はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

光への思い

2007-05-21 19:09:51 | かごんま便り
 昨年の今ごろ。知り合った鹿児島市の大学生(20)と、社会人(23)にホタルを観察した経験があるかと尋ねた事がある。2人とも「テレビでは見た事があるけど、実際にはない」と答えたのには驚いた。
 編集されたテレビの映像は綺麗な光を放ち、飛び交う姿を見ることが出来よう。でも、草のようなホタル独特のにおい、活動する時の気温や湿度の具合。夜通し光を放つのではなく、一斉に休む時間もあるなどは実際に観察しなければわからない。
 1~2週間の命を淡い光を点滅させながら相手を捜し、子孫を残そうとするホタル。実に不思議な虫だ。昔の人の多くが恋の気持ちをホタルに託している。恋(こひ)は「火」につながる。ホタルが点滅しているのは恋、思いを抱いていると考えた。
 藤原道家は「夏の夜はもの思ふ人の宿ごとにあらはに燃えてとぶ蛍かな」。源重之も「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ」と詠んでいる。ホタルを入れた多くの歌があり伊勢物語や枕草子にも取り上げられている。
 源氏物語では光源氏が、几帳をたくし上げ、たくさんのホタルを放ち、玉鬘の姿をホタルの光で照らそうとする場面がある。作者の紫式部は光源氏に、ホタルを使って積極的な行動をさせている。やることがにくい。
 ホタルの種類は多い。よく知られているのがゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルだろう。肉食のホタルもいるという。ある主の雄が雌を求めて発光する。雌が返す応答信号とそっくりの発光を肉食ホタルの雌がする。だまされた雄が喜んでやって来ると、捕まり食べられてしまうそうだ。
 ただし、肉食ホタルがいるのは外国。外国のホタルは恋をするにも命がけということだ。日本にも生息していたら、観察眼が鋭い昔人のこと。優雅で情緒たっぷりの作品ばかりを残して置くはずがない。ホタルに見向きもしなかったかもしれない。 薩摩町で始まった「奥薩摩のホタル舟」。早速、訪ねた。数は少ないが岸から確認できた。昨年の豪雨で幼虫や、餌のカワニナがながされ、ホタルの現象が心配されている。
 私は数よりも豪雨に負けないホタルの光に力強さを感じ、勇気づけられる気がした。 
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 07/5/20毎日新聞鹿児島版掲載

文旦の花

2007-05-21 08:05:39 | はがき随筆
 薫風さわやかに頬をなでる昨今、小高い山里にある文旦園で草抜き、耕土、害虫対策を楽しんでいる。文旦特有の強烈で豊潤な香気が大好きだ。果実も秋には柑橘の王として君臨する。時にはミツバチ、アゲハチョウなどの羽音、野鳥などの個性溢れる合唱を聞きながら腹いっぱい、香りもろとも吸い込んでいる。眼下に東シナ海を望み、一息入れる時には携帯ラジオに耳を傾けたり、手帳にメモったり、民謡や童謡を歌ったりする。「みかんの花咲く丘」を「文旦の花咲く里」に置き換えて口ずさんだら、父母をはじめ懐旧の念しきりだった。文旦の花が一番だ。
   阿久根市 松永修行(81) 2007/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

独り相撲

2007-05-19 09:04:22 | はがき随筆
 「しまった!」と思った時には既に遅く、頭の中はもう真っ白。車はアクセルをいっぱい踏み込んだままバックで2㍍下の田んぼへ真っ逆さまに転落した。転落寸前「俺の一生はこれまでだったか」と大声で絶叫した。運転免許証取得以来約50年、このような幼稚なミスをしでかしてしまい誠に恥ずかしい限りだ。不幸中の幸いと言おうか体も車体もへこむ事もなく、自己の原因はブレーキとアクセルを踏み違えたから起こったのである。早速、仏壇の前で手を合わせ命拾いをしたお礼を心ゆくまで念じさせてもらった。
   霧島市 有尾茂美(78) 2007/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

茶太郎の命日

2007-05-18 09:58:20 | はがき随筆
 5月9日は忘れられない日になってしまった。愛犬・茶太郎が19年の命をまっとうして逝った日だからだ。雑種犬をもらい、1年足らずで心臓病になり、3年前は熱中症で1週間入院、どうにか元気で帰宅できた。もう、孫にも会えないかもと思っていたが、7年間の思いが届き、やっと授かった孫とも仲良しになった。孫も家に来たら「茶太! 茶太!」と言っては目を細めてなでてやり、お互いにこの世で会えた事を喜んでいるようだった。人間で言えば95歳とか。よく頑張ってくれた。今は「ありがとう」の感謝の気持ちでいっぱいだ。安らかに。
   鹿児島市 堂園芙美子(67) 2007/5/18毎日新聞鹿児島版掲載
写真はちょびさんからお借りしました。

山笑う獅子島

2007-05-17 10:16:49 | はがき随筆
 中学3年の時、娘は、
 「お母さん、また、教頭先生に怒られちゃった……」
 まるで、誉められたかのように、はしゃいで話していた。
 その先生は、いま、お寺のご住職である。会う機会を得て、山笑う獅子島を訪ねた。
 お堂に流れる「千の風になって」をききながらのコスモス談義など、話は尽きなかった。
 帰郷した娘に話すと、20年前のいたずらの数々を語り、笑いころげた。
 爽やかな風が通り過ぎていった。
 過去、現在、未来。
   阿久根市 別枝由井(65)2007/5/17毎日新聞鹿児島版掲載

入院に思う

2007-05-16 09:26:12 | はがき随筆
 掛かり付けの病院に白内障手術で1週間入院。受け身で不安な患者の立場を思いやる医師、看護師、その他の全スタッフの温かく適切な対応に、一抹の不安もなく快適に過ごせた。
 病院の運営の理念・信条が勤める全職員に浸透し、職務に精力的に専念するよう機能しているのだと感服した。
 それも常時、院内がすべて機能化しているかのような、細かい配慮のせいだろう。
 思うに、人間も健康保持のため、適時検診を受け必要に応じ検査指導がなされることの重要性を痛感している。無論、心身の保全は自己責任である。
   薩摩川内市 下内良幸(77) 2007/5/16毎日新聞鹿児島版掲載

五月の想い

2007-05-15 19:08:44 | アカショウビンのつぶやき
 告知うけ妻と涙す 柿芽立ち  克己

10数年前、私たちは大きな試練の中にいた
風薫る五月 小鳥は歌い 野山に花々は咲き乱れ
山々は新緑に彩られ 命に溢れていた 
然し私には すぺてが 灰色に見えた

命の日が一日ずつ失われていく…
涙しつつ奇跡を祈り
生かされた今日一日を感謝して過ごした五月

「次は、アカショウビンになって帰ってくるよ」
と遺る家族を励まし、静かに旅立った彼

63歳は、早すぎます神様
天にどんなご用があったのでしょう

あれから12年 私は生かされている
アショウビンの彼と いつ会えるのだろう
それは私がアカショウビンになった時?
  
    アカショウビンのつぶやき

写真はBird Watchingさんからお借りしました。



 

父の親指

2007-05-15 10:18:42 | はがき随筆
 いつからだろう。眉がかゆくなると親指でかいている。7年前に他界した父が、晩酌しながらやっていた。他の指ならスムーズなのに、親指で眉をかくなんて不自然で、ぎこちないかゆみ止めの格好なのだ。
 気がつくと、娘の私がやっている。これがまた、親指の太さが眉によく接触してかゆみが止まる。心の中で笑って、父が現れたことをおかしく、そして懐かしく思う。
 多分、93歳を迎えた母のことが心配で、時々、親指の力を借りて、母の事を頼んだよと言わんばかりの父の、お願いなのかもしれない。
   阿久根市 徳丸伸子(54) 2007/5/15毎日新聞鹿児島版掲載

大阪の姉

2007-05-14 15:41:07 | はがき随筆
 「おじさんのお葬式に出られませんでしたやろ。一年祭には絶対に行ってお別れ言わなあかん思うて、リハビリ頑張りましてんよ」と、大阪の姉が来てくれた。この兄嫁を亡夫もまた、「おばはん」と少し間のびして鼻にかかったような声で呼んでいた。それは大阪人特有のユーモアと照れと親密さにあふれていた。
 道中、車椅子を使い、杖をつきながらも来てくれた姉。ありがたくうれしかった。いつも温かい人である。長い歳月、お世話になってばかりだ。その夜は霧島の温泉に一緒に入り、姉の広い背中を感謝を込めて流した。
   霧島市 秋峯いくよ(66) 2007/5/14毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-6

男の料理教室

2007-05-14 15:34:44 | はがき随筆
 男の料理教室に参加した。手品、太極拳、書道、俳句、水墨画、ピアノに今度は料理が加わった。人に見せられるだけのものがなくては趣味とはいえないそうだが、それからいくと、すべて下手の横好きの域を出ない。妻に「ボケ防止になればいいじゃない」といわれ納得した。
手始めの講習は、みそ汁、野菜のてんぷら、魚の煮付け。私とほぼ同年配の男が九人集まり、慣れない手つきでネギを切り、サツマイモの皮をむく。予想以上の美味に、みな自分の手柄のように得意顔。交際の輪も広がり、次回が楽しみである。
   西之表市 武田静瞭(70)2007/5/14毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-5

4月の冷たい雨

2007-05-14 15:11:45 | はがき随筆
4月の雨が、青葉を濡らして音もなく降り続いている。低気圧の接近で風雨が強く荒れ模様との予報に反し、朝の時間は静かに過ぎてゆく。
 しかし、何となく空気が冷え込んで寒々とした感じ。窓から見える庭には、梅やビワの実がふくらみ、ミカンが白く丸い蕾をいっぱいつけている。柿の若葉も次第に広がり梢を埋めてきた。
 もう少し気温が上がって青空が広がると初夏のたたずまいだ。心がうかれた春の気分から、落ち着いた初夏を迎えて、新しい気持ちで生きて行きたいものだと思う。
   志布志市 小村豊一郎(81)2007/5/14毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-4

Sakura

2007-05-14 14:58:44 | はがき随筆
 桜は日本の国花です。古来、花王と称されています。花の王です。歴史は非常に古く、詩歌の題材になっていますが、私が好きな短歌があります。歌人岡本かの子の「桜ばないのち一ぱい咲くからに生命をかけてわが眺めたり」。短い盛りの時を、桜の花が精いっぱいに、まるで命がけのように咲いているから、私もまた命のすべてを傾けて、眺めているのだというのです。
 桜、サクラ、さくら…。ちょっと待ってください。Sakuraです。桜は世界の花なのです。日本から贈られた桜が米国でも咲いているのです。
   鹿児島市 川端清一郎(60)毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-3

野の花の記憶

2007-05-14 14:51:59 | はがき随筆
 道端の紫色の花に気をひかれていたら6歳のころの娘の記憶が甦ってきた。
 入学したばかりの娘は、片道2㌔の道のりを歩いていた。赤いランドセルを背負って、どんな歩き方をしているのか、少し気がかりであった。ある夕刻、私が帰宅すると、すぐ「これなんというの?」と帰り道摘んできた野の花を差し出した。「ケシ科」も、仏前の飾りの「ケマン」に似ていることも知らない私は、1ページずつじっくりと調べ、やっと「ムラサキケマン」にたどりついた。
 30年がたった。今、植物図鑑のそのページを眺めている。
   出水市 中島征士(62)2007/5/14毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-2
   写真は季節の花300さんよりお借りしました。

家族の絆

2007-05-14 14:37:47 | はがき随筆
 1カ月あまりの検査で最終報告されたのは3月末。谷底に突き落とされはい上がれない灰色の日々が続いた。授かった体に限界があるのなら前向きに医術の力にすがるしかない。心に灯(ともしび)がともった。夫は桜舞う結婚記念日に手術を決断した。慌てて帰省した息子2人と妹家族で励まし、元気をもらった夫の手術は成功した。子供たちは私を気遣い交代で看病し、笑顔の戻った夫と握手しながら「家族だよ! お母さん」と日をずらして帰った。家族の絆は点滴とともにゆっくりしみこみ、快復を促してくれた。
   薩摩川内市 田中由利子(65)2007/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載
   はがき随筆特集版-1

追憶

2007-05-13 22:43:28 | はがき随筆
 娘夫婦に急用ができ、小学1年の孫が我が家に1泊することになった。夕膳になり、楽しい話題に華が咲き、夜が更けるのも忘れてしまった。眠気に誘われる孫を中に、川の字になって布団に入った。朝、竹やぶから聞こえてくる鶯の鳴き声と、障子越しの朝日に起こされた孫が「この布団は、じいちゃんとばあちゃんのにおいがする」「どんなにおい?」と聞き返した。すると脳裏に、ずっと昔の幼い頃が思い出された。寒村の畑の一軒家で一人住まいをしていた祖母の家に泊まり、優しく抱いて寝かせてくれた。あの時のにおいが蘇り、しばし追憶にふけった。
   鹿児島市 春田和美(71) 2007/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載