はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

古希が舞う

2014-04-17 11:23:17 | はがき随筆


 朝の楽しみはフジの花との対面である。初めて挿し木したので愛着はひとしおだ。
叔母からもらった博多織のブローチと似ている。
 「捨てがたくて、何かできないかしら。使ってちょうだい」と、いただいた古布で作ってみよう。使いこなされた大島紬。縮緬、緋色の帯揚げなど、とてもすてきだ。
 着物から作った花柄のブラウスには同じ布で、黒い服には緋色。ダンス用のブラウスの3色すみれの刺しゅうの上には濃紫。局に合わせて刺しゅうがはねているみたい。古布がよみがえった。舞った。
  阿久根市 別枝由井 2014/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

あの若者たちは今

2014-04-14 18:48:54 | はがき随筆
 30年前、東大工学部大学院でアルバイトをした。ワープロを打ったり、コピーをとったりという雑用係だ。
 その応用力学研究室には各国の留学生がいた。チリ、中国、タイ、スリランカ、イラン、エジプトなど。彼らは来日1年くらいでも敬語を含め立派な日本語を話した。教授の夫人たちが週に数回、日本語教室を開いていた。院の講義は日本人教授が英語で行うコマもある。日本人学生も必修だ。
 経験した中で、一番刺激的で面白い職場だった。留学生たちは母国で活躍しているだろう。元気で、無事で、と祈る昨今だ。
  鹿児島市 種子田真理 2014/4/13 毎日新聞鹿児島版掲載

ムックより

2014-04-12 15:39:31 | はがき随筆
 僕は新留家の愛猫ムックです。急に食欲がなくなり、病院で余命1週間の宣告。10日後、旅立ちました。家族は献身的看護をしてくれました。お姉ちゃんはいろいろな食べ物を買ってくれたけど、全く受け付けませんでした。ごめんなさい。最後は呼び声に頭を3回持ち上げましたが、それが精いっぱいでした。
 猫は死期が近づくと、死に場所を求めて出て行くという。でも僕は大好きなおうちでみとってくれた家族に感謝しています。思えば、母は生後間もない捨て猫の僕を育ててくれました。幸せでした。これからは僕が家族を見守ってゆきます。
  指宿市 新留栄太郎 2014/4/12 毎日新聞鹿児島版掲載

春の思い出

2014-04-11 18:28:10 | はがき随筆

 小学生の頃、まだ数件の茅葺きの家があった。村には代々伝わる共有の茅場があり、大切に管理されていた。屋根のふき替えをするためのもので、春先には村人総出でこの茅場を燃やした。山肌が一雨降るごとに緑一色になり、゜ワラビやゼンマイが面白いように取れた。時代と共に瓦ぶきの家になり、不要となった茅場は杉の木が植林されてうっそうとした森になった。
 かつてヨモギを摘み、ワラビを採った故郷は遠いものに。学校から帰ると山菜採りに行き、夜は地鶏と山菜の煮しめ。大家族で食べる母の味があった。春になるといつも思い出す。
  指宿市 有村好一 2014/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載

あすへの希望

2014-04-11 18:22:36 | はがき随筆
 「今年の3月11日こそ、鹿児島から故郷の宮城県仙台市まで新幹線を乗り継いでいくのだ」
 そう思って、少しずつ貯金をして、その日を心待ちにしていたのだった。
 ところが、今年1月の連休中に長男が膝前十字靱帯切断の大けが。全身麻酔をして、再建手術をすることになった。
 もちろん、新幹線貯金は全て彼の治療費に消えることに。
 思えば、いつもじぶんのことは後回し。
 時々、なんだかなあと悲しくなることしきり。
 でも、来年こそは。きっと……。
  鹿児島市 奥村美枝 2014/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

初恋

2014-04-11 18:16:41 | はがき随筆
 僕の初恋は中学2年の始業式の日に突然やってきた。
 当日、1人の若い女教師に僕は釘付けになった。小顔で美人でスレンダー。名字は入佐。
 幸いなことに、僕たちの音楽担当になったが、話すチャンスがない。そこでいやがる友人を連れて職員室に行った。いろいろ楽典を質問していると、隣の先生が「お前、先生が好きなんだろう」と言われた途端、体中の熱いものが一気に顔めがけて噴き上がってきた。後はどうやって部屋を出たか、今でも思い出せない。4月、ニュースで始業式の声が聞こえると、思わず口元がほころぶ僕がいる。
  日置市 高橋宏明 2014/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔のエプロン軍団

2014-04-11 17:18:27 | 岩国エッセイサロンより
2014年4月11日 (金)

岩国市  会 員   山下 治子

 食生活改善推進協議会は、地域の食育と健康のために活動するボランティアグループだ。略称は、食推という。
 退職して、ある日「健康診断を受けよるかね」と食推の方から声を掛けられた。急ぐ用事もなく、暇つぶしに受診すると…。思いがけず、命を拾った。拾った命はおまけの命、これも縁かと食推に加わった。
 1日分の野菜350グラムと食品30品目を用意し、調理し、ひと口50回かんで、きっちり食べる堅苦しい人たちなのではと、少し不安だった。だが、平均年齢59歳の60人は、それぞれの得手を提供し合い、よく食べ、よくしやべる笑顔のエプロン軍団だった。
 最年長は82歳。その所作は、包丁握りはボケにならぬという説を立証している。また、趣味も生きがいも「食推命」と言い切る会長は、この道32年。先輩方から見習う姿勢と、さりげない心遣いで、食推をまとめている。 
 3年前、東日本大震災が起き、募金活動に食推全員が奔走した。その半年後、山口国体が行われた。食推は、民泊選手団の食事作りを任された。被災地からの選手もいた。
 わが子のような選手たちのため、日の出前から仕込みを始め、朝と晩70人分を作ること10日間。正直きつかった。が、最終日に「ぶちうまかった」と山口弁であいさつされた時は、みんなで涙ぐんだ思い出がある。
 この年齢で「やり遂げた」という実感を体得できたうれしさは、食推全員の宝物だ。 

真新しいランドセルの新1年生たちは、友達何人できるかな。私は還暦を過ぎてから友達が100人増えた。

  (2014.04.10 中国新聞夕刊「でるた」掲載)岩国エッセイサロンより転載

私の願望

2014-04-08 11:24:47 | はがき随筆
 夫は散髪が嫌い。だから白毛が伸びて、ふさふさ。その様子は浦島太郎が玉手箱を開けて白髪の老人になった、正にその通り。しきりと散髪を勧めるが、がんとしてその気なし。
 ある日、やっと重い腰を上げ理髪店へ。短くさっぱりなると染めやすいから私が仕上げる。
 すると来客に、60代と見られて恥ずかしうれしの笑い顔。
 早速、葬式参列に準備万端。自慢気で私が「たまには、人の意見も聞くことよ」と。
 つれもって顔まで若くなるから不思議。やはり好感の持てる爽やかな夫であってほしい。夫75歳。
  肝付町 鳥取部京子 2014/4/8 毎日新聞鹿児島版掲載

センバツと鹿児島

2014-04-08 11:01:28 | ペン&ぺん
 今春、全国から話題を集めたのは、やはり第86回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)に奄美群島から初出場した大島高ではなかっただろうか。選抜発表前から注目され、出場決定の1月24日から4月2日の閉会式まで紙面をにぎやかにしてくれた。応援は全国32高の中から最優秀賞に輝き、まさに大島が日本に〝球春〟を告げ、最後を締めくくった。
 大島は初戦で龍谷大平安(京都)とぶつかって破れたが、11安打を放った。しかも今大会優勝校からである。龍谷大平安ナインの「こんなに強いなんて」と言わしめたほどだ。あの大観衆、対戦校の名前に動じない堂々たるプレーも痛快だった。
 今大会を主催した毎日新聞社の1人としてうれしかったのは大島のセンバツ出場について奄美群島の方々だけでなく、多くの県民の皆さんに喜んでいただいたことだ。高校野球が大好きな薩摩焼宗家十四代、沈寿官さん(87)は「21世紀枠出場に関係なく、甲子園での走攻守にわたる果敢なプレーは奄美群島、鹿児島の高校野球のレベルの高さを証明してくれた。夏が楽しみです」と目を細めた。2回戦で本来の実力を発揮できなかった神村学園も捲土重来に期待したい。
 開・閉会式の鹿児島純心高校と鶴丸高校のアナウンスも見事だった。まるで鹿児島づくしの大会で、私も一生忘れることができない。
 記者コラム「やごろうどん」をお読みになったように山崎太郎、奥田伸一の両記者が1日付で移動となり、新しく柳瀬成一郎(41)、杣谷健太(29)の2記者が仲間入り。柳瀬記者は石川県、杣山記者は三重県出身です。新鮮な視点で鹿児島の話題、問題などを全国に、そして世界に向けて発信してくれるでしょう。私も引き続き鹿児島でお世話になります。よろしくお願いします。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/4/7 毎日新聞鹿児島版掲載

一生懸命な桜

2014-04-08 10:54:34 | はがき随筆
 春を待ちかねたかのように桜がいっせいに咲いた。咲くだけでなく、陽を受けた桜は力を振り絞って懸命に咲いているようにさえ見える。
 ソメイヨシノだろうが、短命の花なのに、なぜこれほど見事に咲き誇っているのだろう。
 熊本県水上村の市房ダム湖周辺は万本桜で知られる。桜見物の客は3月27日だけで恐らく1000人を超えるようなにぎわい。私と妻のように、ひとときを華やぐ高齢者が多いようだ。私の一生の一日を楽しませ、憂えさを忘れさせてくれる桜の花よありがとう。私もせめて心をこめて桜のお前を見ていたい。
  出水市 小村忍 2014/4/7 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆同好会…

2014-04-06 17:03:57 | アカショウビンのつぶやき
大隅ペンクラブの勉強会でした。

ご多忙な中を鹿児島市から駆けつけて下さった、三嶋支局長に
「ペンクラブではお花見はされないのですか?」
と聞かれましたが…
春の勉強会はお花見ではなく、まじめな作品合評会でした。

勉強会はいつも午前11時から午後3時まで、
場所は鹿屋市の公共施設、りなシティかのやのボランティア室です。
一階にスーパーがあるので、お昼はめいめい好きな物を買ってきます。

今日は、キヨ子さんが黒米のおにぎりとおかずを差し入れてくださいました。

合評会ですから、厳しい意見も飛び交います。
でも、仲間同士、相手の意見に学びながら、
最後は支局長の講評を頂き
楽しい時間はあっという間に過ぎました。

秋の勉強会は、バラ園見学とか楽しい計画にしようかなあ。

海を越えて参加して下さった、三嶋支局長に感謝でした。


なつかしい

2014-04-06 16:11:14 | はがき随筆
 就職、進学、転勤などで故郷を離れて新生活を始める方も多いことだろう。人間の生活にとって、衣食住はかけがえのないものである。まだ若い頃、借家に住んで働いていた時のことを懐かしく思い出す。
 大家さんがすぐそばに住んで居られた。まだ給料が現金支給の頃だったので、給料日には必ず家賃を届けていた。困ったことはないかと声をかけてくださったり、時にはおかずを1品届けてくださったり……。本当に良くしていただき、そのさりげない心遣いがありがたかった。30年も前の親切だった大家さんご夫妻の笑顔が浮かぶ。
  出水市 山岡淳子 2014/4/6 毎日新聞鹿児島版掲載

増税に思う

2014-04-06 15:38:32 | はがき随筆
 1日から消費税率が上がった。我が家も洗剤や紙類、缶詰、夫の好物の酒類など賞味期限にあまり左右されない、買い置きが可能な品々を備蓄した。店員によると、増税前、同様の客が目立ったという。店内に表示された価格をみると、既に値上がりしている品物もあった。
 今後、更に年金暮らしをジリジリと締め付けるのかと案じる日々。ぼやく私に、友人いわく「皆、一緒よ!」と一瞬、喝を入れられた。どうか増税分、私たち庶民にも反映され、還元されますよう、大海原に舟が転覆しないよう、かじ取りをお願いしたいものです。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ふるさと

2014-04-04 17:21:51 | はがき随筆
 春は別れと出会いの季節。縁側で日差しを浴びていたら、ふっとあの日、汽車に乗って旅立った記憶がよみがえってきた。古里を後に列車が滑り出すと、母ちゃんが「ムイをせずキバレよ」と一言。ホームで見送る両親との寂しい別れだったが、離れて分かる古里のすばらしさ。思うのは古里の山や川、そして日々の暮らしだった。今、古里に帰り、この自然に親しみながら暮らしているが、あの日から四十数年が過ぎた。人生を振り返ると、古里があって親や多くの縁、出会いによって励まされここまで生きてこれた。でもあの日の両親はもういない。
  さつま町 小向井一成 2014/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載

春の朝

2014-04-04 17:09:48 | はがき随筆
 東の空が明るみ始め、夜明けぎりぎりの時間だ。いつもの通りを歩いていると、田んぼの中からヒバリのさえずりが聞こえる。多分、冠羽をたてて、背伸びし、口を精いっぱい開けて鳴いているのであろう。春が来て暖かくなり、子育ての時期とみて、そろそろ巣作りを始めようとしている。他のヒバリに縄張りを主張しているのであろう。繁殖期になると雌は抱卵し、雄は揚げヒバリとにって縄張りを主張する。心配するのはそろそろ農作業が始まり、作った巣を壊されてしまう。12日間くらいでふ化する。キジも縄張りを主張するようにケーンと鳴いた。
  出水市 御領満 2014/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載