はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆6月度入選

2008-07-23 22:30:25 | 受賞作品
 はがき随筆6月度の入選作品が決まりました。
△鹿屋市寿3、小幡晋一郎さん(75)の「春の風」(3日)
△霧島市霧島大窪、久野茂樹さん(58)の「君恋し」(13日)
△志布志市志布志町安楽、武田佐俊さん(65)の「すす」(26)──
の3点です。

 第7回「はがき随筆」大賞の記事を読みました。「家事回し」は、主婦にとっての家事の慌ただしさを「皿回し」に見立てたところが見事でした。「ささやかな宴」は、見てめでる桜を、目の不自由な夫に耳でめでさせる着想が秀逸でした。鹿児島版の作品を3ヶ月読ませてもらいましたが、一ひねりほしいというのが実感です。
 小幡さんの「春の風」は、桜咲くグラウンドで小学3年生にミカンをもらい、お返しに、ソメイヨシノは植樹して8年、同い年だと教えてあげた、という交流が描かれています。「春の風」「桜」「8歳」というにおい合いが効果をあげています。
 久野さん「君恋し」は、今ではすっかり粗大ゴミになってしまって妻の悪口ばかり言っているが、長期の留守ともなると「早く帰ってきて」と頼っている話です。一見老いの愚痴に見せながら、自分を突き放しているところに、おかし味が出ています。
 武田さん「すす」は、多趣味な毎日で、骨とう品のすすけた花台を磨いてみたがなかなかうまくいかない。日ごろ干渉しない妻の態度を「不気味」に感じていたが、今回は一言「自分のすすを落としたらね」。最後の一句が効果的で、今までの夫婦の日常が目に見えるようで、本当に不気味で、かつほほえましい。
 印象に残ったものを紹介します。中島征士さん「黒い小さい」(18日)は、夫婦でコジュケイの卵を電気スタンドでかえすのに成功した話で、ハラハラさせられました。清水昌子さん「ひ孫自慢」(23日)は、勘違いからひ孫が元気なひい爺さんを仏壇のように拝む話ですが、拝まれる本人が悦に入っています。福元啓刀さん「一匹のヤモリ」(29日)は、家族も寄りつかない「私の隠れ部屋」に、夜になるとガラス越しにヤモリが音もなく訪れてくれる。後期高齢者の「かけがえのない─トナー」。尾崎一雄の小説「虫のいろいろ」世界です。福元さんの文章にはいつも感心します。
(日本近代文学界評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦) 
係から 入選作品のうち1編は26日午前8時20分からMBCラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。

腫瘍に命名

2008-07-23 21:51:15 | はがき随筆
 視神経に癒着した腫瘍と長期間、共生している。立ち退く気配など全然ないので、名前でも付けて仲良くしていくことにした。小さい存在であってほしいとの願いを込めて、本名から「子」を削りワタリ・マヒロと命名。何か「いわさきちひろ」風で、本名より良い感じ。
 先日、デパートで買い物中、夫とはぐれた。特売日ですごい人出。携帯は通じない。呼び出しを頼みたいけれど実名では、とためらっていた矢先「ワタリマヒロさん、お連れの方が……」とアナウンスが。おお!
 よもや、こんな時こんな形で腫瘍の名前が役に立つとは。
   鹿児島市 馬渡浩子(60) 2008/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載

2期目の「伊藤色」は?

2008-07-23 17:20:50 | かごんま便り

 知事選のさなか、本棚の片隅にあった1冊の本が目に留まった。
 「知事が日本を変える」(文春新書、02年)。何とも勇ましいタイトルだが、当時、改革派の旗手と目された浅野史郎(宮城)▽北川正恭(三重)▽橋本大二郎(高知)──3知事の対談集だ。
 地方では最も巨大な組織体の一つである県庁。その中で、とかく国や一部議員などの顔色をうかがい、一般県民の視点が欠落しがちな行政運営。対談では、そうした旧態型県政と「格闘」する様子が現在進行形で語られている。具体的には情報公開、県職員の意識改革、なれ合いを廃した議会対策、などだ。
 発刊から6年、3氏ともに知事職を退いた今、読み返してもさほど違和感がないのは、裏返せば地方行政の改革はまだまだ道半ば、ということかもしれない。
◇  ◇  ◇
 伊藤祐一郎知事が再選され、間もなく2期目の任期(28日~12年7月27日)がスタートする。首長の本領発揮は2期目から、というのが通例だ。1期目はどうしても前任者の敷いたレール(正の”遺産”も負のそれも)に影響されるからだ。
 伊藤知事は「知事は行政官が8割、政治家が2割」との認識と側聞するが、失礼ながらこれは逆だろう。選挙民に選ばれる立場の首長は、まごうことなく政治家である。現代の知事には旧来にも増して県民への説明責任が強く求められる。隣県知事の例を引くまでもなく、トップセールスマンとしての役割も大きい。元タレントの派手なスタイルをまねる必要はさらさらないが、政治家としては適度のパフォーマンスも欠かせない。
 伊藤知事はいわゆる「改革派知事」とは違う、独自の自負をお持ちと聞く。財政難の中ではあるが、制度設計にとどまらない真の県政改革と、豊かな県作りに向け、どんな「伊藤色」が見られるのか、期待したい。
鹿児島支局長 平山千里2008/7/20 毎日新聞掲載