はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「けんか」

2011-04-01 15:29:25 | 岩国エッセイサロンより
2011年3月28日 (月)

  岩国市  会 員   吉岡 賢一

犬も食わないと言えば夫婦げんかの代名詞。それほど愚かなことなら最初からしなきゃいいとわかっちゃいるが、時に衝突することもある。

結婚当初から両親と同居の私たちに、長女・長男が誕生し父が他界。3世代5人の生活に落ち着いた。子どもの成長に合わせたお祝い事やしつけなど、いろんなことがある。夫婦や親子の意見の相違も出てくる。時にいさかいの種にもなる。

「嫁と姑の戦争をさせないこと」を親と同居する男の甲斐性でもあり、妻に対する最低限の思いやりとして結婚以来肝に銘じてきた。そのためにはまず私たちが夫婦げんかをしないこと。けんかになれば母は必ず私に味方する。2対1になるだけでなく、嫁と姑の折り合いまで悪くなる。

2人の間に挟まって右往左往する哀れな男を演じないためにも、家庭円満の知恵をしぼり、自分を抑える努力もした。それでもたまにムカッときて、一言、言わなきゃ収まらない時もある。

そんな時、母の前で嫁さんをこき下ろしてはこれまでの努力が無駄になる。まずは自分を抑え、寝室で夫婦2人きりになるのを待っておもむろに話す。同様に母に小言を言う時も、自分の部屋に戻るのを待って母と2人で本気で話す。

つまり、けんかも小言も1対1の差し向かいになるのを待つ。この待つという時間が、ほとばしる怒りを抑える絶妙の間となる。気持ちの角が取れ、冷静な自分に返り、いさかいがアホらしく思えてくる。

「言いたいことは明日言え、短気は損気」という母の長年の教えを守っているだけのことである。

   (2011.03.28朝日新聞アスパラクラブ「天声新語「けんか」掲載)岩国エッセイサロンより転載


「命育む野生のドラマ」

2011-04-01 15:27:01 | 岩国エッセイサロンより




2011年3月30日 (水)
       岩国市  会 員   吉岡 賢一

 窓の向こうに瀬戸内海が広がる。その見晴らしを半分さえぎるように小高い雑木林が横たわる。その一角に初めて、アオサギが巣を架け、3羽のヒナを育てたのが一昨年の春。
 昨年は4組のつがいがやってきて9羽のヒナを育てた。
 今年もまた2月下旬に大勢でやってきた。すでに数組のカップルが出来上がっている様子で、巣作りを始めている。
 地上10㍍の、ヒョロヒョロと伸びた木の最上部は、風が吹けば右に左に大きく揺れて巣が落ちそうになる。雨や日照りを避けるすべもない。
 「何故あんな危なっかしいところに巣を架けるのか」毎年ハラハラする。
 彼らにとっては、近くに海があり餌は豊富。産卵・子育てには天敵を避ける高い木の上が最適。子孫繁栄の条件が整っているのかもしれない。
 新しい命を育む野生の懸命な営みを眺めていると、こちらも元気が出てくる。窓の向こうに、とってもぜいたくな時間が流れる。
 さて今年は何羽のヒナが、元気な巣立ちを迎えるのだろう。
(2011.03.30 朝日新聞「声;特集『 私のぜいたく』」掲載)
岩国エッセイサロンより転載
写真は吉岡さん提供

波のない海

2011-04-01 13:21:17 | ペン&ぺん
 錦江湾は、とても穏やかな海だ。風のない日には波の音もわずか。潮の香りすら感じない。
 例えば、夕なぎ。例えば、姶良の重富海岸あたりにたたずむ。まるで湖のような水面。海としては、余りにも味気ないほどだ。
 その錦江湾に、津波が起きたことがある。
  ◇
 1779年のはじめ。桜島は南岳中腹から爆発。さらに、北東側の中腹からも噴火した。大規模な噴火は数日間にわたって続く。薩摩藩城下にも多量の降灰があり、夕暮れ前なのに深夜のような暗さだったという。垂水、牛根に噴石が飛び、桜島燃亡霊等の碑には148人が命を失ったと刻まれている(鹿児島市「桜島火山対策要覧」など参照)。
 史実にいう「安永の大噴火」である。その被害は翌年まで続いた。
 この大噴火に伴い、桜島北側の沖で海底噴火があり、錦江湾に津波を起こす。海岸線を襲った津波の高さ2㍍以上。大人の背丈を軽く越した。
  ◇
 時代は下り、1914年1月。桜島が大きく噴火する。いわゆる「大正の大噴火」だ。その際、鹿児島市民の間に「津波が来る」という話が出回った。逃げまどう人たちで市内は大混乱する。馬車に家財道具を積み込んで人々は高台を目指す。「津波は、もう下町まで押し寄せている」「津波は県庁付近まで来ている」などの伝聞情報が飛び交ったという(橋村健一著「桜島大噴火」参照)。
 安永の大噴火を知っている人が言い出したとの指摘もある。(「内閣府災害教訓継承普及教材・火山編」など)。津波来襲の可能性はあったかもしれない。だが、実際に大正の大噴火に伴う津波はなく、人々は流言に踊らされたことになる。
   ◇
 波のない海。味気ないほどの穏やかさ。その大切さを思う。
  鹿児島支局長 馬原浩 2011/3/28 毎日新聞掲載

「香りを拾う」

2011-04-01 13:10:57 | 岩国エッセイサロンより


岩国市  会 員   貝 良枝

山かげにはまだ雪が残るある日の午後、隣の畑で梅の木の剪定作業をしていた。切り落とされた枝には、米粒ほどのつぼみが。

小さいが確かに膨らみ始めている。「おじさん、ひとつ枝もらっていい?」「ああ、なんぼでも」

こたつ守をしている男が1人。体の痛みに顔をゆがめている。梅の香りをかげば、眉間のしわも緩みはしないだろうか。

欲張ってつぼみがたくさんついた枝を選んだ。大きな枝をソファにもたれるように置いた。むせるほどの梅の香りで、早く春を感じさせたい。

 (2011.03.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載



踊りのけいこ

2011-04-01 12:50:56 | はがき随筆
 おにぎりのツナマヨ表示を見てカニマヨを連想した。
 踊りを習っていた小学生の時に人前でカニマヨという踊りをした。カニにマヨネーズをつけるような踊りではなかったはずだと思い、確かめたら「香に迷う」という踊りだった。
 妹と2人で、初めの私から先に中央に出ていくところでシズシズの私を、サッソウとした足どりの妹が追い抜いてしまい失笑を買った。
 おけいこ仲間に意地悪がいて何度もからかわれた。腹が立って彼女の家の塀におしっこをかけて帰り、それっきりおけいこに行かなかった。ハハハ。
  鹿児島市 馬渡浩子 2011/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

告白

2011-04-01 12:40:36 | はがき随筆
 「お母ちゃん、私は歌だけ聴くよ」
 14歳の一人娘が突然そう言った。「家族のことばかり書いてきた母ちゃんのいつものエッセーと違うから」
 はがき随筆1月入選の「感謝と融通無碍」がラジオで放送され、その録音を一緒に聴こうと用意してあったのを見たのだ。
 あれを書いた時は、最悪だった。介護中の夫の体調も、自分の体調も悪く、このままでは自分の方が突然、死ぬかもしれない。あるいは自分が認知症になっていると思っていた。本当は「遺書」だった。娘は、そのことに気付いているのだと思う。
  鹿児島市 萩原裕子 2011/3/31 毎日新聞鹿児島版掲載

続・究極の断捨離

2011-04-01 12:33:26 | はがき随筆
 広辞苑によると「断」の語意は60字、「離」は50字、「捨」は15字余りある。このうち人生の喜怒哀楽に関する語意が45字余り含まれている。
 今度の大震災の映像。一瞬の究極の判断に迷い、逃げ遅れ、命を失い、流される。リポーターの声に呆然となる。高齢者は特に家財を失うのが桎梏になり時を失う。それだけ悲しい。
 この大震災は底知れぬ巨大な傷跡を残す。戦後最大の困難だと思われる。これからは政治、国民を挙げて協力したい。心から「東北ガンバレ」と叫ぶ。それにしても今年の春は遅々としている。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2011/3/30毎日新聞鹿児島版掲載

垣根の四季

2011-04-01 12:26:19 | はがき随筆
 菜園をマキの垣根で囲っている。その根元辺りに早春、フキノトウを見つけた。てんぷらにすると、あの独特の風味は春の味というのだろうか。今、フキは葉を広げ、浅緑の茎が延びている。そのうち煮浸しにし、いただこう。垣根の南側はツワが産毛をつけて伸びてきた。
 夏には根元の一画に浅黄色の花が咲き、ミョウガが取れる。山芋のツルが垣根をはい上がる。晩秋にムカゴがぽろぽろと落ちる。ムカゴ飯は夫の好物だ。
 いつの間にか垣根に居づいた山菜が、四季折々に楽しませてくれる。感謝、感謝。
  出水市 年神貞子 2011/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

語り部

2011-04-01 12:09:59 | はがき随筆
 昨年、語り部として、出水特攻基地跡に招かれた。縁のある高尾野中と野田中2年生の平和学習が目的である。不安もあったが、20分から30分の時間でもあり、何とか責めを果たした。
 感心したのは、生徒たちが、インターネットをよく活用し、よく下調べをしていたこと。私は重複を避けた。終戦当時、薬莢で遊んだこと、カヤの茎やカタツムリを食べたことを話したら、生徒らはびっくりしていた。
 市の語り部養成講座にも参加し、爆弾投下後や碑名を見るたびに失われた命を悔やんだ。
 今後も修学旅行生なでの平和学習の役に立ちたい、と思う。
  出水市 小村忍 2011/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

春寒の夜明け

2011-04-01 12:00:11 | はがき随筆
 3月にしては冬のように寒い朝。いつものように4時前に起きて庭に出る。冷たい風が闇を吹き抜ける。
 ふと見上げると、星が空いっぱい光っている。3月にしては美しい空。じっと見上げて北斗七星、カシオペア座、北極星を探す。
 そのうち静かに朝がくる。今年の春はなかなか来ないが、ツバキも咲いて散り始め、ハナズオウの赤紫のつぼみが枝についている。この花の咲くころ、春の盛りである。
 あとしばらく寒の戻りに耐えて春を待ちたい。そして被災地にも春の来ることを祈りたい。
  志布志市 小村豊一郎 2011/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載