湯たんぽを愛用して数十年。泊まりの旅行にも持参するほど、私にとっては必需品となっている。体に寄り添う温かさ。そして何より、温めてやっているという主張のないところが私は好きだ。
ある日、私は内股の不快さで目を覚ました。パジャマのズボンはぬれ、アフリカ大陸を描いている。あわてて敷布団をなぞってみると、微妙に湿気を感じた。
「とうとう来たか……」
老眼鏡をかけ、大鏡にわが身を映す。シミ、たるみ、しわ、これも仕方のないことか。日々、便利におしゃれに進化する紙おむつの宣伝のおかげか、それほどショックはうけなかった。
だが、湯たんぽ片手に寝起きの私の形相を見て、目が点になっていたのは夫。
「漏らしちゃった……」と言いかけ、肌がまったくかゆくないことに気がついた私は、朝食作りそっちのけで湯たんぽ実験を始めた。
湯たんぽを満タンにし、蓋をしっかり閉め、水滴がついていないことを確認する。3分経過したところで容器を見ると、接合部分から水がにじみ出してきた。やがて玉の汗となり、ポトリ、ポトリ……と。加齢で漏らしていたのは湯たんぽの方だった。
「いってらっしゃい!」
いつもより大きな声で夫を送り出し、「長い間、御世話になりました」。
容器を丁寧にふきあげ、かしわ手を打った。
北九州市若松区 安元洋子 2011/4/2 毎日新聞女の気持ち欄掲載
ある日、私は内股の不快さで目を覚ました。パジャマのズボンはぬれ、アフリカ大陸を描いている。あわてて敷布団をなぞってみると、微妙に湿気を感じた。
「とうとう来たか……」
老眼鏡をかけ、大鏡にわが身を映す。シミ、たるみ、しわ、これも仕方のないことか。日々、便利におしゃれに進化する紙おむつの宣伝のおかげか、それほどショックはうけなかった。
だが、湯たんぽ片手に寝起きの私の形相を見て、目が点になっていたのは夫。
「漏らしちゃった……」と言いかけ、肌がまったくかゆくないことに気がついた私は、朝食作りそっちのけで湯たんぽ実験を始めた。
湯たんぽを満タンにし、蓋をしっかり閉め、水滴がついていないことを確認する。3分経過したところで容器を見ると、接合部分から水がにじみ出してきた。やがて玉の汗となり、ポトリ、ポトリ……と。加齢で漏らしていたのは湯たんぽの方だった。
「いってらっしゃい!」
いつもより大きな声で夫を送り出し、「長い間、御世話になりました」。
容器を丁寧にふきあげ、かしわ手を打った。
北九州市若松区 安元洋子 2011/4/2 毎日新聞女の気持ち欄掲載