はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

泣かせる王子

2011-12-03 11:49:16 | はがき随筆
 「ぼくは王子ではないけれどアイスクリームを召しあがる」
 2歳の孫が声を張り上げて歌っている。歌詞もよく覚えていて「はるちゃん、上手だねえ。パパが2歳の時にはそんなに上手には歌えなかったよ。はるちゃんはほんとに賢いねえ」と私は、ほめまくって聞いていた。
 ふと気付いた時、切なさに胸が締めつけられた。孫は食物アレルギーがあって、生まれてこのかたアイスクリームを食べたことがない。他の子が食べると「ぼくは食べてはだめだよね」とママの胸に顔を埋めて耐えている。聞き分けの良さが大人たちを泣かせる。
  出水市 清水昌子 2011/12/3 毎日新聞鹿児島版掲載

還暦の宇宙人

2011-12-03 11:43:48 | はがき随筆
 「ピンポーン」
 インターホンが鳴った。時は5時半。「よし娘が学校から帰ってきたな」
 「はいよー。合い言葉はわ~」
思いっきり大声で返した。
 「……」
 「合言葉! 何でもいいから、ホラ」
 「あのお、佐川急便ですけど」
 「あれー、ごめんなさーい」
 私はあわててドアに突進していった。
 「もうすぐ還暦になる人が合言葉? なんて普通言うかなあ」
 帰って来た14歳に「宇宙人」と名付けられた。
  鹿児島市 萩原裕子 2011/12/2 毎日新聞鹿児島版掲載

手紙は読んでよ

2011-12-03 11:38:14 | はがき随筆
 ラジオから「ヤギさん郵便」が流れてきた。この歌を初めて聞いたのは幼稚園の時だ。
 「白ヤギさんからお手紙着いた。黒ヤギさんたら読まずに食べた。仕方がないのでお手紙書いた。さっきの手紙のご用事なあに」
 当時の私は、互いに読まない手紙をやりとりするヤギさんにあきれかえった。私が配達して食べようとするヤギさんに手紙を読んで聞かせてやりたいと何度思ったことか。今でもあの時の居ても立ってもいられない気持がよみがえる。もう大人なので無邪気な童謡だと、よくわかっているのだけれど。
  鹿児島市 種子田真理 2011/12/1