はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「つばめ」国道を走る

2009-07-05 23:08:53 | アカショウビンのつぶやき
 今年の夏から九州新幹線に投入される800系「つばめ」の新型車両3輌が、製造工場がある山口県下松市から川内港へ輸送船で運ばれ、5月24日未明、川内港から21.5㌔離れた川内車両基地まで、トレーラーで搬送された。
 狭い住宅地を進む場面もあり、沿道は多くの市民や鉄道ファンが詰めかけカメラを手に見守ったという。
 新800系車両は現在の800系車両を一部改良したもので、外観は殆ど変わらないが、客室の壁に金箔を張るなど内装に「和」の雰囲気を取り入れたらしい。

 金ピカ趣味はどうかと思うが、7月下旬に営業運転を始めるそうだから、まあ一度乗ってみるのもいいかな…。しかしここ大隅半島からは、まず錦江湾をフェリーで渡らないと、新幹線に乗れないのだ。陸の孤島の悲哀を感じるなあ。
 

1人の庭で

2009-07-05 22:00:59 | はがき随筆
 青葉が日々、色濃くなっていく。6月は底本の剪定の時期。私も少しずつ始めている。
 近ごろは体を動かす軽い庭仕事が好きになった。とはいえ、松の手入れだけはちょっと厄介だ。木はさして大きくないが、上の方は脚立を使わざるを得ない。
 82歳の老女、脚立から転落云々とニュースになっては大恥なので、まずは用心第一、命綱を幹にしっかり取り付ける。これで直接の落下は免れようが、ぶら下がりの醜態と枝の2、3本は犠牲にするかも。
 一昨年の秋までは夫の作業を手伝う程度だった。夫は挟い庭に多すぎるほど木を植え、ほとんど茂るに任せていたので間引きを主張する私とは始終言い合ったものだ。
 そんなけんか相手も昨年逝き、庭は早々と私の思い通りにさせてもらった。結果、待望のすっきりした庭に変わりはしたが……。
 「何とまあ、切りまくったものよのう」
 そんな夫の文句が聞こえて来そうである。
 整理した数本の切り株から新芽が盛んに出てくる。取っても取っても執念のように次々と。いじらしくもあるが、伸ばすわけにはいかない。「ごめんね」とわびながら、こちらも負けずにせっせと摘み取る。
 1人往まいの私の庭。自分の手で、あとどのくらい維持できるだろうか。
 今、アジサイが花盛り。
  山□県下松市 坂口 敏子・82歳 2009/6/29 の気持ち掲載
写真はネロさん

ダイエット

2009-07-05 21:27:00 | はがき随筆
 昨年、テレビや健康誌でバナナダイエットのことを知った。
 早速、メタボ予備軍の私と妻は実践することに。同時にスタートしたが、妻は「何の効果もない。バナナでやせるというのはウソだ」と言って3ヵ月ぐらいで止めてしまった。執念深い私は、いつかは効果が現れることを信じ、今も続けている。しかし腹がへこむわけでもなく、体重が減るわけでもない。毎日新聞にも『○○ダイエット』根拠なし」の記事が載ったが、やせるというのはウソなのか。
 「信じる者は救われる」と言われるが、止めるべきか続けるべきか、誰か教えて!
  鹿児島市 川端清一郎(62) 2009/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はyumikoさん

地の恵み

2009-07-05 21:24:36 | はがき随筆
 3日がかりで梅の実を落とし、左手でひざの上に支えた瓶へ竹串でエキスを出し、砂糖を入れシロップ作りを試みた。
 次にドクダミの白い小花に葉柄を付け、焼酎と共にコーヒーの空瓶に入れ、虫さされの薬を作った。2年ぶり。
 毎日届く外食に自分の昧も加えたいと、身近に生えているフキ・三つ葉・青ジソ・ニラ・タケノコなどを考えた。不自由な体で、ささいな事にも時間が必要だが、1日に一つだけでも、地の恵みを-。
 疲れた体に、赤いヒナゲシと青空が新鮮だ。あすは木の芽あえを作りたいと想像する。
  薩摩川内市 上野昭子(80) 2009/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は里人さん

2009-07-05 21:21:29 | はがき随筆
 宇宙飛行士が尿を還元して水にした。「宇宙の水」。補給船の水と味は同じだ。多様に使用される。体内の老廃物を還元。水は薬にも毒にもなる。人の死に際には末期の水。水ほど大切な物は見つからないでしょう。
 戦場や砂漠では尿を飲んだと耳にした。境地に立ったとき生命をつなぐため飲むだろう。オアシス、美しくもありありがたい。一滴の水も重宝される。
 ある時の住職は荒行を営むのに水だけで何日も成し遂げた。宇宙船の水は実験を重ねた成果であろう。地上の人には夢の水。夢かも知れないが宇宙船の水を飲んでみたい。ロマンかな。
  加治木町 堀美代子(64) 2009/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

筍ざんまい

2009-07-05 19:46:48 | 女の気持ち/男の気持ち
 筍が好きで、毎日のように食べても飽きない。寒山竹は今が旬。果肉が厚く柔らかいので鹿児島では「大名竹」と呼ばれる。アクが少なくゆがかずにてんぷらやバーベキューにいい。梅雨鯵、春ジャガと煮ても季節の味だ。
 「一人息子に食べさせるくらいの筍は一年中とれる」と聞いたことがある。昔の人たちが自然に溶け込んで暮らしてきた様が思い浮かぶ。改めて食べられる筍を数えてみると、春先の孟宗竹から初冬の矢竹まで10種以上の筍があり、とれる時期も長く独特の調理法がある。
 珍味は「メダケ」の直火焼き。皮ごと焼き、焦げ目ができたらむいて熱々にミソを付けて食べる。「キンチク」と呼ばれるホウライ竹はお盆のころとれるので、煮そうめんの汁にする郷土料理だ。
 私の郷里には「盆釜」と言って子供たちだけで炊き込みご飯を作らせる習わしがあった。底先に石でかまどをこしらえて材料を準備し、後は子供たちが料理する。ホウライ竹の筍と新米をしょうゆの薄味で炊き、柿の葉にくるんで食べると風味も格別だった。
 息子たちが小学生のころ、この盆釜を復活させた。孟宗竹を割り、それを釜にして炊いた。生竹の甘い香りとしょうゆの焦げ目が絶妙だった。
 今朝も「また、筍の話?」と妻に言われながら、筍の調理法のうんちくを傾ける。昨日もらったハチクの千切り炒めに舌鼓を打ちながら。
  鹿児島県鹿屋市 上村 泉・68歳 2009/6/21 の気持ち掲載
写真はyushitaさん

人の気も知らないで

2009-07-05 19:31:15 | 女の気持ち/男の気持ち
 何かあると病院に行く私を、妻は笑う。これではいつまでたっても私に自由な時間はこないわね、と。
 そんな妻が突然、病院に行くと言い出した。その前夜は「私の保険では入院料は出ないけど、万一の場合はこう。あなたのがん保険は家族型だから、もし私ががんでも大丈夫だね」などと真顔で話し、印鑑や年金証書など貴重品はここにあるからと念を押す。あまりの大げささに私は最初笑っていたが、妻はにこりともしない。「みそ汁も作れない亭主なのに」と心配もだんだん現実妹を帯びてくる。
 その朝は出陣の武将のごとく、下着を新品にはき替えていた。いつ果てても恥をかかぬようとの心構えだという。いつ電話するやもしれないから、携帯電話は一時も手放すべからず。病院が直接電話する可能性もあるから、見かけない電話番号でも今日だけはちゃんと出ることなどを言い渡された。今にも遺書を認めだしかねない雰囲気だった。 
 昼の食事は準備されていたが、これが最後の妻の手料理かと思うと、箸をつける気などしなかった。
 夕方近く、妻が大きなレジ袋を提げて帰ってきた。
 「至って健康だとお医者からお墨付きをもらった。さ、今夜はビールで乾杯、乾杯。酒の肴はほれ、こんなに買ってきた」そう言うと、戦利品でもあるかのように玄関先にレジ袋をドーンと置いたのだった。
  鹿児島県肝付町 吉井 三男・67歳 2009/5/9 毎日新聞の気持ち掲載