千葉大学名誉教授 中川裕 「アイヌ文化の物語」スタディーズまとめ読み
日本経済新聞 2024年12月29日 5:00
アイヌの人々は口承で豊かな物語を伝えてきた。カムイの視点で展開する神謡、人間の体験を語る散文説話、そしてドラマチックな冒険談の英雄叙事詩だ。アイヌ語研究者の中川裕氏が、物語を入り口に今日まで続くその文化を案内する。
(1)カムイの語り「神謡」にみるアイヌ文化の伝統的世界観
知里幸惠の人生を題材にした映画「カムイのうた」で主人公テル(右)と叔母が神謡を語る場面©シネボイス
アイヌ民族が語り伝えてきた物語のひとつに、神謡というジャンルがある。神謡とは一言で言ってしまえば、カムイが自分の体験を物語る話であるということになるが、まずはカムイとは何かから説明しなければならないだろう。…記事を読む
(2)カムイも登場、実際の体験談 「散文説話」で教訓や歴史
「桂の木の舟と、栓の木の舟の喧嘩」に登場する丸木舟。今も舟を川に浮かべる儀式などが行われている=千歳アイヌ文化伝承保存会提供
前回紹介した神謡は「謡」という訳語が示すように、節をつけて歌うように語る物語である。それに対して散文説話はその名前の通り、節をつけずに語る。よく「昔話」のように訳されてきたが、日本の口承文芸研究では、昔話というのは語っている人も聞いている人も、それが本当にあったことだとは信じていない物語だと規定されることがある。…記事を読む
(3)アイヌ文学「英雄叙事詩」はエンタメ 異次元・超人の冒険
英雄叙事詩で刀は欠かせないモチーフ。北海道白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)では、その場の魔を払う「刀の踊り」が上演されている=(公財)アイヌ民族文化財団提供
神謡、散文説話と並んで、アイヌの物語文学の中心をなすのは、英雄叙事詩である。英雄というと、力が強くて勇気ある人間というイメージがあるだろうが、英雄叙事詩の主人公は普通の人間ではない。というかおもな登場人物はみんないわば超能力者である。誰もが空を飛んで戦い、はらわたを裂かれても容易には死なない。…記事を読む
(4)現代に生きるアイヌ口承文芸 アニメも斬新ビジュアルで
アイヌ民族文化財団のウェブサイトで公開されている「ニタイパカイェ」は英雄叙事詩の世界をアニメで描く
現在アイヌ語を母語としている人はもういないし、アイヌ語だけが使われるコミュニティというものも存在しない。では、ここで紹介したようなアイヌの物語はもはや口にされることのないものになってしまっているのだろうか?…記事を読む
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2308E0T21C24A2000000/