共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

《マグリット展》

2015年06月26日 21時38分26秒 | アート
今日は金曜日のあざみ野の教室が定休日だったので、以前から行きたかった《マグリット展》を観賞するために国立新美術館に足を運ぶことにしました。ベルギーの画家ルネ・マグリット(1898~1967)の日本での大規模な回顧展としては2002年以来、実に13年ぶりとなるものでした。以前には展示されなかった作品も多数来日しているとのことで、楽しみにしていました。

乃木坂駅から直結している国立新美術館のチケットセンターに向かうと、会期末とはいいながら平日だったことと天候も天候だっただけに殆ど人の姿はなく、会場にも並ばずスムーズに入場することができました。

マグリットが美術学校を卒業した頃には、画壇では既に未来派やキュビスムといったが芸術が台頭していた時代でした。当時の彼の作品にも、そうした芸術的動向が反映されています。またこの時期にマグリットは生活のために商業デザイナーの仕事を始めますが、その当時に作られたポスターや冊子の表紙絵等も展示されていました。

ジョルジョ・デ・キリコの作品に影響されて一気にシュルレアリスムに傾倒したマグリットは、妻のジョルジェットと共にパリに移住して提唱者アンドレ・ブルドンを始めとしたシュルレアリストのグループに参加しますが、この時期の作品から既にマグリット独自の不思議な世界観が垣間見え始めます。今回はその時期の代表作《恋人たち》を始めとした作品もなかなかの充実ぶりでした。

その後ブルドンと袂を分かったマグリットは、1930年に再び故郷のブリュッセルに戻って制作を続けました。ちょうどこの頃に、日常的なイメージの中に隠れた詩的な次元を明確化するという、独自の作品が登場します。個人的にはこの頃から後の作品が大好きなので、この辺りから嫌が応でもワクワクさせられます((o(^-^)o))。今回は《人間の条件》や《野の鍵》といったその頃を代表する作品が多数出展されていて、かなり見応えがありました。

やがて第二次世界大戦が勃発すると、直接的に戦禍を描くことこそ殆ど無かったものの、作風がガラッと明るく変わります。一般に『ルノアールの時代』と呼ばれる明るくて優しい画風は、恐怖や暗黒をもたらすナチスへのアンチテーゼと言われていますが、その頃の代表作《不思議の国のアリス》を観ているとちょっとわざとらしいくらいの明るい画面に、言いようのない違和感と謎めきを感じずにはいられません。

戦後の1947~48年までのほんの一時期、マグリットが自身で『ヴァージュ(雌牛)の時代』と呼んだ、やたらとけばけばしくも粗っぽい絵を描いたことがありました。これは当時のパリ画壇への皮肉を込めたものだったようですが、肝心のパリでは殆ど黙殺されたうえに、さすがの妻ジョルジェットにまで不評だったことで、割とあっという間にこの時代は終わります。その頃の作品も2点ありましたが、感想としては、そうだったのでしょうね( ̄_ ̄|||)…としか言いようがありませんでした。

50代を迎えたマグリットは、自分がかつて確立した1930年代の様式に回帰することとなりました。日常的なモティーフを用いながら、相互関係をずらしたり反転させたりすることによって生まれる矛盾に満ちた不条理の世界を描き出した作品が次々と発表されました。

今展では、《光の帝国 Ⅱ》や《ゴルコンダ》《大家族》《空の鳥》《白紙委任状》といった、円熟期から晩年にかけての傑作が多数出品されていました。特に《ゴルコンダ》は、本国ベルギーでの回顧展開催時には持ち主から出展を断られたにもかかわらず、どういうわけか今回の日本での回顧展には登場したという作品でした。こんな貴重な作品が観られるチャンスも滅多にないことですから、思う存分堪能してきました。特に《白紙委任状》や《大家族》が展示されたこの展覧会の最後の部屋を見た時には、内心『ここに泊まれる!』と思ったくらいです(止しなさい…)。

シュルレアリスムの巨匠として知られながらも、言葉やイメージ、時間と重力といった、日常の思考や行動を規定する枠を軽々と飛び越えてみせるマグリット独自の芸術世界は、その後のアートやデザインにも大きな影響を与えてきました。何の変哲もない日常に潜む神秘を現出させるマグリットの作品は、いつまで観ていても飽きません。ただ、それ故にか、今回の出展作には『個人蔵』であるものが多く見受けられました。となると、この回顧展を企画したキュレーターさんが、どれだけ苦労を重ねて開催に漕ぎつけたのかが、容易に想像することができます。それを日本に居ながらにして、これだけの数のマグリットの作品を堪能できるということは、実に有り難いことです。

6月29日(月)までと会期もありませんが、《ゴルコンダ》1点だけでも観に来る価値がありますから、興味のある方は是非お出かけになってみて下さい。(因みにこの《マグリット展》は7月11日(土)から10月12日(月・祝)まで、京都市美術館に巡回します。)
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