はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花火

2010-09-06 21:19:52 | 女の気持ち/男の気持ち


 8月中旬、風がそよりとも吹かない蒸し暑い夜の9時近く、外からポーン、ポーンと規則正しい小さな音が聞こえてくる。ベランダに出てみると、遠くの山並みの空に花火が上がっていた。
 「ああ、花火か……」
 どこから打ち上げられているのか分からないが、毎年見られる美しい打ち上げ花火である。
 じっと見ていると、去年の今ごろはまだ夫は生きていたんだなあと、頭の中で時間をもどす。
 親を介護していた夫から、体調が悪いと電話があった。すぐに姑を預かってもらえる施設を探し、8月31日に検査入院をした。その結果、末期の胃がんで手遅れであることが分かった。ショックで動転する私に代わり、夫が自身で病状説明を聞いていた。それからバタバタと日が過ぎて、ひと月と5日で帰らぬ人となってしまった。
 本人は苦しく辛かったと思うのだが、見舞客には終始笑顔を見せて応対していた。しかし、亡くなる前日に「見舞客は断ってくれないか」と寂しそうな小さな声でそうつぶやいた。
 翌日、血圧が急に下がり、この世を去った。
 映画のタイトルじゃないけれど、名もなく貧しくを地でいったような人生だった。自分を無にして相手をたてるすべをもっていた。私にはまねのできることではない。
 花火を見ながら時の流れの早さを感じた。
  福岡県宗像市 安西純子(60歳) 2010/9/6 毎日新聞の気持ち欄掲載

言葉パワー

2010-09-06 15:35:30 | ペン&ぺん
 「フォースを使え」
 映画スター・ウォーズに、こんなセリフがあった。この場合のフォースは超能力の意味。主人公が自分でも気づかぬ潜在的能力を初めて発揮するシーンだったか。
 英語で「力」を意味する言葉は、フォースとパワー。フォースは物理的な暴力や腕力に使う。エア・フォースと言えば、空軍。
 パワーは電力などを意味するが、政治的権力も指す。パーティー・イン・パワーと言えば、政権与党だ。
   ◇
 さて、日本の政権与党の代表戦選が間もなく行われる。菅直人代表に小沢一郎元代表。小沢氏が代表選に名乗りを上げた先月26日、本紙は100人アンケートで市民に意見を集めた。小沢氏に対しては「力のある政治家が今こそ必要」との評価があった。この場合の力はパワーだろう。
 菅氏が代表だった民主党と、小沢氏の自由党が合併したのは2003年10月。7年前だ。月刊誌Voice(ボイス)が両氏の対談を掲載した。菅氏は対談で、小沢氏を「日本における最も強いリーダーシップを持った政治家」と持ち上げた。
 対する小沢氏は野党党首だった菅氏に三つ注文を出す。すべての小選挙区に「いい候補」を擁立すること。政権奪取後、必ず実現する公約を二つか三つ用意すること。小沢氏は「どんなに多くとも(公約は)五つまで」と言い添えている。三つ目は、選挙前にシャドー・キャビネット(影の内閣)を打ち出すこと。
 小沢氏の菅氏に対する三つの注文は、具体的で短い言葉に要約できる。「いい候補を立てろ」「公約は三つ」「影の内閣を準備せよ」
 整理部に勤務時、先輩から「見出しの文字数を減らせ。短いほど言葉は強くなる」と教わった。小沢氏をパワフルに感じさせる秘密は、ぶっきらぼうな短い言葉にあるのかもしれない。
 鹿児島支局長・馬原浩 2010/9/6 毎日新聞掲載

ひまわりサロン

2010-09-06 07:33:24 | はがき随筆
 きょうは、ひまわりサロンの日だ。高齢者は楽しみにしている。雷が鳴り、雨が降りそうで心配だ。だが、押し車や歩いて常連の人が集まってきた。みんなで持ち寄りの漬物や駄菓子を食べながらおしゃべりが弾む。健康や病気のこと、家族のことなど雷が鳴っているのも気にせず、おしゃべりだ。きょうはことばや地名についても少し勉強した。予定の時刻をオーバーしたが、雨で帰れない。小降りになったので、残った漬物などを分け合って家路についた。みんなからパワーをもらって「また、なーあ」と。
  出水市 畑中大喜(73) 2010/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載

新学期目前

2010-09-06 07:10:31 | はがき随筆
 夏休みも終わりに近づいたある日。習字の宿題がすんでいないと私塾で仕上げる事に。彼は小6の健康な男子なのでちょっとエンジンをかけても動じないと思い、最高作品を仕上げようと注意の数々。最後まで居残った。夏休み中、外国旅行に行き、学校の提出がせまっている。一人になりとうとう下を向いて泣いている。「ごめんね」。あなたをせめて。泣きたいのはこちらも同様。
 カナダのお土産を持って月謝まで払ってくれたのに。再度「ごめんね」と言いたい気持ち。
 帰宅して紅葉模様のビスケットをおいしくいただいた。
  肝付町 鳥取部京子(70) 2010/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載