はがき随筆11月度の入選作品が決まりました。
▽出水市大野原町、小村忍さん(68)の「背伸びした夢」(1日)
▽同市緑町、道田道範さん(62)の「博士」(22日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(76)の「お陰さま」(4日)
──の3点です。
小説家の海音寺潮五郎忌で大口に行きました。北薩の初秋の風物を愛でていると、市役所の人に、「でも寒いですよ」と言われました。来訪者と生活者との感覚の違いに思い至りましたが、それでも、澄んだ空気を満喫して帰って来ました。
今月も、季節の推移それに老後の生活を内容としたものが、目立ちました。
小村忍さんの「背伸びした夢」は、光を失った方の音楽会を成功させようという、身の丈をこえた夢の実現に向けて頑張った挙げ句、夜中に悪夢にうなされたという内容です。ご自分の背の低さを背伸びした夢に結びつけた書き出しの意外性が面白く、また夢の多様性が生きています。
道田道範さんの「博士」は、野菜売り場の店先で、ご婦人方に大根の漬物の作り方を教授していると、大根が売り切れただけでなく、翌日には漬物博士絶賛のレシピとして、広告に使われたという飄逸な内容で、文章のこの軽みがいいですね。
一木法明さんの「お陰さま」は。他力へ感謝しての生活態度の感謝ですが、それが抹香臭くなく、日常茶飯事として書かれているところに説得力があります。私も、人は生かされているという信念で描かれる、東山魁夷の日本画が好きです。
入選作の外に3編を紹介します。鹿児島市錦江台、岩田昭治さん(72)の「私の生き方」(5日)は、現役生活の時は何かと多忙であったが、感謝の気持で回顧している。さて、今からの生活をいかに送るか、……。誰にとっても、自分の老いとどのように和解するかは、大問題ですね。
同市城山、竹之内美知子さん(77)の「母に似て」(13日)は、外反母趾だった母親の足に自分も似て来たという内容です。亡き人の思い出は、何がきっかけになるか分かりません。
鹿屋市串良町上小原、門倉キヨ子さん(10日)は、秋の訪れは、初めは背後から忍び寄り、やがて正面からやって来るという表現がすばらしい。ところが今年はいきなり真正面からやって来たので、慌てている。それでもムカゴご飯を楽しめたという内容です。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)
▽出水市大野原町、小村忍さん(68)の「背伸びした夢」(1日)
▽同市緑町、道田道範さん(62)の「博士」(22日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(76)の「お陰さま」(4日)
──の3点です。
小説家の海音寺潮五郎忌で大口に行きました。北薩の初秋の風物を愛でていると、市役所の人に、「でも寒いですよ」と言われました。来訪者と生活者との感覚の違いに思い至りましたが、それでも、澄んだ空気を満喫して帰って来ました。
今月も、季節の推移それに老後の生活を内容としたものが、目立ちました。
小村忍さんの「背伸びした夢」は、光を失った方の音楽会を成功させようという、身の丈をこえた夢の実現に向けて頑張った挙げ句、夜中に悪夢にうなされたという内容です。ご自分の背の低さを背伸びした夢に結びつけた書き出しの意外性が面白く、また夢の多様性が生きています。
道田道範さんの「博士」は、野菜売り場の店先で、ご婦人方に大根の漬物の作り方を教授していると、大根が売り切れただけでなく、翌日には漬物博士絶賛のレシピとして、広告に使われたという飄逸な内容で、文章のこの軽みがいいですね。
一木法明さんの「お陰さま」は。他力へ感謝しての生活態度の感謝ですが、それが抹香臭くなく、日常茶飯事として書かれているところに説得力があります。私も、人は生かされているという信念で描かれる、東山魁夷の日本画が好きです。
入選作の外に3編を紹介します。鹿児島市錦江台、岩田昭治さん(72)の「私の生き方」(5日)は、現役生活の時は何かと多忙であったが、感謝の気持で回顧している。さて、今からの生活をいかに送るか、……。誰にとっても、自分の老いとどのように和解するかは、大問題ですね。
同市城山、竹之内美知子さん(77)の「母に似て」(13日)は、外反母趾だった母親の足に自分も似て来たという内容です。亡き人の思い出は、何がきっかけになるか分かりません。
鹿屋市串良町上小原、門倉キヨ子さん(10日)は、秋の訪れは、初めは背後から忍び寄り、やがて正面からやって来るという表現がすばらしい。ところが今年はいきなり真正面からやって来たので、慌てている。それでもムカゴご飯を楽しめたという内容です。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)