はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ラッキールーム

2011-04-04 23:04:23 | はがき随筆


 ホテルのフロントで渡されたカードキーは1111。「ラッキーナンバーだ!」。声を上げたら孫が笑ってうなずいた。
 心を弾ませ11階の11号室に入る。広い窓のカーテンを開けると、目に飛び込んできたのは、東京スカイツリー。634㍍の完成まであと40㍍の白い巨塔は名前の通りの存在感で迫る。
 東京下町のたそがれ時や、朝もやの中にそびえ立つ世界一高いタワーは、望遠レンズのシャッターを何度も押させた。
 見る人の魂を揺さぶる東京スカイツリー。その雄姿を身近に見せてくれた1111号室。ラッキールームにありがとう。
  出水市 清田文雄 2011/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載  写真はフォトライブラリより

息子の募金

2011-04-04 22:17:58 | 女の気持ち/男の気持ち
 普段はめったに買い物になどついてこない息子が珍しく同行した。レジで支払いを終え、買い物袋に詰めていると、息子がしきりにズボンや上着のポケットに手を突っ込み、モゾモゾやっている。東北大震災の義援金の募金箱の方にチラチラと目をやりながら。どうやら財布を忘れたらしい。
 「代わりに入れてきてくれる」
 釣り銭のいくつかを取り出して渡した。息子は大きな手のひらで受け取ると、箱の置いてあるサービスカウンターに向かった。
 彼が保育園児の頃を思い出した。下関駅前を通りかかると、あしなが奨学生の街頭募金を行っていた。私も旧日本育英会の奨学金で蛍雪時代を送った一人だ。幼い息子にお金を持たせ、微力ながらと協力した。
 「ありがとね。ボク」
 頭をなでられた彼は嬉しかったのだろう。翌々週、同じ光景に出くわした彼は、「母さん」と催促した。小さな指に硬貨を握りしめ、黄色いTシャツを着た一群の中で一番美人のお姉さんを目指して一直線に走っていった。
 息子が戻ってきた。
 「何ニヤニヤしてんの?」
 「小さい時から優しい子やったからねえ」
 「また黄色いTシャツの話? 聞き飽きた」
 息子はむくれた。
 二十歳になった息子はすっかりシャイになった。
  山口県下関市 松岡淳子 2011/4/3 の気持ち欄掲載

土曜日の朝に

2011-04-04 22:10:08 | はがき随筆
 土日もつぶし19日連続働いた金曜の夜、車に乗り込んだ時、すでに日付が変わっていた。
 台所で出前弁当の残り半分を食べ、浴室を暖めながら歯を磨き、着替えを準備する。シャワーを浴び、目覚ましを休日用の7時にセットし、こたつへ。
 数時間後、目を覚ますと辺りが余りに明るいのに驚き、テレビをつける。6時41分。「遅刻だ」。慌てて、やかんを火にかける。「明日、日曜の計画停電は中止……」というアナウンサーの声に一瞬、頭が混乱する。
 1階から新聞を取ってきて日付と曜日を確認してホッとした時、目覚ましが鳴り出した。
  鹿児島市 本山るみ子 2011/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載