンゴウ」 (2)ところ。場所。「異郷イキョウ」「理想郷リソウキョウ」 (3)行政区画の単位。周代で12,500戸ある地。「郷県キョウケン」(郷および県。県は郷より小さい)

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 向かい会ってすわり「交流する」(郷・饗・響)
 「向かい会ってすわる」(卿・嚮)
音の変化  キョウ:郷・饗・響・嚮  ケイ・キョウ:卿

交流する
 キョウ・あえ・もてなす  食部
解字 「食(たべる)+鄕(交流する)」の会意形声。人々が向かい合って食事をして交流する事。転じて、もてなす意ともなる。鄕⇒郷になった簡略体もある(ネットに出ない)。
意味 (1)あえ(饗)。人々が集まって宴会をすること。ごちそう。もてなし。「饗膳キョウゼン」(もてなしのご馳走) (2)もてなす(饗す)。ごちそうする。「饗応キョウオウ」(ご馳走してもてなす。=供応) (3)「饗庭あえば・あいば」(姓)
 キョウ・ひびく  音部
解字 「音(おと)+郷(交流する)」の会意形声。音が互いに交流するようにひびき合うこと。
意味 (1)ひびく(響く)。ひびき。「音響オンキョウ」「反響ハンキョウ」「響動(どよめ)く」「交響曲コウキョウキョク」(管弦楽のための大規模な楽曲。シンフォニー(symphony)の訳語) (2)他に変化をもたらす。「影響エイキョウ」(他に変化が及んで反応が現れること)

向かい会ってすわる
 ケイ・キョウ・きみ  卩部   

解字 甲骨文と金文は郷と同じ形で、左右に向かい合ってすわった人がご馳走の席につく形。篆文で左右の人が立ち姿に近い形になり、隷書(漢代)で卯ボウ(同じものが向きあう形)に近くなり楷書で卿になった。真ん中の「ご馳走」は、郷の旧字「鄕」がそのまま使われている。右半分が即になった簡略体もある(ネットに出ない)。郷が向かい合う村がご馳走の席で交流する意味であるのに対し、卿はご馳走の席に参列した村の代表をいい、のちに高官の意味になった。
意味 (1)政治を行う高官。大臣。きみ(卿)。「公卿クギョウ・くげ」(朝廷に仕えた高位の貴族)「卿相ケイショウ」(天皇を補佐して政治を行う大臣)「卿士ケイシ」(卿・太・武士の総称) (2)人に対する尊称。「卿子ケイシ」(尊称)
 キョウ・むかう・むく・さきに・ひびく  ロ部
解字 「向(むく・むかう)+鄕(むかいあう)」 の会意形声。向かい合う意を向(むく)を付けて強調した字。また同音の響キョウに通じ、ひびく意もある。
意味 (1)むかう(嚮かう)・むく「嚮往キョウオウ」(①向かってゆく。②慕う・崇拝する)「北嚮戸ホクキョウコ」(北向きの窓から日が差し込む家。北回帰線以南の家。夏至に太陽が真上にくる北回帰線・北緯23度5分より以南では、北の窓から日が差しこむ。中国では広東省広州市などが線上にある) (2)さきに(嚮に)。まえに。「嚮後キョウゴ」(今から後、将来)「嚮導キョウドウ」(先に立って導く)「嚮日キョウジツ」(さきのひ。さきごろ)  (3)ひびく(=響)「嚮然キョウゼン」(ひびくさま)
<紫色は常用漢字>


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