食卓にお猪□が二つ並ぶようになったのは今年の初め頃だったろうか。下戸の標本のような私。ほんの少々たしなむ妻。合わせても晩酌と呼ぶのもおこがましいほどの酒量である。それでも一日の締めくくりに「お疲れ」「ご苦労さん」と言葉を交わし、カチツと合わせるお猪□の音を楽しんでいる。
母と3人暮らしの頃は、母に誘われるまま、たまに楽しんでいた晩酌。母の大腿骨骨折入院を機に封印した。
「高齢ゆえ、いついかなる状態になるか。そのリスクをしっかり承知しておいてください」と医師からも、続く介護施設入所の面談でも厳しく申し渡された。
夫婦で「2人同時にお酒を飲まない」「携帯電話は肌身離さない」と誓った。緊急呼び出しにもすぐに車で対応できる態勢を整えておく。それが母と一緒に生きている証しなのだと思いたかった。
骨折から3年、101歳の母を昨秋見送った。その頃から携帯電話の扱いがぞんざいになり、どこに置いたかすぐ忘れる。固定電話で音を鳴らし探し当てることも多い。ただこれは、肌身離さなかった頃の緊迫感から解放されたせいだけでもなさそうだ。
晩酌を復活させたように、携帯電話にも楽しい話、おいしい話での出番を増やせるよう努力して、少し緊張感のある生活リズムを取り戻そう。母の年を目標に、元気で楽しい老後を目指して。
山□県岩国市 吉岡 賢一・67歳 2009/9/3 毎日新聞男の気持ち掲載
母と3人暮らしの頃は、母に誘われるまま、たまに楽しんでいた晩酌。母の大腿骨骨折入院を機に封印した。
「高齢ゆえ、いついかなる状態になるか。そのリスクをしっかり承知しておいてください」と医師からも、続く介護施設入所の面談でも厳しく申し渡された。
夫婦で「2人同時にお酒を飲まない」「携帯電話は肌身離さない」と誓った。緊急呼び出しにもすぐに車で対応できる態勢を整えておく。それが母と一緒に生きている証しなのだと思いたかった。
骨折から3年、101歳の母を昨秋見送った。その頃から携帯電話の扱いがぞんざいになり、どこに置いたかすぐ忘れる。固定電話で音を鳴らし探し当てることも多い。ただこれは、肌身離さなかった頃の緊迫感から解放されたせいだけでもなさそうだ。
晩酌を復活させたように、携帯電話にも楽しい話、おいしい話での出番を増やせるよう努力して、少し緊張感のある生活リズムを取り戻そう。母の年を目標に、元気で楽しい老後を目指して。
山□県岩国市 吉岡 賢一・67歳 2009/9/3 毎日新聞男の気持ち掲載