別れの時が来た。夫の顔を私は心の中にしっかと焼きつける。組んだ両手に数珠とマーガレットの花を持って、夫は「麗子、先に行ってるよ」と扉の中に消えていった。
それ以来、道や家々の庭先にマーガレットを見つけると、しばしたたずんで動けない。花が「麗子、守っているよ」と笑いかけてくるからだ。
夫の命が終わった時、師長さんが「ちょっと」と外に出られ、戻ってこられた手にマーガレットの花が握られていた。「病院のマーガレットですよ」と手に握らせてくださった。夫はどんなにうれしかったろうと心に染みた。
夫は常々「この病院が僕の終のすみかだよ。先生を心から尊敬しているんだ。師長さん、看護師さん、働く皆さんがきびきびとして、それでいて優しいんだ」と言っていた。死が近づいた時、「お世話になりました。ありがとうございました」とたどたどしくお礼を言う夫に、「助けてあげられなくて残念です」と涙ぐんでくださった先生に、私は一生感謝の心を持ち続ける。
マーガレットはピンとしおれることもなく、夫の手に握られて旅立っていった。「この花は数珠と一緒に送りましょうね」との葬儀社の方の優しい言葉も忘れない。
病院と患者の問題があれこれマスコミをにぎわせている昨今だが、私は病院の玄関で感謝の一礼をして入る。
マーガレットの花言葉は、真実の愛である。
福岡県飯塚市 高井 麗子・76歳 2009/7/17 毎日新聞女の気持ち掲載
写真は にゃきぶさん
それ以来、道や家々の庭先にマーガレットを見つけると、しばしたたずんで動けない。花が「麗子、守っているよ」と笑いかけてくるからだ。
夫の命が終わった時、師長さんが「ちょっと」と外に出られ、戻ってこられた手にマーガレットの花が握られていた。「病院のマーガレットですよ」と手に握らせてくださった。夫はどんなにうれしかったろうと心に染みた。
夫は常々「この病院が僕の終のすみかだよ。先生を心から尊敬しているんだ。師長さん、看護師さん、働く皆さんがきびきびとして、それでいて優しいんだ」と言っていた。死が近づいた時、「お世話になりました。ありがとうございました」とたどたどしくお礼を言う夫に、「助けてあげられなくて残念です」と涙ぐんでくださった先生に、私は一生感謝の心を持ち続ける。
マーガレットはピンとしおれることもなく、夫の手に握られて旅立っていった。「この花は数珠と一緒に送りましょうね」との葬儀社の方の優しい言葉も忘れない。
病院と患者の問題があれこれマスコミをにぎわせている昨今だが、私は病院の玄関で感謝の一礼をして入る。
マーガレットの花言葉は、真実の愛である。
福岡県飯塚市 高井 麗子・76歳 2009/7/17 毎日新聞女の気持ち掲載
写真は にゃきぶさん