はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

電話

2008-09-12 23:22:01 | はがき随筆
 律儀に、決まった日、決まった時刻にかかってくる電話を待っている。
 たまに黙りこむと「聞いてるの?」と言う。
 「顔が見えないので話しづらーい」と無理を言えば「仕方ない」と言う。
 ほんとに仕方ないので、耳を澄ませば見えてくる。はずんだ声、顔が輝いている。低いトーン、心配事でも?
 肉眼で見ることができず、心で見ようとするので、互いのきずなは深くなっていく。
 便利なだけのものではなかった。
 電話をみなおした。
   鹿屋市 伊地知咲子(71) 2008/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載

川柳闘争

2008-09-12 23:06:45 | はがき随筆
 ザリガニを見つけてためらっている5歳の男児をけしかけた。3匹の収穫と引き換えに、白い靴は真っ黒け。「ザリガニを褒めてしからぬ靴汚れ」。即興の川柳を書き、ママが怒らないおまじない、と彼に持たせた。
 2日後「よその児に口出す前に洗濯代」。返柳にちょこざいなと「児が捕りしザリガニママの鼻高く」とやり返す。
 男児のママとばったり遭遇。「児が捕ったザリガニパパのお守りする」。彼女の放つ川柳に「お主出来るな」「武蔵、お主こそ」。ここでたまらず大爆笑。かくして16句に及ぶザリガニ川柳闘争に幕が下りた。
   出水市 道田道範(59) 2008/9/7 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は里人さん

夫の金メダル

2008-09-12 22:46:36 | はがき随筆
 2008年、我が家の夏。高知の弟家族が帰省。出雲大社の60年ぶりの本殿公開があり、見学のため家族で初めての山陰旅行。神奈川の知人が家族で来訪──と、充実した楽しい夏を迎えることができた。これも夫のおかげである。
 夏休みに入る前、私は不安だった。ここ2~3年、夏になると体調を崩していたので、気温の一番高い時間帯に牛乳配達の仕事をする中でこれだけのスケジュールをこなせるだろうか。そうしたところ思いがけず夫が積極的に家事に協力し、助けてくれた。「ありがとう」。私から夫へ、金メダルを贈りたい。
   志布志市 西田光子(50) 2008/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載

あらっ不思議

2008-09-12 22:39:36 | はがき随筆
 何とただの1匹だにいない。どうしたの、どこへ行ったの。
 お隣に家が建つことになり畑を整地、砂利を打ちこみ、床の造作に入るや毎朝、アリの大群が台所に来て、砂糖をはじめ黒山のように占拠した。娘が盆前に防虫剤を買ってきたが、中のものを持ち出せず、食べて身一つのお出まし。ガスや電気のコードから侵入して盆以降も毎朝アリだかり黒山の占拠。身の毛がよだつ毎日。砂糖を隠し果物を始末してみたがだめだった。
 隣の土台に雨ががんぶりたまり、ちょっと涼しかった今朝、1匹だにいない。どこへ行ったのだろう。あれ程のアリが。
   鹿児島市 東郷久子(74) 2008/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

再会

2008-09-12 22:32:26 | はがき随筆
 突然の訪問者。「Aです」「B子です」。あぜんとしている私に握手の嵐。部屋に誘い入れ、万感の思いで話が弾む。90歳の母に頼まれ、私の顔を撮ってこいとのことでビデオが回った。
 戦後、平和で人情厚い村を後に、家族や若者は都会へ。そのころ2人は子供だったので、すっかり忘れていた。おじさんの顔が見たくて? 胸にじんときた。同窓生たちとの還暦祝いで45年ぶりに帰郷したとのこと。立派な大人になり還暦を迎えた2人に心からの祝福の言葉を贈った。私も至福の時だった。
 「時間です」。2人は還暦祝いの会場へ向かった。
   霧島市 楠元勇一(81) 2008/9/4 毎日新聞鹿児島版掲載