私は山沿いの農村で育ち、遠足というものは小学校に入学してから経験した。遠足で思い出すのは母の巻きずしである。前夜、畑仕事でどんなに遅くなっても、母は早朝から卵焼きや干瓢、シイタケ、キュウリ、酢飯を材料に巻きずしを作ってくれた。私は母の傍らで巻きずしの切れ端をつまみながら、弁当が出来上がるのを見守った。おやつは、ゆで卵とバナナ、チロルチョコに都こんぶが定番だった。遠足で級友と食べる巻きずしの味は最高で格別だった。母の心のこもった巻きずしはもう食べることはできないが、少し酢の利いた素朴な味は忘れられない。
鹿児島市 吉松幸夫(48) 2006/10/14 掲載
鹿児島市 吉松幸夫(48) 2006/10/14 掲載