はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あこがれ

2009-07-24 22:30:29 | はがき随筆
 3号線を南下し牛之浜駅を過ぎると右手に海が広がる。やがて東映映画の最初のシーンによく似た岩と波の風景が現れる。
 何度もそこを通るうち車を止めて眺めるようになった。心引かれる何かがある。何だろう?
 鉛筆デッサンをしながら思った。岩は縄文杉よりきっと古い。長い歳月でぜい肉がそがれたギリギリの形をしている。ジャコメッティの彫刻のよう。針金のような彼の作品にはしんがある。強い存在感がある。永遠がある。この岩もそうだ。オレはそんな強固なものにあこがれていたのだろうか……?
 岩に砕ける波が美しかった。
  出水市 中島征士(64)2009/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載
 

敵討ち

2009-07-24 22:26:26 | はがき随筆
 何か脇腹辺りに違和感が。ふと視線を落とした途端「ギャアーッ!」。人さし指大のムカデが。パニック状態で立ち上がり手で払いのけたはいいが、さてムカデはどこに? こういう時に限って妻は留守。ハエたたきを手に手当たり次第、物をどかしてみる。いない。火事場の馬鹿力でタンスまで動かした。夕方帰宅した妻いわく「ムカデって夫婦でいるから、昨日私たちが殺した夫を探しに来たんじゃないかしら?」「それって敵討ち?」。背中に冷たいものを感じた私は、どうでもいいふうの妻を励まし、また一から後家さんムカデを探すのでした。
 霧島市 久野茂樹(59) 2009/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載

雨の子

2009-07-24 22:22:06 | はがき随筆
 パタ、パタ、パタと大粒の雨が降ってきた。庭では白い雨の子がキラキラと踊り出した。「元気ですか-っ」と手を振っているようだ。「オーッ良く来たなあ」としばらく見とれているとサーッと消えてしまった。
 今年の梅雨は、どうも気が短いようだ。別に雨が好きな訳ではないのだが、所在無いこのような日は、何だか救われたような気がする。
 もう来ないのかな?と待っていると、だんだん辺りが暗くなってきた。遠くからザアザアと近づいてくる音がする。今度は本格的な雨らしい。畜生っ! 隣でアジサイが笑ってやがる。
  鹿児島市 高野幸祐(76) 2009/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載