はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「こんにゃくを手作り」

2011-02-03 22:06:52 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   横山 恵子

 田舎に住む叔母夫婦が、毎年コンニャクイモを届けてくれる。母はその芋で刺し身こんにゃくを作り、知人に珍しがられ、喜ばれている。

 私も挑戦してみようとインターネットで調べてみた。色々な作り方はあるが、手下ろしで作るとひと味違うと書かれていた。水の中で芋を下ろし金ですり、火にかけ15分くらい弱火で練り込む。書いてある通りに作ったつもりだが、混ぜ方が足りなかったのか、いま一つの出来だった。

 母は「初めてにしては上出来よ。最初から上手には出来んよ」と慰めてくれた。何度か作ってみて、何とか納得のいく物が出来た。

 父によると、祖父はコンニャクイモを薄く切って竹ざおに干し、水車で粉にしていたという。母は「おじいちゃんは、孫がこんにゃくを作ったと聞いたら喜ぶじゃろうね」と言う。

 こんにゃく作りから、亡くなった祖父母の話で盛り上がった。2人の優しい眼差し。時を超えて、その思い出とぬくもりは私の心に生き続けている。

  (2011.02.03 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「どうしよう」

2011-02-03 22:03:48 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   井上麿人

 ジョギング中の事故を「ゲリラ」と「ドボン」に分けている。転倒、おう吐、けいれんなどがゲリラ。脳こうそく、交通事故、心臓まひなど助けを必要とするものをドボンとした。

 その日、雪の舞う極寒の朝、ゲリラに襲われた。5㌔ほど走った所で股間に焼き付くような痛み。変色している。「しもやけか?」ではしゃれにもならない。暖めたいが、息は届かずカイロもない。手も氷のように冷たい。

凍傷なら皮膚科だろうか、それとも泌尿器科に行くべきか。どうしよう。天を仰いだその時、雪が顔に当たった。痛っ。


  (2011.02.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

元ペットの最期

2011-02-03 21:53:45 | はがき随筆
 15年余り一緒に暮らした愛猫が逝ってすでに3年が過ぎた。今でも夫婦で出掛けて「ただいま」と勝手口を開けると、留守番をしていた彼女が泣きながら走り出てくる姿が思い出されて切ない。家内もそうだという。
 先日、元ペットの殺処分記事を見て愕然とした。話によると鹿児島でも年間千数百匹の犬猫が殺処分されているとのこと。写真も掲載されていた。最期を予期しえない愛らしい犬たちは、おりの中に収容されて首をかしげている。かつて家族の一員として楽しく過ごした思い出を嚙み締めているようで哀れであった。
  志布志市 一木法明 2011/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載

移籍

2011-02-03 21:47:22 | はがき随筆
 母の死をきっかけに、本籍地を熊本県荒尾市から現住所に移した。申請は楽になったが……心の中は複雑で湿っぽい。
 気持ちが晴れないのは、戸籍上とはいえ、生まれ育った古里と縁が切れ、心の支えをなくしたことや、命をつなぐ2人の娘の名前が消えたことにある。
 とはいえ、過去への感傷に浸ってばかりもいられない。戸籍簿の行数が少ないのは寂しいが“めおと”の仲は深まったと悟り、夫婦の名を少しでも長く残して、古里や、先祖、子孫の恩に報いたい──と思う。
 まずは8年後の金婚式を元気で迎えることが目標である。
  出水市 清田文雄 2011/2/2 毎日新聞鹿児島版掲載