はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ホッ

2013-07-09 10:48:33 | はがき随筆
 生活科で、子供たちと虫探しをしようと校庭に出た。「あっ、いたいた」。トノサマバッタにショウリョウバッタ、カマキリ、アオムシ、トカゲ、アリ……。
 工藤直子さんの「のはらうた」の世界を思った。私は特に「かまきりりゅうじ」さんの詩に心引かれる。厳しい寒さの冬に耐えて、暖かく優しい春を待つ、「ふきのとう」と竹やぶと雪とお日様と春風。ごめんね、すまない、お互い様だよ……。そんな思いやりや優しさに包まれた世界。ホッ、うれしいな。子供たちと何度も読んだ。

「あーちゃん」

2013-07-09 10:47:05 | 岩国エッセイサロンより
2013年7月 9日 (火)

岩国市  会 員   山本 一


「あーちゃん!」。すかさず妻が「はーい」と答え、勝手□のドアを開ける。2歳の孫のきらきらした目が飛び込む。妻の名前は昭子。孫には「あーちゃん」と呼ばせている。私は細工なしの「じーちゃん」だ。
 時々、孫と話をしている時、ついうっかり「ばーちゃんが」と口走ると大変だ。妻がすっ飛んできて「あーちゃんだからね」と孫に念押し。ジロリと私を威嚇する。妻は20年後は90歳近くだ。孫は青春真っ盛り。その時もまさか「あーちゃん」ではなかろう。 
 いつごろ「ばあちゃん」に落ち善くか、外野席も興味津々である。   

  (2013.07.09 毎日新聞「はがき随筆」)岩国エッセイサロンより転載

英語でオレオレ

2013-07-08 22:17:23 | はがき随筆
 元上司の米国人地質学者からEメールがきた。マニラで学会の後、気付くと財布がない。カード類も財布の中なので無効手続きをとった。ホテルに預けた旅券は宿代を払わないと戻らず、帰国もできない。急ぎ3100㌦を送金してほしいという。
 夫は無職でぎりぎりの生活だ。そんな大金は無理だと返信した。2日後、まだマニラにいる、少しでもいいからときた。
 どうしたものかと彼の別居中の妻にメールした。彼のコンピューターがハッカーにやられていた。当人は米国にいる。海外送金を使った振り込め詐欺とは。油断も隙もありゃしない。
  鹿児島市 種子田真理 2013/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載

おいの結婚

2013-07-08 18:38:27 | はがき随筆
 先月、おいが結婚した。そのおいが初めて彼女の家にあいさつに行った時、「僕は薩摩の人間ですが、交際を許してもらえますか」と開口一番、彼女の父親に尋ねたそうだ。会津若松在住の父親は快く許してくれたという。
 我が一族が戊辰戦争に行ったとは聞かないし、白虎隊のことも歴上の秘話として知っているだけだ。それなのに、どうしてといぶかしく思った。だが、今でも会津では憎き長州、薩摩として語り継がれていると、彼女から聞いたという。
 迫害された側は幾世代にもわたって伝えていく。近隣国ばかりではなかった。
  出水市 清水昌子 2013/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載

おナベの会

2013-07-08 18:29:08 | はがき随筆
 高価な鍋を買ったまま、母を見送っても、なお使わずにしまい込んでいました。
 「由井ちゃん、そろそろ料理講習に出ておいでよ」と誘われて出かけました。
 「マジック鍋は使いこなしていますか? 簡単でおいしくできるでしょう」 
 ハンサムな先生がジョーク交じりで筑前煮、なめこのつくだ煮、蒸しパン、赤飯などをあっというまに仕上げ、試食です。
 「ジェジェジェ。うんまいなあ。失神しそう」と大騒ぎ。
 次回は、海鮮ちらしずしやスープを作るそうで、とても楽しみです。
  阿久根市 別枝由井 2013/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

勉強中

2013-07-08 18:23:28 | はがき随筆
 乗合電車で、たまたま乗り合わせた、見るからにご高齢のご婦人。何と英単語を書きつづったものを、わずかな時間を利用して勉強されていました。私も「六十の手習い」とはいえ、ラジオとテキストを片手に毎朝続けてはいたので興味津々。つい見とれた。
 簡単な英会話ができたらという願いもむなしく今に至る。放送を聞いたからといって、今更バイリンガルになれるわけもない。話せなくてもよいから老化防止になればと目標を下げ、あきらめず投げ出さずに、先輩を見習って努力し続けたい。いつか役立つ時を夢見て。
  鹿屋市 中鶴裕子 2013/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載

車椅子の人

2013-07-08 18:17:28 | はがき随筆
 車椅子を押しておられるのは、高齢の男性である。「よいしょ」と小さな声で診察室入り口近くに車椅子を止められた。
 頑張ってと、私は心の中でエールを送る。車椅子の女性は、つらそうな表情でうつむいておられる。視線を止めていると、痛むのか顔までゆがんで見える。でも介護してくださる人がいて幸せだなとぼんやり思った。待合室の人々は、待ちくたびれたように、皆無表情である。 
 そして、名前を呼ばれた男性は、車椅子を押して診察室に入っていかれた。その後ろ姿に、患者もつらいが、家族も大変だいう思いだった。
  鹿児島市 竹之内美知子 2013/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

棚田草刈り 活気戻る

2013-07-08 07:14:45 | 岩国エッセイサロンより

2013年7月 7日 (日)

    岩国市   会 員  片山 清勝

 標高500㍍にある休耕田の雑草刈リボランティアに、初めて参加した。
 棚田を見下ろしながら「かつては児童が150人もいた」と、集落に住む元教員が話した。眼下の田は、明治の初めに圃場整備された歴史を持つという。
 しかし近年、稲の植えられていない荒れ田には、背丈ほどの雑草が茂っている。山間地の問題を目の当たりにし、深刻さを感じる。
 十数台の草刈り機が一斉に仕事を始める。エンジンは小さいがまとまった音に、「久しぶりに活気を感じる」と集落の人の笑顔。
 機械は見る間に雑草を刈り倒す。初めて目にする回転刃の性能に驚いた。昼のむすびを食べながら話を聞く。経験から出る話の奥深さに驚く。
 草刈り機の操作を教わり、慎重にスタート。次第に慣れて、回転刃が雑草を切る感触を感じ始めて、自信が出た。
 倒れた雑草を眺めながらの達成感。次回も参加しようと決めた。

   (2013.07.07 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

山歩きは面白い

2013-07-06 22:28:36 | はがき随筆
 噴火の痛手を気にしながら中岳散策路へ向かった。地底からの招かれざる客は色彩豊かな小さな砂利に見える。しみじみと踏みしめて歩く。ツツジは白いサンゴのように立ち枯れしていた。それでも元気に花を咲かせている新芽にはほっとする。
 木陰で弁当を広げたその時、夫が声を殺して指をさす。すぐ近くを茶色いうぶ毛のヒナが1羽よちよち歩いている。私は行方を見守った。危険を予知したのか、早足で道端の茂みの中へ。巣立ちには難しそうなところ、無事を祈るばかりだ。
 初めての「ショー付き山ランチ」の味は格別だった。
  薩摩川内市 田中由利子 2013/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載

ランドマークツリー

2013-07-06 21:57:51 | はがき随筆

 夏の遮光用にと、部屋の南側に植えたT足りーに、今年初めて小さな白い花が咲いた。遠目には、枝に雪の綿帽子が積もっているように見えた。
 この木は、3年前の転居時に女房の友人から贈られた。豪州原産のハーブ。気が啓太時だけ、水やりなどをしていたが、苗木から今は2メートルを超すまで育った。細い枝に涼しげで香りも良い細い葉をたくさんつけた。
 身もがわくように、5月初めから咲き続けた花に驚いた。植物にうとく、観葉植物と思っていた。開花まで3年かかることも初めて知った。1カ月ほど、我が家のランドマークツリーだった。
  鹿児島市 高橋誠 2013/7/2 毎日新聞鹿児島版掲載

「生まれてバンザイ」

2013-07-06 19:08:06 | 岩国エッセイサロンより
2013年7月 6日 (土)

   岩国市  会 員   吉岡 賢一

息子夫婦に初めての赤ちゃんが生まれた。
2350㌘。手のひらに乗りそうなちっちゃな体がピンクの毛布にくるまれ、バンザイして眠っている。
この世に生まれてきたことを自ら喜んでいるのだろうか。それとも両親や私たちの喜びを察して「生まれてバンザイ」を叫んでくれているのかな。
 初産が帝王切開であっただけに、身二つになった元気な姿と対面した時は思わず心の中でガッツポーズ。
恐る恐る抱き上げる両手に新たな命の鼓動と果てしない夢が広がる。
これから始まる長い付き合い、年など取っていられようか。
  
(2013.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

内部障害者マーク

2013-07-04 15:34:44 | はがき随筆
 過日、某新聞で、心臓などに外見からは分からない障害がある内部障害者を示す、「ハート、プラスマーク」が存在していることを初めて知った。
 私たち内部障害者は、見かけは健常者となんら変わらないため、電車などの優先席に座っていると、白い目で見られたりするなど、いろいろと周りに気を使うことが多い。
 これを首から下げたりしていると、周囲の人の目に付きやすく、理解が得られやすいのではないだろうか。このマークが、多くの内部障害者の良きパートナーとして、普及するよう期待してやまない。
  鹿児島市 川端清一郎 2013/7/1 毎日新聞鹿児島版掲載

近くて遠い間柄

2013-07-04 15:27:33 | はがき随筆
 鹿児島に引っ越してきて3カ月がたった。夫の異動で、愛媛県から来た私たちにとって、まず最初に気になったのは、讃岐うどん専門店の看板だった。
 店名に「伊予」の2文字が入っている。讃岐うどんは「うどん県」を名乗る香川県の名産。これはいいのだが、伊予は愛媛県のこと。名産品はミカンだ。うどんは、名物とは言えない。
 「なぜ伊予なの?」と、どうしても引っかかってしまう。鹿児島に来てすぐ「四国って、どんな感じですか」と尋ねられた。愛媛にいた時も「九州って、行ったことない」と言われたっけ。ああ、近くて遠い四国と九州!
  鹿児島市 津島友子 2013/6/30 毎日新聞鹿児島版掲載

疎開児童だった

2013-07-04 15:15:55 | はがき随筆
 友、遠方より来たる。うれしいではないか。遠い日の記憶を共にする同窓生だ。
 2人の話は台湾・台北市での様子に始まり、学童疎開、草山へと移った。戦災を避けての集団疎開地、草山は、しかし私たちには戦場のようだった。
 玄米をそれぞれの瓶でついた食では腹下しが止まらず、防空壕もよく掘れなかった。下痢がばれると即禁食なので、私たちは隠れて下着を洗った。できものやシラミにも悩んだ。
 劇の練習は何とか楽しかった。そういえば兵隊さんから逆に慰問を受け、女性役に驚いた。
 あれから68年生きてきた。
  出水市 松尾繁 2013/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載