「途中で逃げ出さないだろうか」。私の不安をよそに「ベルトは外してください」ときれいなお姉さんは言う。かねてから妻に言われていた。「お父さんにあの閉塞感は無理よ」。「音がしますけど耳栓もあります。アイマスクはどうしますか」。説明が終わり、私は俎上の魚となった。コンコンコン、ドッドッドッ。工事現場の掘削ドリルさながらの音。「20分の我慢」。自分に言い聞かす。「私の脳はリメークされ、アトムやサイボーグになるのだ」。全身を機械に支配され、ウトウトすると「終わりです」。お姉さんの声がした。
霧島市 久野茂樹(61) 2010/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載
霧島市 久野茂樹(61) 2010/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載