はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

感謝!

2011-01-13 17:07:39 | はがき随筆
 雪景色は普段と違って風情があるが、車の運転は危ない。
 10年前、パートの帰りの国道3号線。みぞれ状態の轍にも雪は容赦なく降りかかる。金山峠の下りに入った。前の車が1台、また1台とスリップして、次は自分の番か、と生きた心地がしなかった。スリップした車が障害物となり前に進めない。私の後ろの車から出て来て、すぐにそれらを道の脇に動かしてくれた男の人たち。おかげ様で無事、家に帰れた。
 機敏な動作は、ありがたく今でも忘れない。弱いものを守るのはやはり男性か。世の中、男女不平等でいいこともある。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2011/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度入選

2011-01-13 16:30:45 | 受賞作品
 はがき随筆9月度入選作品が決まりました。

▽出水市上知識町、年神貞子さん(74)の「この1年」(30日)
▽同市高尾野町下水流、畠中大喜さん(74)の「ロウ梅の花」(22日)
▽霧島市霧島大窪、久野茂樹さん(61)の「じいじの涙」(10日)

──の3点です。

 この選評が掲載されるのは1月も中旬になりますが、遅ればせながら、皆様にとって、今年こそ明るい穏やかな年になりますように、新年のご挨拶を申し上げます。とはいいましても、どうも今年も見通しは暗いようです。こんな時は、首をすくめて、じっと嵐の通り過ぎるのを待つのも、一つの智恵かもしれません。
 12月のせいもあってか、ご自分の人生や過ぎし一年を回顧しての文章が目立ちました。
 年神さんの「この一年」は、庭に飛来した冬鳥を眺めながら、一年を振り返った文章です。いろいろのことが思い出されるなかでも、念頭の誓いはどこへやら、至る所に「怠け」が目に付いたという、身につまされる内容です。考えてみると、私達の一生も、毎年毎年同じことを反省して暮らしているようにも思われます。
 畠中大喜さんの「ロウ梅の花」は、陰暦12月(蠟月)に咲くからこの名があるのですが、ロウ梅の上品な香りで散りやすい花の描写がみごとです。可憐ではかない花をいとおしむ気持ちがよく表されています。
 久野茂樹さんの「じいじの涙」は、2歳のお孫さんが帰ってしまった後の寂しさが描かれています。今までそこに有ったものがすでに無い、という不在感からくる孤独の情念が、あけっぴろげに表現されていて、それがむしろ微笑ましさを感じさせています。
 入選作の他に3編を紹介します。
 鹿児島市武、鵜家育男さん(65)の「懐かしい路地」(7日)は、鹿児島市役所の裏側一体の名山町への懐旧の念が描かれています。かつてのこの街の賑わいの描写が巧みになされています。
 出水市上鯖淵、橋口礼子さん(76)の「鶴見吟行」(20日)は、最初に渡来してくる鶴が、怪我で保護している鶴の檻の上を旋回するという心温まる内容です。「燦々と小春の空や夫婦鶴」。同市大野原町、小村忍さん(67)の「車椅子」(22日)は、車椅子にまつわり心境です。同窓生の車椅子を押してあげてみて、母親の車椅子を押してあげなかったことが悔やまれるという内容です。本当に後悔先に立たずですね。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

働く

2011-01-13 16:24:24 | はがき随筆
 「パートやアルバイトという形があるんですよ」
 去年、ある方からいただいたハガキに書かれた言葉。心に、グサッときたまま答えが出ない。夢は10代で消え、挫折してから、2年間アルバイトをした。その間、ストレスが原因で入院や手術をして職場の方々に白い目で見られ、再就職をしても体調を崩し、1日で辞める有様。
 また、イジメに遭わないかという恐怖感で、職場が見えるとお腹が痛む。誰にも分かってもらえない苦しみ。自分を責める。答えじゃないかもしれない。でも知ってほしい現実だ。
  いちき串木野市 森みゆき 2011/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載

桜島噴く

2011-01-13 16:10:37 | はがき随筆
 9年前、霧島にUターンした時に、さほど気に留めなかったことが二つある。一つは台風。だが、実際にはケタ外れの雨と風の猛威に舌を巻いた。そして、今一つが桜島。黄土色の雲が渦巻く空。目の前を流れて行く噴煙の粒子が、はっきり見える。「なんだ、こりぁあ!」。妻と顔を見合わす。道路に降り積もった粉塵を対向車が煙のごとく巻き上げて走り去る。「こんなの初めてだ!」
 街はどんより薄暗く、ベスビオ火山によって埋没したローマの古代都市ポンペイのことが一瞬、頭をよぎったのだった。
  霧島市 久野茂樹 2011/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

天国の兎

2011-01-13 16:07:49 | はがき随筆
 我が家に兎を飼って7年。主人が癌で手術をした。癌を患うと気分が落ち込むので心と体を癒すための兎。日本兎とパンダ系兎。「みー子とゲンキ」と名付けた。白い毛のふんわりしたメスうさぎ、目が命のパンダ兎。キャベツやニンジンを与えると目が輝く。「みー子」と呼ぶと手をペロペロとなめる。「ゲンキ」と呼ぶと飛びつくように跳ねる。暑い8月、ゲンキは感染症にかかり息絶えた。寒い大晦日にみー子も息絶えた。潮をひいたような静寂感。神様の思し召しか。真夏と真冬の死は偶然か不思議か。天国の兎は夢中に跳びはねる。
  堀美代子 2011/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

万羽鶴

2011-01-13 16:00:06 | はがき随筆
 1万2192羽、12月初旬、出水市荒崎に飛来した鶴の数である。今年も万羽鶴になった。14季連続という。喜ばしい。
 九州の十数カ所に分散していたのを熱心に餌付けなどした結果、今の状態になった。それらが「鶴の一声」ならぬ「鶴の万羽声」をあげたら、すごい。その道に明るい者は「音の百選」に、ふさわしいと言うだろう。人間の背よりも高い鶴が群れをなし飛ぶ姿は勇壮である。いつまでも眺めていたい。
 願わくば鳥インフルエンザなど関係なく、縁起のよい鶴が千年も万年も渡って来てくれますように祈ってやまない。
  出水市 田頭行堂 2011/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載