共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

もはや別物…?

2015年06月15日 18時50分55秒 | 音楽
両目でものが見られるようになってから何かと楽になりましたが、とりわけ楽譜の見やすさは比較になりません。それも、当たり前のことながら、細かな楽譜ほど顕著です。

最近楽譜の整理をしていて、偶然見つけだした楽譜がありました。それがテレマンの《メトーディッシェ・ゾナーテン》という曲です。このタイトルを英語で言うと《メソード・ソナタ》、つまり《練習曲ソナタ》となります。何の練習かというと、バロックならではの装飾音の付け方の練習です。

バロック音楽の、特にゆっくりとした曲では、楽譜に書いてある音譜の動きは結構大人しめなものが多く見受けられます。しかし、これを実際に演奏する際には、ただ書いてある通りにではなく、それを基にして演奏者がいろいろと装飾を付けて演奏するという習慣がありました。極端な言い方をすれば、作曲家が楽譜に書いたのは7割くらいのことで、後の3割は演奏者のセンスに任されているのです。

この装飾、勿論ただ付ければいいというものではありません。過度に付けまくると曲想がゴテゴテしてしまいますし、かと言ってそれを恐れて中途半端に付けると何だか物足りなさだけが目立つという、何とも難しい選択を迫られるのであります。

この曲は、テレマンがそんな演奏者に向けて「俺だったらこうするけどネ」という例を第一楽章に示してくれた、装飾法のサンプルとして大変貴重な作品です。これによって、その当時どんな風に装飾がなされていたか…ということを知ることが出来て、大変重宝する有り難い作品です。

しかし…楽譜を御覧頂くと分かるのですが、実はこのテレマンの装飾法がなかなかアグレッシブなものなのです。

画面に写っている三段で一まとめになっている楽譜の一番上がオリジナルのシンプルな楽譜で、その一段下に小さめに書かれている楽譜がテレマンの装飾サンプルです。この楽譜の、特に一番下の塊の一段目と二段目を御覧頂くと分かるかも知れませんが、もはや別物なんじゃないか?と思うくらいに二段目の音譜の量が多いのです。テレマンさん、実は結構こってりした味付けがお好みだったようです。

しかもこのイ長調のソナタに至っては、サンプルの出だしが休符、つまりお休みになってしまっているのです。もう、ここまで来ると自由過ぎて笑えます。でも実際に弾いてみると、やっぱり二段目の方が明らかに素敵なのです。これこそ天才テレマンの面目躍如といったところでしょうか。

勿論、一つ一つが曲としてもなかなか素敵な作品なので、いずれは演奏会で弾いてみたいと思います。そのために、もっと楽譜を読み込まなくちゃ…。
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