漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「㥯イン」<うれえる> と 「隠イン」「癮イン」「穏オン」

2024年05月11日 | 漢字の音符
 イン・オン  心部 yǐn


  上が㥯イン、下が巫
解字 㥯インの篆文の上部は「爫(上の手)+工+又(手)」で、両手で呪具の工を持つ形。下の巫は、甲骨文と金文は呪具である工2つを組み合わせた形。古文(春秋戦国時代)は、工の両側に「人+口(▽)」を向きあわせて配し、下に両手をつけている。「人+口」は召で招く意で呪具を両手でもち神を招いている形。篆文で工の両側に人が向き合う形になり、現代字は「人+工+人」の巫になった。工をもち、神を招く巫女(みこ)を表す。ここで興味深いのは古文の下に両手が描かれていることである。工を両手でもつ形は㥯の上部と同じである(持ち方は異なる)。これは呪具を両手でもち神を招いている形ではないのか。とすると、下に心をつけた㥯インは何を意味するのか。[説文解字]は「謹(つつし)む也(なり)」とする。他の辞書をみると、①うれえる。②つつしむ。③かなしむ。などとなっているが熟語はない。おそらく神のお告げを見た巫女は、お告げの内容が良くなかったので、憂えたのであろう。
意味 ①うれえる。②つつしむ。③かなしむ。

イメージ 
 「うれえる」(㥯・隠・
 「形声字」(穏)
音の変化  イン:㥯・隠・  オン:穏

うれえる
 イン・かくす・かくれる  阝部 yǐn
解字 旧字はで「阝(おか)+㥯(うれえる)」の会意形声。神のお告げをみて、うれえた巫女が、①阝(おか)の裏側に隠れること。また、転じて、②隠すこと。二つの意味がある。[説文解字]は「蔽(おお)う也。㥯インの聲(声)」と覆い隠す意とするが、隠れる意味の熟語も多い。また、うれえる意味も残っている。新字体は「阝+ノツヨ心」の隠に変化。
意味 (1)かくす(隠す)。おおいかくす。「隠蔽インペイ」(おおいかくす)「隠語インゴ」(仲間だけに通じる語)(2)かくれる(隠れる)。「隠居インキョ」「隠退インタイ」(隠れ退く)「隠滅インメツ」(隠れてみえない)(3)うれえる。あわれむ。「惻隠ソクイン」(いたわしく思う。あわれみ)(4)地名。「隠岐おき」(島根県の島。旧国名)
 イン  疒部 yǐn
解字 「疒(やまい)+(かくれる)」の会意形声。隠れている病の意で、中毒症・悪癖をいう。
意味 (1)中毒症状。悪癖。「煙癮エンイン」(タバコ中毒)「酒癮シュイン」(酒ぐせ)(2)過敏症。皮膚病の一種。「癮疹インシン」(過敏症による皮膚疾患。蕁麻疹)

形声字
 オン・おだやか  禾部 wěn
解字 旧字はで「禾(いね)+(イン⇒オン)」の形声。オンは温オン(おだやか)に通じ、禾(いね)が実り、暮らしが穏(おだ)やかなこと。新字体は「禾+ノツヨ心」の穏に変化。
意味 おだやか(穏やか)。やすらか(穏らか)。ゆったりしている。「穏健オンケン」(穏やかで健全)「穏当オントウ」(穏やかで妥当な)「穏和オンワ」(穏やかで和やか)「穏便オンビン」(穏やかに事を荒立てない)「安穏アンノン」(安らかに穏やか。発音は「アンオン」の連声レンジョウ変化。an-on⇒an-non )
<紫色は常用漢字>

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音符「肉ニク」<にく>「炙シャ」と「宍ニク」<しし>と「肉月部」

2024年05月09日 | 漢字の音符
 ニク・ジク  肉部 ròu           

上は肉、下は月
解字 上図の肉は、切り取った獣肉の象形。甲骨文字からあるが、金文と篆文で月(下図)と似たかたちになる。現代字は肉となり、はっきり区別できるが、篆文で部首として使われた字は、現在も月で表されるので、この月は肉月(にくづき)とよばれる。
意味 (1)にく(肉)。み。しし。特に食用の獣肉。「肉食ニクショク」(2)生身のからだ。「肉体ニクタイ」「肉薄ニクハク」(身をもって迫る。薄は迫る意)(3)血のつながった。「肉親ニクシン」(4)じかに。器具などを使わない。「肉眼ニクガン」「肉声ニクセイ」(5)肉に似たやわらかく厚みのあるもの。「果肉カニク」「朱肉シュニク

イメージ 
 「にく」
(肉・炙)
 「その他」(宍)
音の変化  ニク:肉・宍  シャ:炙

に く
 シャ・セキ・あぶる  火部 zhì

解字 「火+月(にく)」の会意。月は肉月のかたちで肉の意。炙は、肉を火であぶる形。
意味 (1)あぶる(炙る)。火にあてて軽く焼く。「炙(あぶ)り焼き」 (2)あぶり肉。「膾炙カイシャ」(膾は、なます(中国で細かく切った生の肉)、炙はあぶり肉、ともに美味で人が賞味するもの)「人口に膾炙カイシャする」(なますとあぶり肉が多くの人に好まれるように、人々の口にのぼり(話題になり)知れ渡ること) (3)薫陶をうける。親しく教えをうける。親しく交わる。「親炙シンシャ」(親しく接して感化をうける)

その他
 ニク・しし  宀部 ròu
解字 「宀(たてもの)+六(ニク)」の形声。ニクは肉ニクに通じ、宍は肉をうる店の意。転じて肉を表す。[学研漢和]は、六ロクは江南方言でニクと混同するとしている。また一説に、中国・六朝時代に肉の変形字として成立したとされ、肉の上部⇒宀、肉内部の仌⇒六、に変化したという。この説では、宍は肉の俗字になる。
意味 (1)しし(宍)。獣類の肉。肉の俗字。「宍人ししびと」(肉類を料理する人) (2)姓。「宍戸ししど」 (3)地名。「宍粟市しそうシ」(兵庫県宍粟郡の4町(山崎町、一宮町、波賀町、千種町)が合併して2005年4月1日誕生した市。
「宍粟郡しそうグン」(播磨はりま国(今の兵庫県南西部)の郡。もと宍禾(しさわ)の郡(こおり)と云った。郡名の禾は漢代まで粟の意味であり(その後、稲の意)、宍禾の「しし・あわ」がなまって「しさわ」となり、その後、禾⇒粟に変化した宍粟(しさわ)になった。現在は宍粟しそうの発音。郡名の由来は、①山間の地であり、鹿ししと禾・粟(あわ)が多い土地。②鹿ししに遇あうことの多い土地。鹿⇒宍に、遇(あう⇒あわ)⇒禾・粟、になった、という2説がある。
「宍道湖しんじこ」(島根半島に南側にある汽水湖)
「宍道しんじ」は、宍しし(猪いのしし)+道みち(=路じ)」であり、猪が通った道の意。風土記の伝説に「当地で命(みこと)が狩をしたとき、犬に追いかけられた猪が逃げたところで、ここを宍道(ししじ⇒しんじ)という」とあり、松江市宍道町の「石宮(いしみや)神社」の神体石と鳥居の脇に鎮座する2つの巨石が猪石と犬石と名付けられている。「宍道湖しんじこ」は宍道の先にある湖の意。
<紫色は常用漢字>

参考 ニクは、部首「肉にく」になる。肉部は非常に少なく、主な字は腐(肉+音符「府」)しかない。部首「肉にく」が変形したかたちが「月にくづきである。左辺や下部に付き、肉および人の身体の意味を表す。現在、月(つき)と同じ形になっているので、見分けるには個々の字にあたって判断が必要である。この他に舟のかたちが変化した舟月がある。
常用漢字
(にく)部 2字
 ニク・ジク (部首)
 フ・くさる(肉+音符「府フ」)
肉月(にくづき)部 43字 肉や肉体の一部分などを表す。
 ユウ・ある(月+音符「又ユウ」)
 キ・はだ(月+音符「几キ」)
 ショウ・にる(月+音符「小ショウ」)
 チュウ・ひじ(月+音符「寸スン」)
 カン・きも(月+音符「干カン」)
 コ・また(月+音符「殳シュ」)
 (月+音符「支シ」)
 ケン・かた(月+戸コの会意)
 ホウ・あぶら(月+音符「方ホウ」)
 ハイ(月+音符「市ハイ」)
 タン(月+音符「旦タン」)
 ハイ・せ(月+音符「北ホク」)
 タイ・はらむ(月+音符「台タイ」)
 ホウ・えな(月+音符「包ホウ」)
 ドウ(月+音符「同ドウ」)
 キョウ・むね(月+音符「匈キョウ」)
 シ・あぶら(月+音符「旨シ」)
 キョウ・おびやかす(月+音符「劦キョウ」)
 キョウ・わき(月+音符「劦キョウ」)
 キャク・あし(月+音符「却キャク」)
 ダツ・ぬぐ(月+音符「兌エツ」)
 ノウ(月+音符「𡿺ノウ」)
 ジン(月+音符「臤ケン」)
 ワン・うで(月+音符「宛エン」)
 シュ・はれる(月+音符「重ジュウ」)
 チョウ・はらわた(月+音符「昜ヨウ」)
 フク・はら(月+音符「复フク」)
 セン・すじ(月+音符「泉セン」)
 マク(月+音符「莫ボ」)
 シツ・ひざ(月+音符「桼シツ」)
 ボウ・ふくらむ(月+音符「彭ホウ」)
 ゼン(月+音符「善ゼン」)
 オク(月+音符「意イ」)
 ゾウ(月+音符「蔵ゾウ」)
 ヨウ・こし(月+音符「要ヨウ」)
 ヒ・こえる(月+巴の会意)
 コウ・うなずく(月+止の会意)
 イク・そだつ(月+𠫓(生まれ出た子)の会意)
 (月+田の会意)
 ミャク(月+𠂢ハイの会意)
 セキ・せ(月を含む会意)
 フ・はだ(月+盧の略体)
 ノウ・よく(月を含む象形)
  このうち会意の胃・脊セキ・能ノウは音符となる。
ふな月 2字 舟やうつわの意味を表す。
 服フク・したがう(月(うつわ)+音符「𠬝フク」)
 朕チン・われ(月(うつわ)+音符「关ソウ」)

<参考>
 タ・おおい  夕部

解字 「夕(にく)+夕(にく)」の会意。肉をたくさん重ねたかたち。おおい意を表わす。夕は、夕がたの「夕」と同じ形であるが、ここでは肉の意。
意味 おおい(多い)。たくさん。「多額タガク」「多彩タサイ」「過多カタ」(多すぎる)「多寡タカ」(多い少ない)
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 「多くの肉」
(多・侈) 
 「形声字」(移)
音の変化  タ:多  イ:移  シ:侈
音符「多タ」を参照。

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音符「無ム・ブ」<両手に飾りを持って舞う人> と 「舞ブ」「憮ブ」「蕪ブ」「廡ブ」「嘸ブ」「撫ブ」

2024年05月07日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 ム・ブ・ない  灬部れっか wú

解字 甲骨文は、人が両手に飾りを持って舞うさまの象形。篆文も同じ意味を表わし、舞の原字。隷書(漢代)から形が大きく変化し現代字の無になった。もともと雨乞いの舞いを意味したが、発音のム・ブが、无(ム・ブ:亡の異体字で、ない・なしの意)に通じ、「ない」の意味に仮借カシャ(当て字)された。のち、この字に両足を外に向かって開く形の舛センを付けた舞が「まい」の字となった[字統]。
 因みに中国簡体字は无ム・ブを最大限に利用し、無⇒无wú、憮⇒怃wǔ、蕪⇒芜wú、廡⇒庑wǔ、嘸⇒呒fǔ、撫⇒抚fǔとし、舞だけが舞⇒舞wǔとして残っている。
意味 (1)ない(無い)。存在しない。「無言ムゴン」「無休ムキュウ」「無事ブジ」 (2)打ち消 しを表わす助字。「無罪ムザイ」「無名ムメイ

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 「ない(仮借)」
(無・憮・蕪・廡・嘸)
 「まう」(舞) 
 「形声字」(撫)
音の変化  ム・ブ:無  ブ:憮・蕪・廡・嘸・舞・撫

ない  
 ブ  忄部 wǔ
解字 「忄(心)+無(ない)」の会意形声。心がない状態。むなしい気持ちをいう。
意味 がっかりする。「憮然ブゼン」(がっかりするさま)
 ブ・かぶ  艸部 wú
解字 「艸(草)+無(ない)」の会意形声。艸(草)が他のものを無くすこと。すなわち雑草が生い茂り地面をかくすこと。草が茂って、あれる意となる。日本では、漢語で蕪菁ブセイの根が、かぶらであることから、かぶらに当てる。
意味 (1)あれる。雑草が生い茂る。「蕪穢ブアイ・ブワイ」(土地があれて雑草が生い茂る)「荒蕪コウブ」(土地が荒れて雑草が茂る)「荒蕪地コウブチ」(野放しの状態で自然と荒れ地になった土地) (2)みだれる。「蕪雑ブザツ」(雑然としていること)

蕪菁ブセイ(「国家中医薬名詞述語」より)
「蕪菁ブセイ」とは、中国で漢方薬として用いられる植物。根及び葉を熟(に)て搗き患部に当てたり飲用する。消化促進・解毒・腫(むく)み解消など。(3)[国]かぶら(蕪)。かぶ(蕪)。根が球状になる野菜。根と葉を食用とする。蕪菁ブセイとも書く。(4)人名。「与謝蕪村ヨサブソン」(江戸期の俳人)
 ブ・のき  广部 wǔ
解字 「广(やね)+無(ない)」の会意形声。屋根の下に建築物の部分がないところ、即ち、ひさし・のきをいう。
意味 (1)のき(廡)。ひさし(廡)。「廡下ブカ」(のきした) (2)堂の下の廊下。「両廡リョウブ」(本堂の両脇の廊下)
 ブ・さぞ  口部 fǔ
解字 「口(くち)+無(ない)」の会意形声。口から何も言葉がないこと。日本では、人が何も言わないさまを見て、推測する気持ちをあらわす。
意味 (1)何も言わない。また、そのさま。「嘸然ブゼン」(物を言わず考え込む。=憮然) (2)[日本]さぞ(嘸)。さぞや(嘸や)。さぞかし(嘸かし)。さだめし。もっともだろうよ。下に推量の語をともなう。「嘸さぞや辛かったことだろう」

まう
 ブ・まう・まい  舛部ます wǔ

解字 甲骨文は、無と同じく人が両手に飾りを持って舞うさまの象形。この字が「ない」の意味に仮借カシャ(当て字)されたため、篆文以降、下部に左右の足が開くかたちの舛センを付けて「舞う」意を表わした。現代字は「舛(左右の足が開く)+無の略体(まう)」の会意形声。
意味 (1)まう(舞う)。まい(舞)。おどる。「舞台ブタイ」「舞踊ブヨウ」「舞姫まいひめ」 (2)ふるいたたせる。「鼓舞コブ

形声字
 ブ・フ・なでる  扌部 fǔ
解字 「扌(手)+無(フ)」の形声。フは付(つける)に通じ、手を人の身体につけること、すなわち、なでる意となる。拊(なでる)と同じ。撫は慣用音。
意味 (1)なでる(撫でる)。さする。なぐさめる。「愛撫アイブ」(なでてかわいがる)「撫慰ブイ」(いたわりなぐさめる) (2)いつくしむ。「撫育ブイク」(いつくしみ育てる)(3)しずめる。おさえる。「鎮撫チンブ」(乱をしずめ民を安んじる)

カワラナデシコ(「ウィキペディア」より)
(4)[国]「撫子なでしこ」とは、ナデシコ科の多年草。秋の七草のひとつ。子を撫でるように愛しむ花の意。「大和撫子やまとなでしこ」(①ナデシコの異称、②日本女性の美称)「なでしこジャパン」(サッカー日本女子代表の愛称)
<紫色は常用漢字>

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音符「愛アイ」<心の中がいっぱいになる> と「曖アイ」「噯アイ」「靉アイ」」「薆アイ」

2024年05月05日 | 漢字の音符
アイ・いとしい・めでる  心部  ài


 上は愛、下は旡
解字 下の旡の甲骨文字は、ひざまずく人が後ろを向いて口を開いている形の象形。甲骨文字ではご馳走を盛った食器の傍らに旡が置かれ、ご馳走を食べ終わり、満腹して後ろを向いてあくびをする形の既(旣)キがあり、食べることが「すでに終わる・(お腹が)いっぱいになる」意となる。戦国は[説文解字]の古文と同じ時代で、甲骨のひざまずく人⇒脚をひろげた形に変化している。篆文の愛は「旡(満ち足りて後ろを振り返る人=既。説文古文の変化形)+心(こころ)+夊(下向きの足)」の会意。心が満ち足りて、夊スイ(足)でたたずむ人のかたち。愛の本来の意味は心に満ちる意で、転じて心に満ちる対象となる物を愛する意となる。漢代の隷書の変化をへて現代字は、旡⇒「ノツ冖」に変化し、夊⇒夂に変化した愛になった。 
意味 (1)あいする(愛する)。いとしい(愛しい)。かわいがる。「愛育アイイク」「愛犬アイケン」 (2)異性を恋いしたう。「恋愛レンアイ」 (3)めでる(愛でる)。このむ。「愛好アイコウ」「愛用アイヨウ」 (4)大切にする。「愛護アイゴ」「自愛ジアイ

イメージ  
 「あいする」(愛)
 心に満ちる意から「おおわれる」(曖・靉・薆)
 「形声字」(噯)
音の変化  アイ:愛・噯・曖・靉・薆

おおわれる
アイ・くらい  日部 ài
解字 「日(ひ)+愛(おおわれる)」の会意形声。日がおおわれて陰(かげ)ること。
意味 (1)くらい(曖い)。ほの暗い。「曖然アイゼン」(うす暗いさま) (2)かげる。日がかげって明らかでない。「曖昧アイマイ」(はっきりしない)
 アイ  雨部 ài
解字 「雲(くも)+愛(おおわれる)」の会意形声。雲でおおわれること。
意味 雲がたなびく。「靉靉アイアイ」(①雲がさかんにたなびくさま。②樹木がさかんに茂るさま)「靉靆アイタイ」(①雲がたなびいているさま。 ②暗いさま)
 アイ  艸部 ài
解字 「艸(くさ)+愛(おおわれる)」の会意形声。草におおわれること。また、おおわれてくらいこと。
意味 (1)かくす。おおう。かげる。「薆薆アイアイ」(かげる) (2)草木が茂る。「蓊薆オウアイ」(草木がしげるさま) (3)くらい。「薆然アイゼン」(くらいさま)「薆昧アイマイ」(くらい)

形声字
 アイ・おくび・ああ  口部 ǎi・ài・āi
解字 「口(くち)+愛(アイ)」の形声。口からでる息を噯アイという。また、おくび(げっぷ)の意味で用いる。
意味 (1)ああ(噯)。おや。まあ。口から出る感動や感嘆の声。また、応答を表す言葉。 (2)おくび(噯)。げっぷ。胃の中にたまったガスが口から出たもの。「噯気アイキ・おくび」「噯気(おくび)にもださぬ」(心で思っていても、そぶりに出さないこと)
<紫色は常用漢字>

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音符「孰ジュク」<煮炊きする>と「熟ジュク」「塾ジュク」 

2024年05月03日 | 漢字の音符
 ジュク・たれ・いずれ  子部

解字 甲骨文は、「先祖を祀る建物+人が手をだす形」。先祖を祀る建物は篆文で亯キョウになる字。[漢字字形史字典]は、「殷代には祭祀名として使用されており、建物で行われる儀礼の様子を示したものであろう」とする。金文は女を追加した形などが用いられたが祖先神に飲食物をたてまつって、祖先神をもてなす意を表わす。篆文は「亯キョウ(先祖を祀る建物)+羊(ひつじ)+丮ケキ(人が両手を出す形)」の会意となり、人が羊の肉の料理で祖先神をもてなす形。現代字は、亯⇒享に、丮⇒丸に変化し、羊が略されたが、羊の肉を煮炊きすることから、煮る意がある。しかし、本来の意味でなく、「たれ・だれか」「いずれ・いずれか」の意に仮借カシャ(当て字)された。
意味 (1)たれ(孰)。たれか(孰か)。 (2)いずれ(孰れ)。いずれか(孰れか)。「孰方どちら」「孰方どっち」「孰賢」(孰(いずれ)か賢(まさ)れる) 「師與商也孰賢」(師と(與)商と孰(いず)れ也(や)賢(まさ)れる」(論語)。 (3)にる(煮る)。にえる。  

イメージ 
 「仮借カシャ(当て字)」
(孰)
 「にる」(熟・塾)
音の変化  ジュク:孰・熟・塾

にる
 ジュク・うれる  灬部
解字 「灬(火)+孰(にる)」の会意形声。火でにること。孰が「たれ・いずれ」の意味に使われるようになったので、灬を付けて「にる」意とした。転じて、果実や穀物がうれる・みのる、また「じゅうぶんに」の意ともなる。
意味  (1)にる(煮る)。にえる。「半熟ハンジュク」「熟食ジュクショク」(よく煮た食べ物。また、それを食べること) (2)うれる(熟れる)。みのる。そだつ。「成熟セイジュク」「早熟ソウジュク」 (3)じゅうぶんに。よくよく。「熟練ジュクレン」「熟読ジュクドク
 ジュク  土部
解字 「土(つち)+孰(=熟。みのる・そだつ)」の会意形声。土がこいの部屋で子供を教育(みのる・そだつ)すること。
意味 (1)まなびや。学舎。昔、門の両側の建物で家中の子弟を教えたのに基づく。「塾舎ジュクシャ」「塾生ジュクセイ」「学習塾ガクシュウジュク」「義塾ギジュク」(義捐ギエン金で公益のために設けた塾) (2)もんべや(門部屋)。長屋門の両側にある土壁の建物。門番や使用人が住んだ。「門塾モンジュク」(門脇の部屋)
<紫色は常用漢字>

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音符「栗リツ」<くり> と 「慄リツ」「篥リキ」

2024年05月01日 | 漢字の音符
 リツ・くり  木部 lì       

解字 甲骨文字は木の上にトゲのある栗の実が三つある形。篆文で栗の実が𠧪になり下に木をつけた形になった。漢代の隷書でクリの実が西の変形字(覀)へと変化し、現代字で栗になった。イガのある実が木になった栗(くり)の意味を表す。また、とがったイガのイメージから、おののく・きびしい意もある。

栗のイガ(栄村・津南産)
意味 (1)くり(栗)。ブナ科の落葉高木。また、その果実。「栗子リツシ」(栗の実)「毬栗いがぐり」(①いがに包まれた栗の実、②毬栗頭の略。男の丸刈り頭)「団栗どんぐり」(カシやクヌギ・ナラなどの実の俗称。団は丸い意)「栗饅頭くりまんじゅう」 (2)おののく。(=慄)「栗栗リツリツ」(おそれるさま) (3)きびしい。「厳栗ゲンリツ」 (4)「栗鼠リス」とは、リス科の哺乳動物。ねずみ(鼠)に似て木の上にすむ。「きねずみ」ともいう) (5)姓。「栗田くりた」「栗栖くりす・くるす

イメージ 
 「くり・くりのイガ」
(栗・慄)
 「形声字」(篥)
音の変化  リツ:栗・慄  リキ:篥

くり・くりのイガ
 リツ・おそれる・おののく  忄部 lì
解字 「忄(心)+栗(くりのイガ)」の会意形声。栗には、栗のイガのイメージから、おそれる意があり、忄(心)をつけてその意味を示した字。
意味 おそれる(慄れる)。おののく(慄く)。「慄然リツゼン」「戦慄センリツ」(おそろしくて身震いする=戦慄わななく)「慄慄リツリツ」(①おそれるさま。②非常に寒いさま)

形声字
 リキ・リツ  竹部 lì
解字 「竹(たけ)+栗(リキ)」の形声。リキと呼ばれる竹製の楽器。

篳篥(楽器店のHPから)
意味 「篳篥ヒチリキ」に使われる字。篳篥とは、西域の都市国家・亀茲キジ(現在の新疆ウイグル自治区クチャ市(庫車市)付近)が起源とされる雅楽用のたて笛。ヒチリキは古代亀茲語の発音。当初、必栗ヒツリキと書いていたが、のち篳篥ヒチリキとなった。竹管に穴をあけ、上端に蘆あし製の舌ゼツを挿入した管楽器。雅楽で主旋律を演奏する。
<紫色は常用漢字>

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