2011年12月 7日 (水)
岩国市 会 員 沖 義照
「念のため組織を採りました。検査してみましょう。結果は2週間後に分かります」
若い医者が写真を指さしながら無表情で言った。
人間ドックで胃の内視鏡検査の結果を間いた時のこと。胃壁に1力所、小指の先ほどの小さく赤みがかったところがあり、その箇所の組織を採取したという。
それから小春日和の天気の良い日が何日もあったが、まったく遊びに出かける気がしない。図書館から借りてきた本を読んでみても、斜めに読んでページをめくるだけ。窓の外の明るい景色も、心の底から楽しめない。
その一方で「何か見つかったら見つかったでいいや。その時はその時だ」という気持ちもあった。若い頃は「もしそうだったら、どうしよう」と、病気を恐れる気持ちが強かったが、この年になると「仕方ない。なるようになるさ」と達観した気持ちの方が強くなっていることに気がついた。
こうしてみると、年を取るのも悪くはない。同じ現象に対して、受容・寛容の気持ちになることができる。
憂爵で気分のすぐれない2週間が過ぎ、神妙な顔をして医者の前に座った。
「胃炎でしょう。悪いものではありませんでした」
無罪放免。えん罪だった。
スキップしたい気持ちを抑えて病院を出、晩秋の空を仰ぐ。
「今日はドライブだ~」
(2011.12.07 毎日新聞「男の気持ち」掲載)
岩国エッセイサロンより転載