はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

我が家の夏祭り

2010-09-25 16:06:13 | はがき随筆


 タンポポのように飛んでいった子供たち3人が家庭を持って以来、初めて集合した。念願かなって、13人の受け入れにてんてこ舞い。まずは仏間で記念撮影。小5を頭に孫5人は、たちまち仲良くなり池のカニと金魚に無我夢中。夜は焼き肉と花火の祝宴に大歓声。光と音のシャワーをあびて思い切り古里の夜を楽しんでいる姿に胸が熱くなった。翌日は海辺で終日、泳ぎ、孫たちはシジとハバの部屋に布団を運び枕投げをして眠った。しかってばかりした子ども3人も荒波にもまれて頑張っている。お互い元気で再会しようと暑く熱く燃えた夏が終わった。
  薩摩川内市 田中由利子(69) 2010/9/25 毎日新聞鹿児島版掲載

なんまいだ。なんまいだ。

2010-09-25 15:33:40 | はがき随筆
 暑苦しい真夜中。
 「なんまいだ。なんまいだ。なんまいだ」
 この声で、目が覚めた。椅子に座って母が、農業を長くして節くれ立った両手を合わせていた。
 頭の手術をしてからというもの、最近すっかり言葉を忘れてしまっている。周りは理解させるのに一苦労。
 来年は父の、七年忌。お祈りだろうか。来年は母の卒寿。感謝かもしれない。忘れられて遠くなったこの言葉は覚えていたのか。
 声をかけることが、はばかられた一夜であった。
  姶良市 山下恰(64) 2010/9/24 毎日新聞鹿児島版掲載

悩んでみよう

2010-09-25 15:26:49 | はがき随筆
 法律を学ぶ学生として、市民を相手に無料法律相談をしている。そこで、いろんな悩みを抱えた人に出会う。時には相談される私たちが悩むこともある。
 亡き父の遺産相続を巡り、兄弟喧嘩になったとの相談を受けた時のことだった。その人に、法的なアドバイスをし満足していただけたのだが、私の心は晴れなかった。遺産相続をはっきりさせることは大切。だが、兄弟の絆も、もっと大切だ。そんなことを感じる相談だった。
 大学の講義では、出会えない悩みだ。それが法律相談の意義。実際に悩んでみないと、分からないことはたくさんある。
  鹿児島市 百瀬翔一郎(20) 2010/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度入選

2010-09-25 14:59:52 | 受賞作品
 はがき随筆8月度の入選作品が決まりました。

▽ 志布志市野井倉、若宮庸成さん(70)の「夢の続きを……」(24日
▽ 霧島市国分中央、口町円子さん(70)の「いらぬおせっかい」(31日)
▽ 出水市昭和町、田頭行堂さん(78)の「作業やめ5分前」(12日))


──の3点です。

 あまりの暑さに、外出時は傘をさすことにしましたが、日傘がこれほど涼しいものとは知りませんでした。始めは男の日傘に照れくささもありましたが、今では手放せなくなっています。夏目漱石の小説に、日傘が出てきますが、男がささなくなったのは、いつごろからでしょうか。
 若宮庸成さんの「夢の続きを…」は、氷壁を登る夫婦の描写に始まり、後半でそれが夢だと分かる、文章の転換が実に巧みです。日常の苦しさの夢ばかり見るのに、このような充実感のある夢は、その続きも見たいものだという願望が書かれています。夢は、空言てはなく、もう一つの人生です。
 口町円子さんの「いらぬおせっかい」は、巣から落ちた子雀を、孫と一緒になんとか世話しようとするが、うまくいかない。そのうち、親雀が出て来て、餌を与えて、連れ去ったというエピソードです。観察の細かさと対象への優しい心遣いが表れている好印象の残る文章です。
 田頭行堂さんの「作業やめ5分前」は、戦時中の学徒動員で作業させられた時、「作業やめ5分前」の放送が嬉しかった。ところが、先輩たちは「学業やめ1年前」のくりあげ卒業で戦地へ。そして今、自分は「人生やめ○年前」になってしまっている。柔らかいユーモアの中に、考えさせられるものが含まれています。
 以上の入選作の他に、3編をご紹介します。
 垂水市海潟、宮下康さん(51)の「嬉しい雨」(5日)は、買い物の帰り、にわか雨に遭って困っていると、そこの店員さんに親切にしてもらった。それが「マニュアル挨拶」ではなかったので、嬉しかったというものです。実感です。姶良市加治木町錦江町、堀美代子さん(62)の祖母とお手玉(8日)は、布の端切れが見つかったので、昔祖母に教わったとおりにお手玉を作ってみた。記憶をたどっての、その作り方の描写が詳細を極めています。出水市高尾野町上水流、松尾繁さん(75)の「前座」(16日)は、一言で言えば戦争体験の継承の難しさということになりますが、小4の子どもへの読み聞かせの苦労が書かれています。
  鹿児島大学名誉教授・石田忠彦

自分の存在か

2010-09-25 14:44:22 | はがき随筆
 外観者はどう見ようと、やらねばならぬ運命か。知力も体力も気力も、すべてのものに限界が見え見えなのに。
 今年9月と来年1月に研究授業・公開授業をやる羽目に。この年齢で授業のモデルを、との声もあり、どう考えてもスムーズにいかない。ごく当然のことで満点どころか60点70点クリアできるといいところ。気楽どころか日に日に重荷になってくる。ああ情けなき存在か。
 ただ食欲は満点。年老いの欲張りか。焼酎も1合ぐらいぐいぐいと飲む。嵐中の100㍍走で走りまくっている。空振りも承知の上での今の存在か。
  出水市 岩田昭治(70) 2020/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載