介護施設のヘルパーさんに押されて車椅子の老女が外来に現れた。かかりつけ医の待合室でその様子を見るともなく見ててた私の視線は、その後の彼女のしぐさにくぎ付けになる。
車椅子から10㌢ほど離れて立っていたヘルパーさんのエプロンを老女がつまんでしずかに引き寄せた。老女の顔に表情はない。そして静かに頭を傾け、そのまま預けた。幼女が母親に甘えるように……。こども返りした老女と清楚な女性。かくも穏やかな光景をかつて見たことがない。
心に満ちてくる幸福感に包まれて私は帰途についた。
鹿児島県霧島市 久野茂樹(68) 2018/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載
車椅子から10㌢ほど離れて立っていたヘルパーさんのエプロンを老女がつまんでしずかに引き寄せた。老女の顔に表情はない。そして静かに頭を傾け、そのまま預けた。幼女が母親に甘えるように……。こども返りした老女と清楚な女性。かくも穏やかな光景をかつて見たことがない。
心に満ちてくる幸福感に包まれて私は帰途についた。
鹿児島県霧島市 久野茂樹(68) 2018/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載