はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ぷんか

2015-06-23 05:11:06 | はがき随筆

 「あ、またぷんかした」
 朝の定点観測が日課だった3歳の息子は、桜島が噴煙をあげるたびにそう言った。一日どころか一刻に七色を変えるその姿を、彼は飽きずに眺めていた。
 群雲が頂を隠せば、「桜島が壊れちゃった」と嘆き、「どうしよう」と応じれば、「大丈夫。すぐ直るから」と答える。弾むようなこどもの感性はぴかぴかだ。
 彼の記憶に残るのは、きっと、灰に悩まされる洗濯物ではなく、陽光を照り返す岩肌だろう。そして、いつの日か、桜島のごつつよか二才(にせ)になるだろう。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

つばめの巣作り

2015-06-23 05:00:40 | はがき随筆


 玄関先の屋根の梁の内側に巣を作るべく、毎年、燕が視察に来るのだが、なぜかすぐに諦める。どうやら木が邪魔だったようで、切って低くしたら、今年はさっそく巣作りを始めた。
 3日ほどは基礎作りの感じだったが、4日目からは椀状の巣が急ピッチで作られ、10日目くらいには出来上がった巣の中で重なり合うつがいを見た。
 いよいよ抱卵が始まった。下からだとよく分からないが、じっと抱いているようだ。頭が時折見えたりする。オスが餌を運ぶのか、それとも交替するのか。時々鳴き声がする。早く燕の赤ちゃんを見たいものだ。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

今がベスト

2015-06-22 22:53:54 | はがき随筆
 学生時代、ある先生が言われた。人生には、勉強がしたくてたまらない時が必ずあります、と。う~ん本当かな。
 すると、やってきたのです。頭も体も錆びかけた今。毎日、辞書とニラメッコ。頭は悲鳴をあげ、歩くとフラフラ。こりゃ大変と心配したが、難しいことを始めたので、脳がパニクっているだけとの事。あー分からない。覚えても、どんどん忘れる。脳の限界とは裏腹に、絶対やると心が叫ぶ。やりたいのです勉強が! 子育てを終え、親もみとり、家族も元気。
 何かをするのに、今が私にとって一番ベ・ス・ト。
  鹿児島市 永野町子 2015/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

公開添削

2015-06-22 19:32:01 | はがき随筆
 さつま狂句の公開添削がNHKのふれあい広場で行われた。添削の対象となる7句が披露され、私の句も運良く選ばれた。
 社長家ん帰や犬にも挨拶つしっ(しゃちょげえん もどや いんにもえさつ しっ)
 選者はテレビや新聞でおなじみのKさん。1句ずつ丁寧に添削される。公開添削は初めての経験だが、会場は爆笑と拍手に包まれた。
 数年前に横浜から帰郷し、昨年、仲間と句会を立ち上げた。狂句は鹿児島方言を使い、独特の言い回しがあり、ニュアンスも川柳とは異なる。かごっま弁を習得して自分なりに楽しい狂句ができればと願っている。
  鹿児島市 田中健一郎 2015/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

猫の恩返し

2015-06-17 21:38:20 | はがき随筆


 その夜難問を抱えた夫婦は落ち込んだまま就寝した。猫のイークンはそんなことにお構いなく、いつものように早朝4時に「外に出るよ」と起こしにきた。そして6時には「おなかがすいたニャーン」。エサを与え、入ってきたガラス戸はロックせずに閉めて寝る。満腹になればまた自分で開けて外出だ。
 私は習慣的に7時頃トイレに起きるのだが、開いたガラス戸を閉めようとしたら開いていない。変だなと思いながら戻ると、イークンはカミさんの顔を見つめていた。外に出たいのを我慢してカミさんを見守っていたのだった。
  西之表市 武田静瞭 2015/6/4 毎日新聞鹿児島版掲載

聞きたくて…

2015-06-13 18:12:29 | はがき随筆


 おどま盆ぎり盆ぎり
 盆から先きゃおらんと
 盆が早よくりゃ 早よもどる
 この唄を山あいの五木村で聞きたくて、「五木のふるさと新緑祭り」にでかけた。
 子守唄保存会の方の情感のこもった歌に悲哀を感じる。 
 口減らしのため、子守奉公にだされた娘さんの心情がせつない。帰宅してからも、しばらくは歌詞が頭から離れず目頭が熱くなる。
 今では、五木村も道路は整備され、川辺川のダム計画による移転で立派な家並みが……。
 秋の「五木の子守唄祭」も気になる。
  垂水市 竹之内政子 2015/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

鳥獣被害

2015-06-13 18:02:24 | はがき随筆
 瑞々しい春野菜が店頭に並び食欲をそそる。悪天候の影響で価格は高め。頼みの綱の主人の菜園は高隈山の麓にあり、猿に荒らされた。タマネギ、新ジャガは全滅、竹林のタケノコはイノシシにかじられた。猿もよほどの食糧難なのか山里に下りて来ては悪さをする。親指大の芋が申し訳なさげに少々残されていた。こうも被害が続くと作物を作る意欲も失せそうで心配になる。趣味の領域だと諦めもつくが、農業で生計を立てるとなると被害甚大。「可愛い」ではすまされない。対策に苦慮するばかり。我々と鳥獣との知恵比べは永遠に終わらないだろう。
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/6/2 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆大賞に森園さん

2015-06-13 17:28:59 | 受賞作品


 第14回毎日はがき随筆大賞の表彰式が30日、北九州市小倉北区のホテルクラウンパレス小倉であった。大賞に鹿児島県鹿屋市、森園愛機遅参(94)の「愛妻」(昨年8月9日掲載)が選ばれた。
 はがき随筆は九州山口の毎日新聞地域面に連日掲載されていて、毎年、各地の年間賞13作品から大賞などの各賞を選んでいる。今回は福岡賢中間市在住の芥川賞作家、村田喜代子さんが昨年分を審査した。また「記憶」を題材に別に募集した「文学賞」には179点の応募があり、5作品が選ばれた。
 表彰式には各県の代表ら約130人が集まった。村田さんは森園さんの作品について「大きな心と愛で妻を支える存在になろうという重いが伝わった。本当に参りました」と講評。森園さんは「各県代表のみなさんの作品を読んで『まだまだ勉強が足らん』と思っていたので、大賞はびっくりした」と話した。【祝部幹雄】
 他の受賞者の皆さんと受賞作は次の通り。(敬称略、住所は随筆掲載時)
【日本郵便株式会社支社長賞】「風」福岡市城南区、小森百合子
【RKB毎日放送賞】「高らかに鳴け」山口県岩国市、安西詩代
【北九州市長賞】「深夜の旅人」北九州市八幡西区、出口敬子
【優秀賞】「栗飯を二人で」山口県美祢市、池田実  
     「『沖縄』と言えば」長崎県島原市、荒木洋子 
【文学賞】「扉のない校門」鹿児島市、高橋誠
     「ほっこ焼きと愛称」佐賀市、真崎佐和子
     「匂いの記憶」福岡県香春町、大場ほずみ
     「父の手」北九州市小倉南区、長田あいゆ
     「記憶」山口県岩国市、森重和枝

磯の幸

2015-06-13 17:10:20 | はがき随筆
 磯が呼んでいるような気がした。5月1日。大潮で、運良く天気も良かった。
 急いで出水市蕨島の磯へ向かう。磯は、まだ引き潮の最中。波打ち際にはアオサと思われる海藻が波に揺れている。つーんとくる磯の香りを嗅ぎ、妻の手作り弁当を食べるとうまい。やがて大小の岩が現れる。
 あちこち見てまわると、イシダタミゃイボイシなどの巻き貝がつくさんついている。2時間程度で竹籠半分くらいに。友人宅3軒に分けると、とても喜んでもらい、私もうれしかった。
 昔、磯の幸はどれほど多くの人々の命を繋いだことだろう。
  出水市 小村忍 2015/6/1 毎日新聞鹿児島版掲載

豪華付録つき

2015-06-12 11:06:39 | はがき随筆
 小3の長女が通信教育を始めて3年目。飽きっぽいが、付録や賞品のお陰で続いている。
 8月号の付録の紹介を見て驚いた。デジカメだ。以前届いた、自然観察用のスコープと合体できるという。
 問題を提出して、シールを集めると交換できる努力賞賞品も、携帯用音楽端末だ。現代っ子は、ここまでしないと魅力を感じないのか。教材会社も大変な時代だ。
 約30年前、私も同じ講座を受けていた。最高賞品はカード型デジタル時計。大切にした。さて、長女のスコープは,最近見ないがどこへ行ったのやら。
  鹿児島市 津島友子 2015/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載

諭しかた

2015-06-09 01:16:12 | 岩国エッセイサロンより
2015年6月 5日 (金)

岩国市  会 員   片山 清勝



歩道沿いの植え込みに白いものが見える。近づくと「けなげに一生懸命咲いている花を抜いたり切ったりしない事です」と書かれ、抜き取られたくぼみのそばに置かれている。「花泥棒は罪ではない」といわれているが、丹精込めたそれを黙って持っていかれて、美しさを評価されたと喜ぶ人はいない。一文を置かれた人は、持ち去りを直に責めず、小さくても生き物の命の大切さを話しかけている。私なら「盗むな」とだけ書いただろう。

効果ある説き聞かせには、相手の気持ちに優しく入り込める言葉が肝要と教えられる。

     (2015.06.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

初めから仏には

2015-06-09 01:12:53 | 岩国エッセイサロンより
2015年5月19日 (火)

岩国市  会 員    貝 良枝

仕事の帰り、1人暮らしの母の家に寄る。今は妹が掃除や食事の世話をしているので、薬を見て世間話をして掃るだけ。  
 妹は時々、母の行動や言葉にイライラして「まー腹がたつ」と私に愚痴る。「まあまあ、怒っても、お母ちゃんはすぐ忘れるんだから、カッカするだけ自分がエライよ」と諭す。
 そんなある日、妹にかわって母の好きなおかずを持って行ったら「魚は嫌いじゃ」と言う。さっと取りあげ、目の前で残飯に入れた。それでも母は、勝手口を出る私に「ありがとう」と言う。悪かったなぁ。鬼になったり仏になったり……。  
    (2015.05.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン より転載