鬼の目に涙

午後３時過ぎ家に帰り，おそるおそるテレビをつけた。今日は全日本選手権最終日，女子シングルスの決勝が放映されているはず。

インターネットの情報で決勝の組合せは知っていた。３連覇を狙う平野と，昨春日本に帰化した王輝。昨年度の対戦では王輝の２戦２勝とのこと，しかも準決勝の福原戦を含め，ここまで１ゲームも落とすことなく勝ち上がってきている。強い，強すぎる！
国内で"鬼"と称される日本チャンピオンだが，かつて中国のトップだった選手には，惨敗を喫してしまうのではないか・・・　その様子を目の当たりにするのが怖かった。

立ち上がり，さすがの王輝も決勝は硬くなったのか，緩球にボールがあわず平野第１ゲーム先取。しかし次ゲームに入ると，打球点の高いカットに変化をつけて平野のミスを誘い出し，２ゲーム目は王輝奪取。

これ以降の攻防はすさまじいものがあった。一見すると単調な繋ぎ合いに見えるかもしれないが，一球一球互いに微妙な変化の仕掛けあいである・・・回転を変え，落点を変え，打点を変え，相手を崩そうと必死の思いを込めたラリーが延々と続く。テレビの前で応援する自分も息を詰め,手に汗をにぎりながら見守った。

一時はゲームカウント３－１とリードした平野だったが，第５,第６ゲームは完全にペースを狂わされた。緩球の合間に強打しても王輝はこれを苦も無く拾う，そして甘い球は容赦なく強打。これが張怡寧や郭躍ならば男子顔負けのパワーでぶち抜いてしまうのだろうが,非力な日本女子ではこれが限界なのか・・・・第７ゲームも１－６と劣勢だ。テレビ前の応援団があきらめかけたとき，"鬼"が目覚めた。

それまできらっていたフォア側にボールを送り，必死に王輝のミスを誘う。さすがに王輝も根負けしてきたのか，徐々に流れが平野側に戻ってくる。"根性"とか"勝ちへの執着心"とかの言葉では形容しがたい平野の並外れた頑張りだった。最後は促進にまで突入し，１時間半の消耗戦が決したとき，平野は泣いていた。テレビの前でsunQも涙をこらえられなかった。

守備力のあるカットマンに対して，ひたすら粘って戦うという戦術は，世界のトップを目指す上では，決してスマートな作戦では無いだろう。しかし，その極めて陳腐な泥臭い作戦を，心身の限界まで追い込んで遂行する体力と精神力は極めて非凡で秀逸である。ホント良い試合を見せてもらったなあ・・・。