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アイヌ民謡の復活と伝承に取り組む4人組、マレウレウのインタヴューを更新!

2012-08-09 | アイヌ民族関連
TOWER RECORDS ONLINE (プレスリリース) - 2012年08月08日 22:10
自身のルーツ・ミュージックであるアイヌの伝統歌〈ウポポ〉の再生と伝承をテーマに活動する女子4人組グループ、マレウレウ。SPECIAL OTHERSのコラボ作品集『SPECIAL OTHERS』への参加や、トンコリ奏者のOKIのサポート、UAやキセルといったアーティストも出演したイヴェント〈マレウレウ祭り〉の開催などで話題を集めてきた彼女たちが、このたびファースト・フル・アルバム『もっといて、ひっそりね。』をリリースした。
bounceでは、伝統音楽に忠実だった前作『マレウレウ』とは打って変わり、さまざまな遊び心が取り入れられた今回のアルバムについて、メンバーのREKPO、HISAE、MAYUN KIKI、RIMRIMにインタヴューを実施! 〈紅白歌合戦〉出演を目標にポップ・フィールドで勝負する彼女たちの声にぜひ触れてほしい。
★インタヴュー
マレウレウ 『もっといて、ひっそりね。』
インタヴュー・文/桑原シロー
自身のルーツ・ミュージックであるアイヌ民謡の復活と伝承に取り組んでいるマレウレウ。これまでにUAやSPECIAL OTHERSをゲストに迎えてきたライヴ・イヴェント〈マレウレウ祭り〉なども話題の彼女たちが、このたびファースト・フル・アルバム『もっといて、ひっそりね。』をリリースした。
さまざまにイマジネーションを膨らませてくれるREKPO、HISAE、MAYUN KIKI、RIMRIMによるウコウク(輪唱)の楽しさはすでに定評があるが、この新作における彼女たちの自由で奔放な歌声の広がりは、ホント泣けるほどに気持ちが良く、なおかつ可愛らしさが増していたりもする。こんな素敵なアルバムがどうやって作られたのか。4人に話を訊いた。
4人の声が合わさったときのオリジナリティー
――初のフル・アルバムですね。手応えはどうですか?
MAYUN KIKI「前作『MAREWREW』とは違って、今回はアレンジや選曲なんかも含めて自分たち主体でやろうと。昔の音源をみんなで聴き込んで〈このばあちゃんたちすごいよね~〉って感心しながら、これが好きだと思えるものをチョイスしていったんです。私たち、基本的にカッコイイものをやりたい、ってスタンスですから」
HISAE「昔のテープを聴いて、いいな~と思っても、4人で歌ってみてわかることが多々ある。曲によって何を言ってるのかわからないものも多いし」
REKPO「私たちいまは4輪唱でやっているけど、曲によっては3輪唱とか、二手に分かれてやったほうがシックリくることがある。でもやっぱり歌ってみなければわからなくて。音の重なりから、〈空耳〉みたいなのが聴こえてくる瞬間がいちばん楽しんです」
MAYUN KIKI「元の音源も何人かで歌われているんだけど、それぞれがどの声を聴いているかによって、4人でやってみたら全然違うものに仕上がったりするんですよね」
HISAE「おもしろいことに(4人の聴くポイントが)毎回上手くバラけるんですよ。まず目の前に出来上がっている曲がある、でも私たちが歌っていくことによってまた新たな曲が出来上がっていく」
MAYUN KIKI「最初はおばあちゃんの真似をしようと努力するんですけど、4人の声が合わさったときに昔のものとは違うマレウレウの新しい形になっている」
――へえ。すると誰かが意外な方向を向いていても修正したりせず?
MAYUN KIKI「4人とも自由に行こう!って感じですよ」
伝統を守るというより、ただ楽しく歌っている
――グループのスタート時からそういう感じなんですか?
REKPO「最初は3人でスタートしたんです。そこからメンバーがひとり増えて、同時に面白味も増えて。どんどん歌っていくうちに、より魅力を発見していった感じかな」
MAYUN KIKI「前は自分たちがよく知っている曲をやってたんですけど、今回は自分たちもあまり聴いたことのない曲をやろうと。いままで少し形式ばっていたというか、まっしぐらにウコウクする感じだったんですけど。今回はレコーディングの間にも順番を変えたりして」
RIMRIM「いままでライヴでやっていたものが当日のレコーディングでだいぶ変わったりしましたよ」
REKPO「でもね、よしやるか!となったら速攻やれちゃうんです」
MAYUN KIKI「ただ、そこにOKIさんが入ってくると、すごくややこしくなって……(一同笑)」
HISAE「彼もほら、良くなればと思って……」
MAYUN KIKI「アドヴァイスをくれるんだけど、放っといてよ!みたいな感じで4人がどんどん決めていっちゃう。プロデューサーさんなのに顔を立てなくて申し訳ないんだけど(笑)」
REKPO「ごめんね~(笑)」
MAYUN KIKI「歌っていて気持ちいいほうが大事だから、ここにこの音を入れないで、って言っちゃったり」
REKPO「でもそれが良かったんだよね、今回は。前作は歌ったものを彼に丸投げしてたけど、今回は自分たちで楽器の音とか選択したりして」
MAYUN KIKI「OKIが用意したバック・トラックを、それではやりたくない!って、その場で一から作り直しってもらったこともあった。あれはすっごい空気凍ったね。おいおい何言ってんの?みたいになって(笑)。〈じゃあ、お前はどんなのがいいの?〉ってキレ気味だったけど。でも〈以前の繰り返しになるようなことはやりたくないから〉ってキッパリ言った。とにかく〈このアルバムは4人で作りました!〉って言い切れるものを作りたかったんで。彼は1週間のうち、4日徹夜してたかな。でもその間もずっと注文付けてたんだけど(一同笑)」
――伝統音楽に取り組んでいる作品としては、好奇心の膨らませ方が異質というか、かなりユニークですね。作り手のワガママな感じはいい感じに出ているかも。
MAYUN KIKI「前作がストイックに伝統音楽を追求した内容だったので、今回は遊び心を採り入れたいと思ってました。アルバムのタイトルもちょっとふざけてる、とか言われたんだけど」
――いや~凄くいいですよ、これ。
MAYUN KIKI「いいでしょ~? 今回こそ4人で作り上げたと思える作品になったから、『MAREWREW 02』にするって案もあったんだけどね(笑)。伝統音楽の作品ってとかく堅く思われがちでしょ? ウコウクだけだとちょっと重たいし、OKIさんの音楽性を注入してもらって、初めて聴いた人にはアイヌの音楽ってこんないろんなことやっていてもいいんだ、って思われるように作りました。私たちがこんなに自由にやれているってことを示せれば、他のアイヌ音楽をやっている人だってやりやすくなるだろうし」
REKPO「伝統音楽で、アイヌで、ってなると、どうしてもすぐに自然がどうの、カムイがどうのって話になっちゃうんですよ。聴いていたら何かが降りてくるとか言われちゃうんですよね~(笑)。あと、〈マクドナルドに行ったりしますか?〉って真剣に訊かれたり」
一同「そうそうそうそう!」
MAYUN KIKI「だから私たちを理解してもらうには、楽曲で表現したほうがいいって思った。前作を聴いた人は、音楽と普段の私たちとのギャップに驚くんですね。穏やかで、神秘的な空気を纏った女性、みたいなイメージがいつも……」
REKPO「プププ、神秘的だって~(爆笑)」
MAYUN KIKI「だから今回はふざけて録った音源を入れちゃったりしたし」
HISAE「でもね、昔のテープを聴いてたら笑い声とかいっぱい入ってるんだよね。で、その自然な笑い声がすごく良くて」
REKPO「鳩時計の〈ぽっぽ~〉って音が入っていたりね。子供の泣く声とか。そういうのにしたかったの、今回のアルバムは」
MAYUN KIKI「4人は伝統を守っていくぞ!ってことじゃなく、ただ楽しく歌っているんだよ、っていうのが伝わればいいなと」
ちょっとダサイくらいのトラックがカッコイイ
――このアルバムって意識をどこか遠くに飛ばしてくれる力も強いんだけど、なにげない日常生活にすっと溶け込んでくる親しさもある。近所を散歩するときなど、いろんな場所で活用できて楽しいんです。
MAYUN KIKI「前作は、瞑想するとき使うのに合ってたかもしれないけど、今回はそうさせないようにしたかった。ヒーリング音楽に使おうと思っても、ウトウトしていたら目が覚めちゃったみたいな」
――眠りを覚ますヒーリング音楽(笑)。
MAYUN KIKI「なんか裏切っちゃおうかな、と思って。以前、スペアザさんとやったときも(SPECIAL OTHERSのコラボ・アルバム『SPECIAL OTHERS』収録の“イヨマンテ ウポポ”に参加)、〈川で鮭採ったりするような生活をしてると思ってた〉って言われたんですよ。いやいや、そんなわけないでしょって」
HISAE「大変そうな暮らしだね(笑)」
REKPO「山に、川に、カムイに、熊に――常に森羅万象の神に感謝してっていうようなね。まぁ、神様には感謝してるけど(笑)」
RIMRIM「私服はそんな感じなんだ~って驚かれまますから」
MAYUN KIKI「ライヴ終わって会場出ると、〈え~!!〉って言われたりして。〈え~!!〉じゃないだろう」
REKPO「〈裸足で生活してるんですか?〉とかね」
HISAE「そんな仙人みたいな生活できるんだったら、やってみたいよね(笑)」
――その眠らせない音楽ってことは今回〈踊る音楽〉的な要素が強まったとも言える?
MAYUN KIKI「これまでもクラブでウコウクを流してもらったりして、気持ちいいって言ってもらってたんですが、アイヌの音楽はいっしょに歌ったり踊ったりするのが楽しいんで、それをわかってもらうには踊って楽しい要素を入れたいと。しかもそれをダサくしてってお願いして」
――ダサくして?
MAYUN KIKI「いなたいトラックを作って、ってOKIさんにお願いしたんです。“Kane Ren Ren”なんてかなりいなたくなっていたでしょ? 〈ちょっとダサくない?〉みたいなトラックでやったほうがカッコイイんじゃないかと」
――ベースが効きまくったアレンジでくる、なんて予想もできたけど。
MAYUN KIKI「ううん。たぶんね、それって私の音楽的な好みなんですよ。ヘンにクリエイティヴにしちゃうよりは楽しいかなと」
――なるほど。このアレンジだと、ずっと長持ちしそうな気がする。
REKPO「うん、飽きない。飽きてもらっちゃ困る(笑)」
昔のばあちゃんみたいになりたい
――アルバムは前作から本作までの間に、いろいろと吸収してきたものが出せたという実感があるんじゃないですか?
REKPO「いや~ここまでいろいろ吸収してきたと思う。音源をリリースすることなくライヴばっかりやって。ライヴを繰り返すなかで、いろんなことを試しながら練り上げていった」
HISAE「実際に録音期間は短かったけど、ライヴのなかで練り上げていく期間が長かったから」
REKPO「長かったね~。ずっと出したい出したいと思っていたけど、出なかったからね。でも曲を歌いこなしていくなかで、かなり自分たちも馴れてきて。そうやっていくうちに元のウコウクがだんだんつまんなくなってきちゃったりして。新しい曲を聴いたときのおもしろさったらなくて。ゾクゾクってくることが何回もあった。まだまだやりたい曲がいっぱいある。いまはもっともっと出したいって気持ちです」
――主催イヴェント〈マレウレウ祭り〉を行うなどさまざまな活動を展開してこられて、聴かれ方が変わってきたなあって実感はある?
REKPO「お客さんは楽しんでくれていると思う。ゲストが目当てで来ていても、最後はみんなすごく盛り上がってくれるし」
MAYUN KIKI「そもそも私たちもウコウクを聴く機会はそんなにないんですね。なので、会場でみんなのウコウクを聴いて、〈あ~、すごいな~〉って改めて感動してるんです。ホントは私がマレウレウのライヴを観たいぐらいで(笑)」
REKPO「ウコウクって囲むようにして歌うんですけど、輪の真ん中の空間にいるのがいちばん気持ちいいんですよ」
MAYUN KIKI「そこに小人になって入ってみたい(笑)」
――9月1日に〈マレウレウ祭り〉のVol.4が控えていますね。
MAYUN KIKI「東京でやるのは3回目。最初のゲストはUAさんで、2回目はスペアザさん。そして次回はゲストに細野晴臣さんが来てくれます。いや~細野さんですよ……」
REKPO「そうなのよ~。マネージャーさんにいろんな人に声かけてってお願いしたの。〈コーネリアスさんとやりたい!〉とか言ったら、〈敷居が高いよ~〉なんて言われてたのに、結局は細野さんに決まって。もう意味がわかんない(笑)」
MAYUN KIKI「木津(茂理)さんは以前にやらせてもらってるから大丈夫だけど、細野さんは、どうしたらいいんだろう……。この際いきなり〈おじいちゃん〉って呼んじゃうとか」
RIMRIM「え~! やめて~!!」
REKPO「それはいけません。でも今回のアルバムにはライヴで演ったことのない曲も入ってるし、それをステージで馴らしていくことがこれからの楽しみです」
――最後にこの先4人がめざす場所を教えてください。
REKPO「そりゃ~もう、昔のばあちゃんみたいになりたい。ほんっとにカッコイイんですから!」
MAYUN KIKI「昔の音源は歌っている人が歳を取ってしまってからの録音なんです。そういうおばあちゃんたちみたいにいまの私たちはどうしても歌えない。ただ、われわれはこれからだんだんおばあちゃんになっていくまでの声を残していけるし、次の世代の若い人たちは、そんな私たちの若い声の音源を聴けるわけだから。だからあまり無理をせず、ゆっくり歳を重ねながらおばあちゃんたちに近付いていけたらいいなと思ってます」
REKPO「目標といえば、私たち〈紅白歌合戦〉狙ってるんでね」
MAYUN KIKI「そう、いちばん近場の夢は紅白! おばあちゃんになるとかいうことよりも」
HISAE「地域枠とか伝統芸能枠とかないのかな。毎年大晦日はスケジュール空けてるんですけど(笑)」
MAYUN KIKI「そこから3年ぐらいかけて紅組に入れてもらうとか。あと〈Mステ〉もいいな~。でもね、マレウレウはJ-Popの枠に入っていけるようになりたいんです。ワールド・ミュージック的な括りじゃなく、そういう場所をめざしたいんです」
REKPO「なんか追いやられがちですから、端っこのほうに」
――そうか。今回の記事はきっと若い子たちも目にするはずだし、いろんな反響を呼ぶと思うなあ。
REKPO「どうしたらいいんでしょ」
――こちらはマレウレウの魅力をシンプルに伝えるだけですよ。
MAYUN KIKI「シンプルじゃなく、ぜひ濃厚に伝えてください(笑)」

マレウレウ 『もっといて、ひっそりね。』
LONG REVIEW――マレウレウ 『もっといて、ひっそりね。』& LIVE INFO
プリミティヴだけどモダンな歌声
マレウレウはアイヌ語で〈蝶〉という意味らしいが、ふわりと庭に舞い込んできた蝶々みたいな音楽だ。どこから来てどこへ行くのかわからないけれど、その不思議な音楽は軽々としていて愛らしい。
北海道生まれの彼女たちのルーツでもあるアイヌ民謡=〈ウポポ〉にリスペクトを捧げながらも、そこから自由に羽ばたいてみせる。アイヌ民謡では、〈ウコウク〉と呼ばれる輪唱スタイルは3人で歌われることが多いらしいが、マレウレウは4人編成。一人多いぶん、伝統的なウコウクとはひと味違ったハーモニーが生まれ、アルバムではそこにエフェクトを加えることでトランシーな歌のうねりを生み出している。そして、ミニマルにループしながら変化していくハーモニーの向こうから立ち上がる、しなやかなグルーヴも彼女たちの大きな魅力。
例えばブラジル音楽やアフリカ音楽をトライバルなダンス・ミュージックとして同じフィールドで楽しむことができるような現代的な感性が、ここではしなやかに息づいている。不思議なアイヌ語の響きも音響として効果的に採り入れながら、ルーツ・ミュージックからより幅広い音楽へと向かおうとする開放的なスタンスは、UAやSPECIAL OTHERS、サカキマンゴーといったアーティストたちとの共演でもあきらかだ。
ゆったりと螺旋を描くようなハーモニーとグルーヴは、太古から現代へと受け継がれていく音楽のDNAの螺旋をも思わせたりもして。プリミティヴだけどモダンな歌声は、ひらひらと美しい軌跡を描きながら、国境や言葉を越えて飛び回る。
めざせウポポ100万人大合唱vol.4 ~マレウレウ祭り~
日時:2012年9月1日(土)
会場:アサヒアートスクエア(墨田区吾妻橋1-23-1 スーパードライホール 4F)
開場/開演:16:30/17:30
チケット:前売3700円/当日4200円/「もっといてセット」(CD+前売チケット+スペシャル特典)6000円
出演:マレウレウ& OKI、木津茂理(ゲスト:細野晴臣)
http://tower.jp/article/news/2012/08/08/n11

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伝統を更新しちゃうノリの良さ マレウレウインタビュー

2012-08-09 | アイヌ民族関連
CINRA.NET(シンラドットネット) -(2012/08/08)
インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作例年にない晴天に恵まれ、大盛況のうちに幕を閉じた今年の『フジロック』。90年代のUKロックを代表するレジェンドが顔を揃えたことが一番の話題ではあったが、近年の『フジロック』は欧米のロック/ポップのみならず、様々な国や文化の、それも現在進行形の音楽が楽しめる場としての存在意義も非常に大きくなっている。

アイヌの伝統的なウポポ(歌)、特にウコウクと呼ばれる輪唱を基本としながら、一音楽ファンのスタンスでそれを鮮やかに更新していく女性4人組=MAREWREW(アイヌ語で「蝶」の意味)は、まさに上記の文脈に相応しいグループである。初のフルアルバム『もっといて、ひっそりね。』は、プロデューサーであるOKI(アイヌ音楽の魅力を国内外に知らしめてきたミュージシャン/プロデューサー)の手も借りながら、クラブミュージックの要素などを積極的に取り入れ、まったく新しいアイヌ音楽を打ち出した意欲作。そしてそれは、過去のウコウクの音源を熱心に勉強する一方で、何事もノリで決めてしまうようなカジュアルさも併せ持った彼女たちだからこそ、作ることのできた作品なのだ。

マレウレウ
アイヌの伝統歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマに活動する女性ヴォーカルグループ。さまざまなリズムパターンで構成される、天然トランスな感覚が特徴の輪唱など、アイヌROOTSのウポポを忠実に再現する貴重なアーティスト。2010年ミニアルバム「MAREWREW」を発表。自主企画公演「マレウレウ祭り」をスタートさせ、UAやSPECIAL OTHERS、キセル等をゲストに迎え話題に。2012年はNHK「にほんごであそぼ」への出演、7月にはヨーロッパツアー、そして待望の1stフルアルバム『もっといて、ひっそりね。』を8月8日に発売する。マレウレウはアイヌ語で「蝶」のこと。
マレウレウ祭り
盛り上がりは大事ですよ、その勢いがないとね(笑)。(レクポ)
―マレウレウはOKIさんの『NO-ONE'S LAND』への参加からスタートしてるんですよね?
レクポ:そうです。そのときは別のメンバーがいたんですけど、子供ができたりとか、一緒にやれる機会が減っていって、今のメンバーになったのは5年前ぐらいですね。
―レクポさんは以前からアイヌの音楽に関わっていらっしゃったんですか?
レクポ:実家がアイヌ記念館だったので、歌や踊りっていうのが日常的にある中で生活はしていました。
―マユンさん(レクポとマユンは姉妹)ももちろん同じような環境で育ったわけですよね?
マユン:いや、姉とは年が10歳以上離れてて、私が子供の頃はもう観光が下火になってたんです。だから、踊ってるのを見たりはしてましたけど、私はそんなに関わってなくて、ちゃんとアイヌのことをやりだしたのは20歳を超えてからなんです。元々はアイヌ語を勉強し始めて、その後に「マレウレウ人足りないから入ってくれない?」って言われて、「わかりました」って(笑)。
―なるほど。ヒサエさんはレクポさんとマユンさんの叔母にあたるそうですが、アイヌとの関係は…
ヒサエ:全然なかったです。私は生まれも東京だし、アイヌの存在を知ったのは高校生ぐらいでした。大学で東京にあるアイヌのグループに参加するようになって、夫となったアイヌ記念館の館長と知り合って、それがよかったのか悪かったのか…こういうことに(笑)。
―皆さんそれぞれですね(笑)。ヒサエさんもマユンさんと同じく、レクポさんに誘われたわけですよね?
マユン:レクポは一時期東京にいて、帰ってきたら急に「アイヌのことやる」って言い出したんですよ。
レクポ:盛り上がっちゃったんです(笑)。
―何かきっかけがあったんですか?
ヒサエ:OKIに出会ったんですよ。
レクポ:東京に行ってる間も、北海道でアイヌの保存会があったりすると呼ばれて行って踊ったりすることはあったんですけど、歌を歌ったことはなかったんです。でも、やり出したら面白くなって、マレウレウっていうのが何となく生まれて…盛り上がっちゃって(笑)。
ヒサエ:しかも、メンバーに入ったのは私が一番最後なんですけど、それも「来年アメリカに行くんだけど、メンバーが1人行けなくなっちゃったから、ちょっと入ってくれない?」って言うから、「あ、はい」って。それだけだと思って参加したんですけど、そうではなくて(笑)。
マユン:だから、ここ2人(マユンとヒサエ)は頼まれてなんとなく流れで入ったんですけど、リムリムだけ自分から「入りたい」って入ってきたんです。
リムリム:私の出身は阿寒湖なんですけど、札幌に出てからアイヌのことをやりたいと思い出して、いろいろアイヌのグループを見に行ったりしてたときにOKIさんの活動を知ったんです。それで、自分から「やりたいです」って。
レクポ:すっごいメンバー募集してたんですけど、それまで全然いい話がなかったんですよ。でも、OKIが札幌に行って帰ってきたら、「10代のかわいい子が入るって言ってる!」って(笑)。
―リムリムさんは札幌に出てきて、なぜアイヌのことがやりたいと思ったのでしょう?
リムリム:小さい頃は伝統的なものに触れてたんですけど、高校で釧路に行って、その後に札幌に行ったりしているうちにあんまり触れなくなっていたんです。でも札幌でアイヌの友達ができて話すようになったら、「なんかちょっとやりたいな」って思うようになって…
ヒサエ:盛り上がっちゃったんです(笑)。
―やっぱり大事なのはそこですか(笑)。
レクポ:盛り上がりは大事ですよ、その勢いがないとね(笑)。
自分たちで歌ってて、自分のポジションがわかんなくなるんですけど、でも声は出てるんです。(レクポ)
―4人での活動はどうやって本格化していったんですか?
マユン:それまでのマレウレウはOKIと一緒に活動するのが当たり前だったんですけど、この4人なってから、「マレウレウ単体でやってみよう」っていう話になって、とりあえず録音をしようと。最初のミニアルバムなんて手作業で作ってて、最初の100枚は私のパソコンで焼いたんです(笑)。それで、マレウレウだけでライブもやるようになって。
ヒサエ:前のメンバーのときはそうはならなかったんだよね。
レクポ:このメンバーで歌ったら楽しかったんです。
マユン:新しい曲をやるときも、すごくスムーズに物事が決まるんです。1曲の中のどのパートを誰がやるって事前に決めなくても、何となく合わせてみたら面白いことになってたり、運命的な4人なのかなって。
―図らずも、4人の声質のバランスも良かったんですね。
マユン:ファーストと比べると今回は4人の声のまとまりがすごく変わってて、前は個々の声がわかりやすかったんですけど、今回は誰がどこを歌ってるのかわからなくなるぐらい馴染んでるんですよね。「こうしようよ」って直接的に言ったわけではないんですけど、ライブを続けた4年の間に、自然と4人の声のバランスが取れるようになったのかなって。
レクポ:自分たちで歌ってて、自分のポジションがわかんなくなるんですけど、でも声は出てるんです。「私はどこにいるの?」っていう、あの効果はホントすごいよね。
―元々の相性の良さに加えて、ライブを重ねて培ったものが作品に反映されていると。でも、4人で歌うっていうこと自体珍しいことなんだそうですね。
レクポ:そうです。大体は3人なんで。
マユン:でも、「いいじゃん!」って(笑)。
レクポ:4人で歌ったらまた新たな発見があるというか、全然違う風になるのが面白くて。
マユン:3人が旭川で、リムリムだけ北海道の東なので、同じような歌でもちょっと節回しが違ったりするんですけど、そこをあえて生かしたままやったらすごく面白かったりもして。

―違う地域の人と一緒に歌うことも基本的にはないことなんですか?
ヒサエ:最近はあるかもしれないけど、元々はよその地域に行ったら口出すなって感じだったかな。
マユン:他の地域の歌を見る機会はあっても、そこで一緒になって全員で何かやるかっていうと、そうではないですね。
ヒサエ:とは言いつつも、よそで聴いてきたのを地元でやって、それがちょっとずつ変化していったんだと思うんです。だから、道東と旭川だと同じ曲なんだけどちょっと違うっていう。今みたいに録音機があったわけじゃないですからね。
「アイヌ=神秘的」じゃ全然ないんだよね。(ヒサエ)
―マレウレウは伝統を受け継ぐ部分がありながらも、そこには縛られずにやるっていうのが基本的な姿勢としてあるわけですよね?
マユン:あまり堅苦しくなりたくなかったんです。「アイヌの伝統の~」ってなると、資料としてのCDみたいじゃないですか? 昔のものをしっかり保存するというよりも、自分たちがかっこいいと思うものをやってるだけなので、ひとつの音楽として聴いてもらって、「これアイヌ音楽だったんだ」って後から知ってもらうのでも全然良くて。ファーストは特にウコウクだけだったから、「自然と共に」とか、「神秘的な」とか言われがちだったんですけど、でも実際の私たちってこんな感じじゃないですか?(笑)
―盛り上がっちゃってここまで来た人たちだったと(笑)。
ヒサエ:そう(笑)、「アイヌ=神秘的」じゃ全然ないんだよね。
マユン:でも、そういう固定のイメージはあるので、それを崩していきたいとはずっと思ってて。ファーストを聴いて「ヒーリングミュージックだね」って言われるのも違う気がして、今回はそうはならないように、実験的なものを入れたりしたんです。急にアップテンポなダンスチューンになったり、笑い声が入ってたり、メリハリをつけようと思って。
―急に声にエフェクトがかかったり。
マユン:そうそう、急に声が右から左に抜けてどこかに行っちゃったり。今回はマレウレウ主体で作りたいっていうのがあって、OKIさんにもその上で手伝ってもらい、こういうアルバムができたんだと思います。
―過去の『マレウレウ祭り』のゲストを見ても、UAさん、SPECIAL OTHERS、オオルタイチ+ウタモ、キセルと、すごく多彩なラインナップで、マレウレウの持っている幅の広さがよくわかります。
マユン:みんな好奇心がすごく旺盛で、4人とも普段聴く音楽がバラバラなんです。
―そこはすごく興味深いので、お1人ずつ教えていただけますか?
リムリム:私は日本のレゲエが好きで、タオル振っちゃうタイプです。FIRE BALLとか、PUSHIMとか。
ヒサエ:私はアイヌの古いのをできるだけ聴いてます。発声とかをストイックに追い求めたいなって。
―勉強するような意識で聴いてるわけですか?
ヒサエ:そうなんです。こういう風にやれば、こういう発声になるっていうのを、上手く伝えられるようになりたくて。
レクポ:私はワールドも聴くし、ロックも聴くし、琉球音楽も聴くし、いろんなのを聴いてますね。
マユン:私はテクノとかハウス、基本的に電子音楽がすごく好きで、それと70年代あたりのソウル、ファンクとか。あとはものすごくノイジーな、ファズがすごくかかったギターとかも好きで、ゆら帝とか超好きだったし、POLYSICSとも一緒にやりたくて。ワールドとか、マレウレウでイメージするものとは違うところを聴いてる感じです。
ヒサエ:だから、マレウレウの音楽の面白さはここ(マユン)から来てるところは大きい。
マユン:OKIの作るバックトラックに一番口を出すのも私です(笑)。
自分たちで作るんじゃなくて、すでに完璧なものがあって、そこに向かって行けばいいだけだから、生みの苦しみっていうのは一切ないんです。(ヒサエ)
―改めてお聞きすると、ウコウクっていうのは、ウポポのスタンダードな形式なのでしょうか?
マユン:地域差があるんですけど、旭川は特に輪唱の多い地域なんです。他のところでは、やってたとしても2部構成とかで、3部とか4部っていう複雑なのは他の地域ではないですね。私たちは旭川出身が3人いるので、じゃあウコウクを広めて行こうって。
リムリム:阿寒湖では4人の輪唱を聴いたことがなかったので、すごく新鮮でした。
レクポ:旭川にはいろんな種類のウコウクの保存音源がすごくたくさん残ってるので、私たちはアルバムなんて何枚でも出せますよ(笑)。
ヒサエ:そう、自分たちで作るんじゃなくて、すでに完璧なものがあって、そこに向かって行けばいいだけだから、生みの苦しみっていうのは一切ないんです。
マユン:どれをピックアップしていくかだけが悩みっていうかね。自分たちでウコウクを新たに作ってもいいんですけど、そんなことをしなくてもものすごくかっこいい音源が何枚も残ってるんで、そこからやった方がいいし、自分たちで作ってもそれにはかなわないんですよね。ただ、残ってる音源はおばあちゃんの歌なので、若い子のアイヌの歌ってあまり残ってないから、それを残していくっていう意味もあるんです。
―なるほど。
マユン:地元の保存会とかも、基本的に若い子は踊りで、歌うのはおばあちゃんたちなので、若い子が歌うっていうのは結構珍しくて。私たちがおばあちゃんになっていく間に、マレウレウでどんどんCDを録っていって、実際におばあちゃんになったときに、声の変わり様を楽しみたいなっていうのがあって。「(若い頃に聴いてた音源の歌に)近づいたじゃん」ってきっとなると思うから、何十年後が今から楽しみですね。
―マレウレウの活動によって、他の若い人でも「ウコウクをやってみよう」って思う人がたくさんいるでしょうね。
マユン:実際、すごくたくさんいます。アイヌ音楽って言ったときに、マレウレウとOKIしかいないとハリもないじゃないですか? だから、たくさんやる人が増えて、その中でマレウレウを選んでもらえればいいなって思うので、どんどんいろんな人にやってもらいたいですね…まあ、私たちにはかなわないだろうけど(笑)。
ヒサエ:すっごい上から(笑)。
レクポ:みんなやり出すんですけど、続かないんですよ。
ヒサエ:盛り上がりはするけど、それを維持するのは難しいってことだよ。我々は盛り上がって、維持もできてるっていうのが他と違うところ。
―やっぱり、4人の相性が抜群に良かったんでしょうね。
マユン:ホントにずっとキャッキャキャッキャしてて、いつも全員でリムリムに嘘をついて遊んでます(笑)。
リムリム:早く抜け出して、嘘をつく方に回りたいです(笑)。
『もっといて、ひっそりね。』っていうタイトルは歌詞の空耳から来てるんですけど、実際その部分のアイヌ語って、すごくエグいんです。(マユン)
―言葉の意味についてもお伺いしたいんですけど、やっぱり聴いただけだとアイヌ語の意味までは分からないんですよね。そこに関しては、どうお考えですか?
マユン:アルバムを録ったときは、あえてどういう歌かっていうのは調べずに、聴いたイメージだけで歌ったんで、あとで歌詞を見たら「えー、こんな内容なんだ」って思うことはありました。
―ご自身たちも意味を把握しないまま歌ってるんですね。
マユン:わかるものももちろんあるんですけど、わからないのも結構あって、すごく楽しげな曲なのに歌詞はエグかったりとか、しっとりした曲なのに男らしかったりとか、そういうのはありました。『もっといて、ひっそりね。』っていうタイトルは歌詞の空耳から来てるんですけど、実際その部分のアイヌ語って、すごくエグいんです。
―どんな意味なんですか?
マユン:「あご肉取ろう、腹肉取ろう」です。
―エグッ!(笑)
マユン:『もっといて、ひっそりね。』は、「ひっそりと、渡したものを持っていてね」とか、「もうちょっと、私とひっそり一緒にいてね」とか、人によってどういう意味にでもとれる日本語であり、でもアイヌ語だとエグいっていうのが面白いなって。
―つまりは、言葉の意味そのものよりも、音としての響きを大事にしてるっていうことですよね。ちなみに空耳っていうことで言うと、僕「金子」っていう苗字なんですけど、“emus kane”を聴いてると、「金子」って言ってるように聴こえました(笑)。
マユン:そうそう、そういういろんな空耳があると思うんで、それも楽しんでもらいたいですね。
―“rera suy”の最後の方で、喉を震わせるような歌い方をしてるじゃないですか? あれってどなたがやってるんですか?
レクポ:あれは私で、喉じゃなくてベロなんです。ホロルセっていうんですけど、鳥の声を模してるんです。
マユン:一番最後の部分はチカプっていうのになってるんですけど、全員が鶴の声を出していて、その中のひとつとしてベロを震わせているんです。
レクポ:「誰がこれやれる?」って、私だけができたっていう。
―変な言い方ですけど、得意技がそれぞれあるみたいな感じでしょうか?
マユン:そうなんですよ。今回の曲のセレクトも、メインの人がキチンと際立つようになっていて、例えば、“emus kane”はヒサエちゃんにすごく合った歌だし、“舟漕ぎ遊び”はリムリム以外の3人が同じことを言っていて、途中で別のことを言って入ってくるリムリムの声が際立ったりとか、それぞれの個性がどこかで見え隠れするようになってるんです。
ここ4人で完結させるんじゃなくて、たくさんの人を巻き込みたいんです。(マユン)
―さらに、ライブに行って一緒に歌うことで、ウコウクの魅力をより味わうことができるわけですよね。
レクポ:ライブが終わると女の子同士で歌ってたりとかして、それを聴くのはすっごく嬉しいですね。
マユン:たくさんの人を巻き込みたいんです。ここ4人で完結させるんじゃなくて、日本中の誰もが「ウコウク1曲いけます」みたいになればいいなって。
レクポ:目指せ100万人だし、目指せ紅白ですから。
マユン:この間NHKの『にほんごであそぼ』に出て、それを見て親子でファンになって来ましたって言ってくださった方がいたんですけど、実際お子さん連れで来る方が多くて、でもライブの最中に泣いたりとか全然しないんですよ。
ヒサエ:北海道まで見に来てくれた人もいたしね。
―北海道で聴くとより味わい深いでしょうね。
マユン:でも、北海道じゃ人気ないんですよ。
―そうなんですか!?
ヒサエ:こっち(東京)で流行らないと、向こう(北海道)で受けないんです。「観光地でやってるものでしょ」みたいなね。
マユン:北海道で広まるのが一番嬉しいんですけど、「アイヌのこと興味ないし」みたいな感じがあるので、だからこそ、今年は頑張って北海道でもやりたいと思ってるんです。
―それこそ紅白に出れば、北海道での受け入れられ方も変わってくるでしょうね。
ヒサエ:だから、12月31日は毎年空けてるんです(笑)。
―『にほんごであそぼ』でNHKとの接点もできましたしね(笑)。
マユン:『みんなのうた』に入れてもらうとか、連ドラの主題歌とか…
ヒサエ:大河ドラマとかいいと思うんだけど(笑)。
―誰だって小さい頃に“かえるのうた”を歌ってるわけで、輪唱自体は誰にでも馴染のあるものだし、100万人も紅白も決して叶わない夢ではないと思います。
レクポ:そうなんですよ。じゃあ、“かえるの歌”をアイヌ語で歌うか?(笑)
マユン:いや、ウコウクの方が優れてるから、そこはやっぱりウコウクでしょう。
http://www.cinra.net/interview/2012/08/08/000000.php

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