はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「思わぬ幕切れ」

2011-02-05 00:09:26 | 岩国エッセイサロンより
2011年2月 4日 (金)

  岩国市  会 員   山本 一 


「うまい!」。一口食べて思わず声が出た。初めてつくね芋を口にした時のことだ。通常の山芋(長芋)に比べて粘りと味の深みがまるで違う。外見もソフトボール大で丸くいびつな形である。

昨年春、やっと種芋が手に入り、庭の一角、1坪くらいの場所に植えた。7月ごろ、幅、高さ共に約2メートルの見事な垣になった。暖かい時期は庭で度々妻と食事をする。この垣は格好の目隠しになってくれた。

12月初旬に掘る。直径15cm前後のずんぐりむっくりした大物が11個収穫出来た。小芋は来年の種芋用とする。早速1個をすりおろして試食。「おいしいわよ!」と、今度は妻の声が出る。お隣に1個、娘二人に2個ずつ配り、残り5個を保存した。

明けて1月20日過ぎ、保存用に包んでいた新聞紙を手に持つといやに軽い。「もしや?」と思い、開けてびっくり仰天。芋が全部ぐにゃぐにゃになり、白いカビが生えていた。結局私の口に入ったのは、最初に試食したわずか1個だけだった。

植付けから収穫まで全て完璧だったのに、思わぬ幕切れである。最後の詰めの甘さを痛感した。今年の再挑戦が楽しみだ。

(2011.02.4 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載