はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

投票しよう

2007-08-02 06:26:04 | かごんま便り
 中選挙区制最後の総選挙となった93年夏の第40回衆院選。山口1区(当時)で一人の新人議員が誕生した。
 次期首相の最有力候補と言われながら志半ばで病に倒れた父の弔い合戦を標ぼうした彼の名は安倍晋三。当時、下関支局員だった私は、父・晋太郎氏の死から、曲折を経て彼が後継候補に決まり、ぶっちぎりのトップ当選を果たすまでを取材を通じて目の当たりにした。
 あれから14年。戦後最年少の若さで父の悲願だった首相の座についた彼は今日、就任後初めて全国の有権者の審判を受ける。
 1票を投じて、世の中の行く末を託す代表者を選ぶ。選挙権は言うまでもなく、憲法で保障された国民の権利だ。「権利」と位置づけられる背景には、戦前は女性に参政権が認められておらず、性別や財産・信条などの制限を設けない真の普通選挙が実現したのが戦後になってからという歴史的経緯がある。
 だが民主主義を守り育てていくことの大切さを思う時、投票という行為は、ある意味で「義務」と言っていいのではないか。
 当たり前の話だが、政治は生活のありとあらゆる場面で顔をのぞかせる。日々の労働に買い物、医療や福祉、教育、治安……。いずれも政治が深く介在する。仮に無人島に単身移住し自給自足の生活を試みても、その地に国の主権が及ぶ以上、政治に無関係という訳にはゆくまい。
 だから「政治に無関心」というのは本来、よほど満ち足りた暮らしをしている人でない限りありえない話だ。私はまだ、そんな奇特な人を知らない。仮に世の中に何の不満もない人でも、その恵まれた環境が政治の恩恵であることを思えば、無関心ではなく無自覚と言う方が正しい。
 候補者や政党を選んで1票を投じる時、私たちは世の中のあり方についてさまざまな気持ちを込める。こうしてほしい、ああしてほしい、あるいはこうあっては困るという具合に。今日より明日へとより望ましい社会を求める国民の期待が大きいからこそ「1票は重い」と言われるのだ。
 地方選挙や衆院選に比べ投票率が低い傾向の参院選だが今回、県内では期日前投票が前回を上回っている。関心度の表れとすれば喜ばしいことだ。日々の暮らしを見据え、未来に向けてどんな社会を望むのか。熟慮して1票を投じたい。

 毎日新聞鹿児島支局長 平山千里 
 2007/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載 

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