昨年の今ごろ。知り合った鹿児島市の大学生(20)と、社会人(23)にホタルを観察した経験があるかと尋ねた事がある。2人とも「テレビでは見た事があるけど、実際にはない」と答えたのには驚いた。
編集されたテレビの映像は綺麗な光を放ち、飛び交う姿を見ることが出来よう。でも、草のようなホタル独特のにおい、活動する時の気温や湿度の具合。夜通し光を放つのではなく、一斉に休む時間もあるなどは実際に観察しなければわからない。
1~2週間の命を淡い光を点滅させながら相手を捜し、子孫を残そうとするホタル。実に不思議な虫だ。昔の人の多くが恋の気持ちをホタルに託している。恋(こひ)は「火」につながる。ホタルが点滅しているのは恋、思いを抱いていると考えた。
藤原道家は「夏の夜はもの思ふ人の宿ごとにあらはに燃えてとぶ蛍かな」。源重之も「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ」と詠んでいる。ホタルを入れた多くの歌があり伊勢物語や枕草子にも取り上げられている。
源氏物語では光源氏が、几帳をたくし上げ、たくさんのホタルを放ち、玉鬘の姿をホタルの光で照らそうとする場面がある。作者の紫式部は光源氏に、ホタルを使って積極的な行動をさせている。やることがにくい。
ホタルの種類は多い。よく知られているのがゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルだろう。肉食のホタルもいるという。ある主の雄が雌を求めて発光する。雌が返す応答信号とそっくりの発光を肉食ホタルの雌がする。だまされた雄が喜んでやって来ると、捕まり食べられてしまうそうだ。
ただし、肉食ホタルがいるのは外国。外国のホタルは恋をするにも命がけということだ。日本にも生息していたら、観察眼が鋭い昔人のこと。優雅で情緒たっぷりの作品ばかりを残して置くはずがない。ホタルに見向きもしなかったかもしれない。 薩摩町で始まった「奥薩摩のホタル舟」。早速、訪ねた。数は少ないが岸から確認できた。昨年の豪雨で幼虫や、餌のカワニナがながされ、ホタルの現象が心配されている。
私は数よりも豪雨に負けないホタルの光に力強さを感じ、勇気づけられる気がした。
毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 07/5/20毎日新聞鹿児島版掲載
編集されたテレビの映像は綺麗な光を放ち、飛び交う姿を見ることが出来よう。でも、草のようなホタル独特のにおい、活動する時の気温や湿度の具合。夜通し光を放つのではなく、一斉に休む時間もあるなどは実際に観察しなければわからない。
1~2週間の命を淡い光を点滅させながら相手を捜し、子孫を残そうとするホタル。実に不思議な虫だ。昔の人の多くが恋の気持ちをホタルに託している。恋(こひ)は「火」につながる。ホタルが点滅しているのは恋、思いを抱いていると考えた。
藤原道家は「夏の夜はもの思ふ人の宿ごとにあらはに燃えてとぶ蛍かな」。源重之も「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ」と詠んでいる。ホタルを入れた多くの歌があり伊勢物語や枕草子にも取り上げられている。
源氏物語では光源氏が、几帳をたくし上げ、たくさんのホタルを放ち、玉鬘の姿をホタルの光で照らそうとする場面がある。作者の紫式部は光源氏に、ホタルを使って積極的な行動をさせている。やることがにくい。
ホタルの種類は多い。よく知られているのがゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルだろう。肉食のホタルもいるという。ある主の雄が雌を求めて発光する。雌が返す応答信号とそっくりの発光を肉食ホタルの雌がする。だまされた雄が喜んでやって来ると、捕まり食べられてしまうそうだ。
ただし、肉食ホタルがいるのは外国。外国のホタルは恋をするにも命がけということだ。日本にも生息していたら、観察眼が鋭い昔人のこと。優雅で情緒たっぷりの作品ばかりを残して置くはずがない。ホタルに見向きもしなかったかもしれない。 薩摩町で始まった「奥薩摩のホタル舟」。早速、訪ねた。数は少ないが岸から確認できた。昨年の豪雨で幼虫や、餌のカワニナがながされ、ホタルの現象が心配されている。
私は数よりも豪雨に負けないホタルの光に力強さを感じ、勇気づけられる気がした。
毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 07/5/20毎日新聞鹿児島版掲載