はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春の別れ

2011-04-25 18:35:45 | はがき随筆
 ウオーキングを兼ねて2.3日おきに片道2㌔歩き母を見舞うのが数年来の日課でした。その母が逝ってしまい身も心も寂しさになえていきます。行年109歳、万107歳でした。最期まで意識はしっかりしていて、介護士さんや見舞客に感謝の言葉を細ってゆく声で返していました。
 父が招集されて戦死した戦中戦後を女手一つで一生懸命育ててくれた母。死ぬ瞬間までも私は守られていたのです。死後も守ってくれることでしょう。有り難い、有り難い母でした。
 火葬場への道は桜が満開。母をたたえているようでした。
  霧島市 秋峯いくよ 2011/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

真の友

2011-04-25 18:23:16 | はがき随筆
 東日本大震災の影響か、遠く離れたわが市も乾電池や水などが品薄である。大震災から1カ月がたち、ようやく水が1ケース買えたから、東北の友に送ったと息子が言う。
 震災後、都会では買いだめする人も多いと聞く。いつどんなことが起こるか分からないから、必要なのかもしれない。でも──。
 三十数年前のオイルショックの時、幼い2人の息子と公園で遊んでいると、近くのバス停に止まるパスから、トイレットペーパーや洗剤を持った多くの人が降りてきた。
 今日は安売りなのかな。それにしてもと呑気にしていた私は、後になってびっくり。
 夫が勤めを終えて帰宅するやいなや方々を回ったが、一つも残っていなかった。
 買い置きのない洗剤。困っていると友のひとりが「2.3回分しかないけど」と言って少ない洗剤の中から小分けしてくれた。我が家と同じ幼い子どもが2人いるのに。ありがたく本当にうれしかった。
 別の友がご主人の転勤で荷造りを手伝った。押し入れの中からなんと十数箱の洗剤が出てきた。黙って荷造りをした。身内も知人もいない町に嫁してきた私に、とても親切にしてくれた人なので、複雑な気持ちになり悲しかった。
 人間の心の内は本当に困った時に現れるものだとつくづく思った。小分けしてくれた友とは、今も文通している。ご夫婦のふると九州に住んでいる。
  山口県宇部市 田中正子 2011/4/25 毎日新聞の気持ち欄掲載

最後の息

2011-04-25 18:14:21 | はがき随筆
 特定集中治療室に夫は移された。危機を察した娘は学校に迎えに行って来ると飛び出した。やがて小3と中1の孫息子が走り込むように駆け寄り「じいじー、がんばってー」と両手をさすって励ます。夫は、その声に応えるように、大きく息を3回して静かに息を引き取った。主治医が黙礼されると「えっ?」。孫たちが「じいじ!」と叫んだ。「僕たちを待っててくれてありがとう」と夫の肩にすがりついて号泣していた。孫たちに慕われ愛された夫は幸せな最期であった。
 「心からありがとう」。合掌。
  鹿児島市 竹之内美知子 2011/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載