はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

やかんになりたい

2013-07-22 16:21:37 | はがき随筆
 暑さに老体が順応しきれずのゴロゴロ過ごしています。
 袖なしの服が一番涼しいのに腕はしみだらけ。斑紋のあるキリンの体のよう。腕を人前にさらす勇気がないので、家の中でしか着られない。
 昨年、万札数枚を散在してレーザで取ったばかりなのに、後から後から新しいしみができてくる。自然に消えることは決してない。しみに好かれて困る。「もう私のことなどほっといて」。大声で叫びたくなる。
 ふと目にした汚れたやかんを金属たわしで力まかせに磨いたらピカッ!
 ああ、やかんになりたい。
  鹿児島市 馬渡浩子 2013/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載

至福のスポット

2013-07-22 11:42:31 | はがき随筆

 我が家で居心地のいい部屋は居間。東と南の二方が吐き出しのガラス窓で明るい。ところが、朝日がまともに入るので夏は熱い。そこで数年前から、グリーンカーテンを作ることにしている。
今年も5月にフウセンカズラとアサガオとゴーヤーを植えた。ツルにすまないと思いながらも、上に伸びたがるものを横向きに軌道修正する。
 グリーンカーテンの居間からの眺めは、意外にも涼しさと癒しを演出してくれる不思議な風景なのだ。緑のグラデーションが揺れて、すかし模様のように映る至福のスポットになって私を楽しませてくれる。
  霧島市 口町円子 2013/7/21  毎日新聞鹿児島版掲載

この頃

2013-07-22 11:35:40 | はがき随筆
 娘が嫁ぎ、夫婦水入らずの日々がなぜか寂しい。窓からの紫尾の山並みを眺めながら思案する。
 善き婿殿にめぐり合い、父親の終焉かと自問自答しつつ、妻に「電話は来るか」「元気かな」と毎日聞く始末。「早く子離れしなさい」とうるさがられ、とどめは「子は親離れしている」と立つ瀬がない。気付くと玄関で見慣れた娘のハイヒールなどがなく、華やかさが消えている。娘の履物は花であったと思う。
 父親と母親との娘を思う温度差を感じるが、私もそろそろ子離れ時か。ちなみにツバメの子も、巣離れ間近である。
  出水市 宮路量温 2013/7/18 毎日新聞鹿児島版掲載

「主役」

2013-07-21 16:08:28 | 岩国エッセイサロンより
2013年7月21日 (日)

岩国市  会 員   森重 和枝

 今、家には5匹の猫がいる。10年前から次々に拾ったので、年齢も10、6、4、1歳である。猫社会にも序列はあるらしく、年長猫には一目置く。
 昨春仲間入りした2匹は兄妹で、やはり仲が良くいつも一緒にいる。じゃれて走り回っているうちに取っ組み合いになり、本気になってけんかになるのも人間の子供と同じである。
 どの猫がこんないたずらをしたとか、娘と2人の食卓で「猫の嫌いな人が聞いたら、ぞっとするよね」。そう言いつつも、孫のいない我が家の話題の主役は、いつも5匹の猫ぱかりになってしまうのである。
 (2013.07.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

備えあれば

2013-07-20 18:16:32 | はがき随筆
 連載中の池澤夏樹さんの小説「アトミック・ボックス」が20日に終わり、21日から宮城谷昌光さんの「劉邦」が始まります。前漢の創始者、劉邦の話です。
 宿敵「項羽」との虚々実々の戦の話は故事や四字熟語の背水の陣、四面楚歌、捲土重来など、なじみの深い話が多くて非常に興味を注がれます。
 しかし、中国大陸は広い。もし、私と一緒にこの物語を追って、行こうと思われる方がおられましら、ぜひとも中国の地図を準備なさることをお勧めいたします。
 面白さが倍増すること、請け合いますよ。
  鹿児島市 高野幸祐 2013/7/20 毎日新聞鹿児島版掲載
 

池巡り

2013-07-20 17:58:56 | はがき随筆


 梅雨の晴れ間に友と霧島の池巡りへ。登り始めると、ウグイスの鳴きが日常から別天地に誘う。木の間越しに見えた不動池は静かに藍色をたたえていた。池巡りコースは整備され、歩きやすかった。コケを付けた巨木から放つ空気は心まで澄む。
 不動観音池に来ると、池面は空色。不思議に思い、ふと見上げた空、その色が池面に映っていた。下り道になり白紫池の縁に立つ。池底に見える透明な池を見ているうち、30年前、冬は天然のスケート城だった。夫や娘が滑っていた姿が思い出された。温泉に浸る予定だったが、湯けむりを見ながら帰途に着いた。
  出水市 年神貞子 2013/7/19 毎日新聞鹿児島版掲載


ヨモギの思い出

2013-07-17 17:40:48 | はがき随筆
 「イターイ」と泣き叫ぶ私の声を聞き、近所のおじさんが駆けてきた。「あー、耳が切れている! 動くな」と、自転車を取りにいった。おじさんは私の耳に、もんだヨモギを当てタオルで縛り、自転車を走らせる。痛がる私を励まして30分後に父が勤める会社の病院に付いた。
 父の顔を見て泣きじゃくる私に父は「泣くな!」と一喝。父が怖くて、長く太い針での麻酔なしの縫合に耐えていた。
 庭のヨモギを見ると68年前、溝の縁を滑り台代りに滑っていて転がり、地面の石で右耳の半分を切った私を助けてくれたおじさんの顔が浮かぶ。
  出水市 清田文雄 2013/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載

人生は出会い

2013-07-16 16:47:45 | はがき随筆
 6月中旬のある日、初投稿後に心温まるはがきをいただいた。それはペンクラブで一緒に楽しみませんかと誘われたのです。うれしかった。会社を退職後、趣味探しのはがき絵が縁でボランティアを始めたことでたくさんの出会いをいただいた。確かに皆さんと一緒に楽しむと、人生経験の豊富な方が多く、得ることがドッサイある。
 あるご年配の方がカタッてくれた。「年をとってから大切なことはな~ 前向きな生き方、考え方 ゴアンサア」と。これに尽きると思った。人生は出会い。これからもこの出会いを大切に歩き続けていきたい。
  さつま町 小向井一成 2013/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載

ゴーヤンの風景

2013-07-15 12:42:00 | はがき随筆
 妻が夏の日よけに私の部屋の前に植えたゴーヤン4鉢。早くも3㍍に伸び、20センチの実を2本、他にも6本実らせ、日々伸びゆく風景。強い生命力をみて、老いの私に元気をくれての日々がうれしい。
 鹿児島では一般名「ニガゴイ」と呼ばれ、今は都会名でゴーヤンに。良質の栄養野菜に認知され、多くの人に食用されている。近づいて、よく観察すると、害虫がいるのに驚く。
 これからの盛夏に向け良い日よけになり、多くの実を付けてくれる。新しい夏の風物詩の発展が楽しい。妻に感謝する。どんどん伸びよ、ゴーヤン。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2013/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

シロアリ

2013-07-15 12:35:19 | はがき随筆
 羽を落としたシロアリが畳の上をはっていた。悪夢がよみがえる。築二十数年、過去3度摂食された。海岸の松林を近くに控えている。埋め立て地であるとか、原因は云々された。
 目標、発見。灯火のさす方に、桃源郷あり。体育館と交差点の水銀灯の明かりを目指せ。羽アリは新しい営巣場所を求めて、一斉に飛び立つ。砂地の松林の母巣だけでは子孫が残せない。新コロニーをつくるのだ。
 退職金も前借りして修理したので、蓄えはない。いいかげん私の家を目標にするのは、やめてほしい。この季節、羽アリを見る度、びくびくしている。
  いちき串木野市 新川宣史  2013/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

そんな気分

2013-07-15 12:00:36 | はがき随筆
 「この間、食事に行ったらねぇ」───。いつも穏やかで優しい彼女が話す。場所はどこ? お店の名前は? 次々に言葉が私の頭を駆け巡る。
 「そのお店に置いてあった文集にあなたの名前を見つけたの。エッセー書くの? 知らなかった」。あなたとエッセー? 
 とても意外な様子。エッセーを書くに至ったいきさつを一気に説明する私。いつもの穏やかで優しい笑顔で相づちをうって、私の長い話を聞いてくれた。久しぶりに今まで書いたエッセーをゆっくりと読み返す。今の気持ちを早くつづっておきたいそんな気分。彼女に感謝。
  垂水市 宮下康 2013/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

さいはての地へ

2013-07-12 20:01:46 | アカショウビンのつぶやき

さいはての地に行ってきました。
最北端到達証明書なるものまで買ってきましたー…

広大な草原に圧倒!

宗谷岬からの里程標です。樺太は近い…


利尻、礼文は、確かに花の島。覚えきらない程の花々がありました。

美しい利尻富士は、雲に隠れ、たまに顔をだします。
ガイドさんが「今ですよ!」

礼文敦盛草は植物園で見ることができました。
可憐でデリケートな美しい花です。





ちょっとだけ、小雨に会いましたが、
まあまあの天候で、
午前5時半からの、お花ハイキングも行けましたよー。

旅の仲間は、20年近く前に出会った素晴らしい友です。
配偶者を亡くした人々のグリーフワークセミナーに
全国から集まった友人です。
ともに高齢化し、愛する伴侶の元に旅立った人、
体調が思わしくない人もあり
今回は4人の参加となりました。

今回は最高齢となった私のために、計画してくれた
花の島めぐりの旅でした。
これが最後かも…と言いながら、
次の旅は、白神山地もいいねえ…と言いつつ別れたアカショウビンでした。

大いなる遺産

2013-07-12 16:18:52 | 岩国エッセイサロンより
2013年7月12日 (金)

    岩国市  会 員   横山 恵子

亡父が76歳で退職して耕した土地。堆肥を作り野菜を試行錯誤しながら作っていた。「何でも育つのを見るのは楽しみなもんじゃ」といとしそうに作物を見ていた姿を思い出す。

友人からは「野菜作りも子育ても肥(声)かけが大切」と言われる。育てるって栄養(肥)と愛情(声)あってのこと。子育ては既に卒業したが、野菜作りは1年生。初挑戦のスイカは頭くらいの大きさに。なったら、まず父に供えよう。畑も受け継いでみれば草取り、水やり、虫等に悪戦苦闘。もしかして、私に修行させようと残してくれたの?

   (2013.07.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン

今も、そこに

2013-07-11 21:37:53 | はがき随筆

 雨の中、田の畦にヤブカンゾウが花開く。オレンジ色のほのかな明かりのように。朝に咲いて夕にしぼむ一日花だと知った。その変わらぬ風情を懐かしむ。夫婦2人の生活となり、農作業の繁忙さに投げ出したくなる時も「生きがいだから」とさらりとかわし、「俺がいるじゃないか」と笑う夫がいた。労苦いとわず働いた大きな手。その手が病院のベッドで細く小さくなった。「時計ができない」とそれでも笑顔を作る。涙があふれた。
 懸命に生き、消えた命のはかなさが私の心に宿る。思い出の風景と共に……今も、そこに。
  出水市 伊尻清子 2013/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

時間の隙間

2013-07-11 21:32:20 | はがき随筆
 午前11時、オランダ・アムステルダム行きの機内で時計は逆戻りを始め、7時間前に向かっている。帰りは未来へ向かうことになるが、ハリー・ポッターのように時間の隙間に入れたらどうなるのだろう?
 浦島太郎の亀は時間の隙間に入ったのだろうか、それとも時間より速く泳いだのか?
 現代物理学は、光よりも速く走る素粒子の実験をしているらしい。そうなると、未来への時間の隙間に入ることができるのではないか。そしたらどんなことが起こるのか……?
 いつか、飛行機は白く凍てつくシベリアの上空にあった。
  出水市 中島征士 2013/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載