Suさんの学球日誌

理科&日本語教師のSuさん(旧名SunQ)が、
国内・国外様々な学校を渡り歩き、
いろいろなチャレンジを試みます。

相棒

2014年08月10日 | ノンジャンル
差し出した私の手に応え,彼女は手を差し出した。
小さく柔らかなその手に触れながら,私は彼女の夫・「相棒」の手の感触を思い出していた。
あのぶ厚く力強い掌と握手をかわすことはもう二度とない・・・・

悲しい知らせは昨日の朝,彼女から伝え聞いた。
「昨日の朝,夫が急に亡くなりました」・・・・・
空気が凍った,状況を脳が受け入れられない・・・・

この間久々に大学の先輩を囲んで集まったときは,元気に飲んで語っていたじゃないか。大病を克服中の先輩をみんなで一緒に励ましたじゃないか,なのになぜ彼がそんな急に?

 詳しく話を聞くと,本人も家族も寝ている一昨日の早朝か前夜に突然深刻な心臓発作がおき,そのまま亡くなったらしい。心臓については特に治療中ということでは無かったとのこと。以前心電図検査でひっかかり,精密検査を受けたことはあったが,経過観察という診断だったので楽観視していたようだ。

頭の中が混乱して色々なことが駆け巡る・・・

「相棒」と出会ったのは大学1年生の時だった。同じカットマンでありながら全然異なるタイプの二人。緻密で丁寧なプレーが持ち味の彼,奔放で奇襲プレーが大好きな私,下手くそだけど上手になりたい気持ちと無類の酒好きという点は共通していたので,一緒に残って練習したり,練習終わってから飲みに行ったり。長い時間を一緒に過ごした。2人でダブルスを組むことも多かった。一緒に泣いたり笑ったり,互いに怒ったり怒られたり,まさに青春時代の「相棒」である。

「相棒」が一番好きな瞬間だと常々語っていたのが,試合前の握手の時間だった。
「チームメート一人一人と頑張るぞって目を合わせて,手を握っていくと,身が引き締まる思いがするよね,絶対に勝ってやるぞっていう強い気持ちが湧き上がってくるんだ」

 確かに,こいつと握手するときは,ぐいぐい「勇気」が伝わってきたっけ。

 社会人になり結婚もし,お互い忙しくなって,この20年くらいは年に1回会うかどうかだったが,たまに会うと「久しぶり!元気してた?」と握手を交わし,思い出話や近況報告で盛り上がった後で,「そのうちまた卓球やろうぜ」と握手で別れるのがいつものパターンになっていた。

 今日は,セレモニーホールの安置室まで「相棒」に会いに来た。冷たい特別な棺のなか,まるで眠っているような顔して,彼はいた。
「来たぞ相棒!起きろよ!勝手に死んでんじゃねえぞ」叩いてもその頬は冷たい。涙がぽろぽろとあふれた。 泣き声を抑えることができない。 まるで子供のように泣けた。

 部屋を出てから,気を取り直して奥さんと話をした。今は何よりもこの人の気持ちが少しでも休まるように努めなければ・・・ 30分ほど話を聞き,葬儀に向けて手伝えることなどの相談を行った。少しは彼女の役に立ったならば良いのだけれど。

 別れの挨拶を交わした後,私は彼女に手を差し出した。
「アイツとはいつもこうやって別れてたんです」

 差し出した私の手に応え,彼女は手を差し出した。
小さく柔らかなその手に触れながら,私は「相棒」の手の感触を思い出していた。
あのぶ厚く力強い掌と握手をかわすことはもう二度とない・・・・

胸の中に冷たい塊がすとんと入り込んできて,


私は

心の中で

もう一度


ないた


合掌


コメント (1)
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