はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

寂しい花摘み

2011-12-07 19:34:34 | はがき随筆


 いつもなら来年のビワの収穫を楽しみに、咲き誇る花を摘むのだが、今年は違った。
数十年栽培してきた両親が高齢になり
労力軽減のためビワ茶用の葉を採る目的に花を摘むことにしたのだ。
葉に養分が行くようにすべて摘み切る。
 作業を進める母の姿にいつもと変わった様子はないが、
心の内はわからず、聞くこともしなかった。
林芙美子の「花のいのちはみじかくて苦しきことのみ多かりき」の文句を思い出す。
 手伝いを終えて帰宅する時にビワの花を持ち帰り、洗面所に飾った。
甘くキリリとした香りがほのかに漂った。
  垂水市 川畑千歳 2011/12/5 毎日新聞鹿児島版掲載

孫のおかげで

2011-12-07 19:28:50 | はがき随筆
 4月から福岡で勤め始めた孫娘は時折帰って来て何かとお役に立ってくれる。
 今回は垂水市まで車を運転してもらった。片づけたい用事の一つは、せっせと集めた椿の実を椿油と、精油所で交換してもらうこと。
 次は父方の叔父の納骨堂にお参りすること。孫に場所を教えておきたかった。この二つの用事を済ませて友人宅へ。闘病中なので会えないかもと思っていたのに、以前と変わらない明るくて元気な友人が出迎えてくれて昼食まで準備してあった。もう一人の友人も呼んで、久しぶりに楽しいひと時を過ごした。
  霧島市 秋峯いくよ 2011/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載

元気が一番

2011-12-07 16:06:44 | はがき随筆






 青空が戻ってきたと思ったら急に冷たい風が吹き始め、
一気に冬が到来した。
そんな日の午後、私が腰のリハビリに行っている間、
カミさんは歩いてくるという。帰宅してもまだ帰ってきてはいない。
 庭を見れば寒空に向かって、極楽鳥花(ステレリチア)が飛び立とうとしている。
ツワブキも咲き始めた。鉢植えの冬咲きベゴニアも微笑むように咲いている。
この花たちをカメラに納めていたら30分ほどして、
頬を紅潮させてカミさんが帰ってきた。
なんの変哲もない老夫婦のワンシーンだが、
私は花とカミさんから元気をもらっている。
  西之表市 武田静瞭 2011/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

美しい洋食皿

2011-12-07 16:02:00 | はがき随筆
 某金物店に入ったら、出口近くに美しい洋食皿が置いてあった。そっと指で触れたら「ガラガラ」と壊れ足もとへ落ちた。
 私が割った訳でもないし、どうしたものかと思案。そのまま店を出ようと、2.3歩外へ出た。やはり気になり、引き返して店主にうかがったら「あれはもとから割れていた品ですよ」とわびられた。心がぱっと明るくなった。やはり、気になることは、その場逃れをしないで、すっきりし尾を引かないと知った。
   肝付町 鳥取部京子 2011/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

「無罪放免」

2011-12-07 15:18:39 | 岩国エッセイサロンより
2011年12月 7日 (水)

    岩国市  会 員   沖 義照


「念のため組織を採りました。検査してみましょう。結果は2週間後に分かります」

若い医者が写真を指さしながら無表情で言った。

人間ドックで胃の内視鏡検査の結果を間いた時のこと。胃壁に1力所、小指の先ほどの小さく赤みがかったところがあり、その箇所の組織を採取したという。

それから小春日和の天気の良い日が何日もあったが、まったく遊びに出かける気がしない。図書館から借りてきた本を読んでみても、斜めに読んでページをめくるだけ。窓の外の明るい景色も、心の底から楽しめない。 

その一方で「何か見つかったら見つかったでいいや。その時はその時だ」という気持ちもあった。若い頃は「もしそうだったら、どうしよう」と、病気を恐れる気持ちが強かったが、この年になると「仕方ない。なるようになるさ」と達観した気持ちの方が強くなっていることに気がついた。

こうしてみると、年を取るのも悪くはない。同じ現象に対して、受容・寛容の気持ちになることができる。

憂爵で気分のすぐれない2週間が過ぎ、神妙な顔をして医者の前に座った。

「胃炎でしょう。悪いものではありませんでした」

無罪放免。えん罪だった。

スキップしたい気持ちを抑えて病院を出、晩秋の空を仰ぐ。

「今日はドライブだ~」

(2011.12.07 毎日新聞「男の気持ち」掲載)岩国エッセイサロンより転載