はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

福島から避難して

2011-04-21 22:24:19 | 女の気持ち/男の気持ち
 原発事故のため、福島県南相馬市から熊本市に避難して1カ月がたった。
 3月11日午前2時半に洗濯物を取り込んでいると、烏が数十羽飛んできて、聞いたこともない声で一斉に鳴き始めた。「変だ」と夫に話した16分後、震度6弱の大揺れ。夫婦で柱にしがみつき、この世の終わりかと青ざめた。 
 福島県沿岸は、地震、津波、原発と三大被害にあった。私の住まいは原発から20~30㌔圏内だ。15日に屋内避難と言われたが、スーパーはすべて閉まっている。冷蔵庫の残り物と乾物、缶詰でしのいだ。電話も通じず、外界から遮断された状況だった。
 16日に電話が通じ、熊本市に住む夫の弟が「貸家を探しておくからこっちへ来い」と言ってくれた。30数年前に家を建てた時に原発の存在を知り、「もしも」が常に頭に合ったので、持ち出す物はまとめて置いていた。それをバッグやリュックに入れ、17日に自宅を後にした。必要なものは、パーフェクトにそろっているはずだった。
 知り合いに手紙を書こうとして愕然とした。住所録が入っていない。涙が出た。ある日、毎日新聞の「希望新聞」欄に私を案じて投稿してくれた秋田の女性がいた。名前を見た時、うれしさのあまり、また涙が出た。係の記者さんの尽力で住所もわかり、文通が出来る。毎日を愛読して40年を超えた。新聞はやっぱり大切だとつくづく思う。
  熊本市 五十嵐靖子 2011/4/21 毎日新聞の気持ち欄掲載

誕生日に

2011-04-21 22:19:39 | はがき随筆
 夫を送り出し新聞を広げる。覚えのある書き出しに驚く。ボツになったとばかり思っていた文章に、この日お目にかかるとは。なんて、うれしいんだろう。
 古里の母に電話する。この日は必ず声を聞く。彼女が28歳を迎えた日に産声をあげた私。
 元気で暮らしていることに、ただただ感謝するのみです。
 お嫁さんからのプレゼント。
 友からのメール。
 ささやかな夕餉。
 みんな、ありがとう。
 心が痛むニュースが続く中、今年は特に思うこと。来年も無事に、この日が迎えられますようにと。
  鹿児島市 浜地恵美子 2011/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝を込めて

2011-04-21 22:05:34 | はがき随筆


 4月1日、私は鹿児島空港から屋久島へと飛び立った。飛行機で約35分、世界遺産の島、屋久島である。
 飛行機の中で、花束を抱えた私に、スチュワーデスさんが声をかけてくださった。
 「きれいな花束ですね。屋久島に赴任されるんですか。新しい所でも頑張ってください」
 そのさりげない言葉に、思わず、ほろりと涙がこぼれた。
 見送ってくださった人たち、迎えてくださった人たち、沢山の人たちの温かさや優しさに支えられて生きている。愛と希望を乗せて──。
  屋久島町 山岡淳子 2011/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載
画像はフォトライブラリより

命名の儀式

2011-04-21 21:57:28 | はがき随筆
 「濃霧で運行中止」の掲示板。2人は隣接の千歳駅まで空港ロビーから走った。釧路行き特急は空港から流れ込んだ乗客で、すし詰め。夜行から帰った翌日、妻が緊急入院した。授かった命の灯が消えた。小さな胎児だが、命の尊さを知った瞬間であった。深い悲しみの淵にある妻に掛ける言葉を探し出せないまま時間が流れた。ふと‘亡き児への愛情’が期せずしてひとりでに立ち昇ってきた。人は必ず終焉を迎えるが、吾子には輝く未来がありますように。今度コウノトリが運んできた赤ちゃんは「未有」と名付けよう。長女は23歳の春を謳歌中。
  鹿児島市 吉松幸夫 2011/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載