はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆8月度入選

2009-09-25 21:33:42 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入選作品が決まりまし
た。
▽中種子町増田、西田光子さん(51)の「ミステリアス」(9日)
▽いちき串木野市上名、奥吉志代子さん(60)の「夏の思い出」(22日)
▽姶良町東餅田、高橋たまさん(74)の「梅仕事」(15日)
―の3点です。

 近くの大学に集中講義に出かけ、その試験の時「今後の参考にするから、講義の批評をしておいてくれ」と言ったら「70歳の先生にも今後の参考が必要ですか」と逆に聞かれ、一瞬戸惑いました。文章を書く時もそうですが、自分に対する遠近法は難しいものです。
 西田さんの「ミステリアス」は、雨天の皆既日食ではあったが、神秘的な体験ができた。26年後の皆既日食まで元気でいようと楽しみができたのは、日食がもたらしたミステリアスだという、明るく希望のある文章です。
 奥吉さんの「夏の思い出」は小学3年の時、隣家の中学生と虫捕りに行き、のどが乾いたので田んぼのスイカを取って食べたという「生まれて初めての泥棒体験」が、まるで昨日のことのように鮮やかに描かれています。今でもドキドキしますね。
 高橋さんの「梅仕事」は、今年の天候不順で梅干しの「土用干し」が出来ない。そのあせりと、昨年の作旬が結びつけられています。「梅干して母の姿のありありと」。日常のある瞬間に、亡き人のことが思い出されるのは不思議な現象ですが、その一瞬がうまく言葉に定着されています。 
 以上が入選作です。次に優れていたものをいくつかを紹介します。
 御領満さんの「パートナー」 (27日)は、3人の子供たちが結婚して次々と家を離れ、夫婦2人だけになってしまうと、お互いに言葉遣いにも気をつけるようになった、という内容です。本当の意味のパートナーシップの始まりです。浜地恵美子さんの「脱帽です」(23日)は、宴会のくじで焼酎が当たったご主人が、その他にも孫娘のために、大きなピンクの人形を譲ってもらって抱えてきたという、想像するさえ微笑ましくなる内容です。小村忍さんの「植物採集会」(28日)は、子供だちと植物採集に出掛けた時の、子供たちの生き生きとした様子が、温かい視線で描かれています。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授石田忠彦)





娘たち

2009-09-25 17:28:55 | はがき随筆
 夫が内視鏡で食道の手術をした。私が鹿児島から帰った日、下の娘が晩ご飯のおかずを持ってくると言う。下の娘が来る直前、長女もやって来た。手術後に無事終わったとの私の電話に対し、素っ気ない返事をしたとしてご機嫌伺いに来たのでした。素っ気ないのは私の方と思うけど。彼女たちが幼かったころ私はどんなおやつを用意したかしら。全然覚えていない。多分、安い駄菓子を時々やっていたに違いない。今、親として娘たちは立派に務め、やさしくパワーのある女性になった。ありがとう。もしかしたら私は反面教師だったのかしら。
  美園春子(72) 2009/9/25 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-24

2009-09-25 15:47:27 | はがき随筆
「グラウンドの風」
 グラウンドの周りの樹木や、草原の香りを川風が運ぶ。ランニングで疲れた老骨が癒やされる。
 そのやさしい風が、走るリズムを狂わせることがある。休日の昼時や夕方、隣の広場に人の輪が出来て、バーベキューを始める時だ。焼き肉のにおいが鼻をくすぐり、すきっ腹の虫を鳴かせる。時たま知り合いが「肉がうまかど~。ビールが冷えちょっど」と手招きする。誘惑に「×サイン」を出し一礼してダッシュ。風も、食材やたれのにおいを伴い走る。
 自然が残るグラウンドで、四季の風に触れながら、運動を楽しめる私は……しあわせ。
 出水市 清田文雄(70) 2009/9/25 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-23

2009-09-25 15:46:10 | はがき随筆
「風をかわして」
 朝夕の風が涼しくなり、叔母の墓参りを思い立った。墓のある八代へ行く途中、高速道で疾走するパトカーとすれ違った。墓に参り、食事や買い物などで2時間余り八代にいた。そして何事もなく出水に戻った。翌朝、新聞を見て驚いた。高遠道での事故で2人亡くなり2時間通行止めになったとある。更に驚いたことに熊本県警から電話がきた。その事故は私たちのすぐ後で起きていたという。Nシステムで車を調べ、何か気付かなかったかとの問い合わせだった。私たちは知らぬうちにまがまがしい風をかわし、墓参りをしてきたことを知った。
  出水市 清水昌子(56) 2009/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-22

2009-09-25 15:43:18 | はがき随筆
「東風と灰」
 桜島の噴煙は東風にのって鹿児島市街地に灰を降らす。
 8月6日の爆発時、外出していて、どか灰に見舞われた。白い衣服はたちまち灰が付着し、だんだん黒ずんでいった。車が通る度に一面灰かぐら。ハンカチで□を覆い、急ぎ足でバスに乗り込んだ。
 度々の降灰に家の窓も開けられぬ日が続き、めいってしまう。それでも、あちこちの窓を少しずつ開けているので、すき間から灰が入る。今では掃除が日課になっている。
 日々、秋の気配を感じる朝夕。思い切り空気を深呼吸したい。この思い、雨に期待するしかない。
鹿児島市 竹之内美知子(70)


はがき随筆特集「風」-21

2009-09-25 15:38:44 | はがき随筆
「風の子のころが」
 鹿児島市へ向かう時、降灰の中を走ることになった。降るだけでなく通過する車が巻き上げるほこりと相まって前の車が一瞬見えなくなる。季節は違うが、空の風の情景を思い出していた。
 冬の中ごろから初春にかけてこの風が吹く。戦後の食料増産で雑木林は一気に開墾され、武蔵野の大地は巻き上げる土ぼこりで空を暗くする風になる。そんな中でもぼくたち風の子は遊びほうけたものだ。鼻をかむと土ぼこりが確認できた。しかし住宅地に変容した今、冷たい風だけが吹いて、鼻汁の子供はいない。遠い日のことを一瞬の風に見た。
 志布志市 若宮庸成(70) 2009/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-20

2009-09-25 15:34:59 | はがき随筆
「風になって」
 好景気に沸く昭和40年代、私は大阪にいた。万博の開催に向け、大阪空港の仕事に就き、夢をのせて福岡の地を飛び立った。
 見上げる太陽の塔、会場の広さに圧倒された。各パビリオンは人であふれ何度も迷子になった。寮の近くは阪急電車が数分おきに走っていてびっくり。京都、奈良も度々訪ねた。おしゃれな神戸の町にひかれ1000万㌦の夜景にはノスタルジアをかきたてられた。
 華やかな都会も3年いると悲喜こもごも。やさしかった寮母さん、青春をおう歌したあの時の仲間たち。できるものなら風になって伝えたい。皆さんお元気ですか。
  出水市武本伊尻清子(59 2009/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載)


はがき随筆特集「風」-19

2009-09-25 15:18:30 | はがき随筆
「楽農の風」
 小学校、中学校時代、兄弟も多く貧しくて、来る日も来る日も家の農作業を手伝わされた。「笛吹童子」などラジオドラマに友と話を合わせることもできず、貴重な労働力としてやらされた。今考えると「ぶすっ」として、進んでやることも無かったのだろう。
 それぞれの職に就いて幾星霜。退職し故郷に帰ってきた。嫌でたまらなかった農業をそれぞれが喜々としてやっている。競い合い情報を分かち合い、時にはそろって飲んでいる。
 嫌でもやらせた今は亡き父や母。恩をしみじみ感じている。台地を渡る風はやさしく流れて行く。
  南九州市 有馬芳太郎(66) 2009/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載