(北海道新聞 7月11日)
政府のアイヌ政策推進会議が、胆振管内白老町に造るアイヌ文化継承拠点の基本構想策定を急ぐよう求めた。
文化継承拠点は「民族共生の象徴となる空間」(象徴空間)として、国立博物館や納骨・慰霊施設などを設置する案が出ている。
推進会議は、2013年度予算の概算要求に、策定に向けた調査費も盛り込むよう求め、座長の藤村修官房長官は「尊重する」とした。
まずは構想をきっちり固めることが大切だ。一歩前進と評価したい。
ただ、いつまでに造るという時期はいまだ明確ではない。
象徴空間の設置は、政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が09年7月の報告書で具体的に提言した政策の一つだ。
すでに3年が過ぎようとしている。早期実現を図るべきだ。
大事なのは、慰霊施設を造るにしても、その前に道内外の大学に研究目的で集められた遺骨の返還を進めることだ。
戦前から戦後にかけて研究者が道内などのアイヌ民族の墓から掘って持ち出した遺骨は、北大や東大などに1500体以上あるとされる。
文部科学省は今年、すべての国公立大学と保管の可能性がある私立大に保管の有無の確認を求めた。
遺族や郷里が特定できた遺骨は、返還協議や実際の返還を個別に行う必要がある。文科省には返還の指針づくりも急いでもらいたい。
本来、返すべきものなのに放置を続ければ、慰霊の場を設けるといっても、アイヌ民族の理解は得られまい。
とはいえ、返還手続きは短期間では難しい。慰霊施設の設置と同時並行で取り組むのも致し方ない。
その場合でも、遺骨をめぐる問題には最後まで誠意ある対応をするという一線を見失ってはならない。
有識者懇談会は、国の同化政策がアイヌ民族の暮らしや文化に打撃を与えてきたという歴史認識を明確にした。
国が先住民族と認定したことと合わせて、象徴空間の設置など諸政策の根拠となっている。
象徴空間は、国民にアイヌ文化や歴史を分かりやすく伝える場にしたい。アイヌ民族との交流や文化体験の充実も欠かせない。
訪れた人たちに、このような場が必要とされる理由や、政府の責任を納得してもらえる施設づくりを求めたい。
推進会議は今回、奨学金制度創設をはじめ、道外に住むアイヌ民族への支援策についても話し合った。
取り組まないといけない課題はまだいくつも残されている。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/386625.html