はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆9月度入選

2006-10-26 17:45:13 | 受賞作品
はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。
△薩摩川内市樋脇町、下市良幸さん(77)の「恋文」(1日)
△志布志市有明町伊崎田、西田光子さん(48)の「はずれー」(20日)
△出水市上知識町、年神貞子さん(70)の「茗荷」(7日)
の3点です。
9月は学校などの夏休みの後であり、またお墓まいりをした家庭も多いからか、家族への思いを書いたしみじみとした文章が多く出されました。下市さんの「恋文」は、喜寿を迎えての一人暮らしの中で亡妻の家事への大変な苦労が今こそよく分かると感謝して「いい連れ合いだった。明日も、大事に生きたい」と、元気に明るく結んでいます。寂しく辛い気持ちを書いて終わる人も多いと思いますが、奥さんに感謝する心を持って立派に生きていこうという明るい姿勢で結んだところ、それに「恋文」という思い切った題をつけて内容を反映させたのがよかったですね。年神さん、吉松幸夫さん、奥吉志代子さん、皆さん家族への思いをしみじみと伝えました。家族しか知らない小さいことを描いて、大きい愛情を感じさせる、それも押し付けがましくなく、というのがいいのです。
 さて、ダラダラとあるいはしっとりとして長いのが女性の文章でしたが、変わりましたねぇ。竹之内美知子さんの「戻ってきた服」、東郷久子さんの「安眠熟睡」、西田さんの「はずれー」などなど。概して皆さん、一文一文が短くユーモラス。竹之内さんのドレスを買って「鏡の前で一回転。いけるいけると、ニヤリ」と終わりました。東郷さんはよく眠った朝を書いた文の最後を「爽快。なんてこった。私にもこんな眠りをありがとう」と結びます。西田さんの「はずれー」は「うーん、外れた」空を見上げて決断。「よしっ、コインランドリーだ」コインランドリーに100円玉4枚入れて外に出た。「えっ、うそでしょう」青空が広がり始めた。……と続きます。文体は、内容を支配します。どんなことを書くのかをよく考えて内容に合った文体で書くよう努力してみましょうね。
(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
係から
 入選作品のうち1編は28日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。

吾が子飛ばしつ

2006-10-26 12:51:08 | はがき随筆
以前読んだ万葉集の山上憶良のばん歌を再読してみた。……命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 吾が子飛ばしつ……。病死した我が子を抱いて、憶良の悲しみはすさまじい。狂わんばかりに身体を動かしている。「吾が子飛ばしつ」を私はあの世に霊を飛ばしてしまった、すまないことをした、と受け取った。当時、異界はどのように表象されていたかは知らない。しかし、彼の情はそれを突き抜け、時代を超えて私たちに届く。ある母が我が子を邪険にして橋から突き飛ばしたという報道を見た。うそであってほしい。
   出水市 松尾 繁(71) 2006/10/26 掲載
写真はH.ozakiさんよりお借りしました。