はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

朝は山姥

2019-05-28 19:13:38 | はがき随筆

 「その髪どうしたん」と久しぶりに会った友が、目をまん丸にして驚いている。

 それからしばらくして、自宅庭を紹介する新聞記事にのった私の写真を見た別の友が、「みちがえた上品な髪でいいが」と絶賛。それまで心の中で、モヤモヤと悩み続けていた事が、サーッと霧が晴れた気分。

 「よ~しもう迷わない」と白髪染めを手離した。もうすぐ1年。自然体で生きることの気楽さにすっかりとりこになった。

 ただ朝起きがけに鏡を見ることだけは避けたい。それは正に孫も驚く〝山姥〟そのものなのだから。

 宮崎県日南市 永井ミツ子(71) 2019/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載


マジはいつから

2019-05-28 19:06:53 | はがき随筆

 中高生でも「それマジ?」「マジかよ」と盛んに使う。江戸期に一時使われていたと聞くが約40年前の東京でのサラリーマン時代に初めて耳にした。酒の席で「それマジ?」と連発する同僚がいた。おかしくて皆でまねしたことを思い出す。おそらく東京の一部の若者が使っていたのであろう。

 それが今は全国津々浦々、若者が盛んに使っている。若者言葉が次々生れて消えていく中でマジは40年以上も使われ続けている。すっかり市民権を得た形だ。将来、教科書にも採用されるかもしれない。「それマジ?」

 熊本県嘉島町 宮本登(67) 209/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載


月間賞に的場さん

2019-05-28 18:46:07 | 受賞作品

はがき随筆4月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

 【月間賞】4日「ジェスチャー」的場豊子=鹿児島県阿久根市

 【佳作】4日「デジタル新聞」増永陽=熊本市中央区

 ▽4日「小さな畑」小野小百合=宮崎県日南市

 ▽16日「心に咲いた花」若宮庸成=鹿児島県志布志市

 

 5月1日に皇太子徳仁さまが新しい天皇の位に即かれ令和の時代が始まりました。

 多くの人が即位を喜び世の中はお祝いムードに包まれています。令和の時代も平和が続くようにと祈るばかりです。

 的場豊子さんは、スイスの高原列車の旅に行こうと、ご主人から誘われた。旅先で言葉が通じるかしら? と不安もあるが、以前エジプトの旅では身ぶり手ぶりで十分に通じたから今回も何とかなるだろうと。「なぜか通じるんです」に作者の女性としてのたくましさとユーモアが感じられて気持ちがいい。思わず拍手を送りました。スイス旅行の後日談も楽しみにしています。

 増永陽さんは、卒寿の方。その日常は驚くほどエネルギッシュです。新聞のデジタル版のプレミアムプランを登録して北海道版やサンデー毎日、エコノミストまで読破されている。高齢になるとIT関連のカタカナ文字は敬遠しがちになりますが、増永さんの文章は最新のIT用語満載です。まさにこの作品は人生百年時代を照らす光です。

 小野小百合さんは、お父さまが残された小さな畑をご夫婦で守っておられる。その日常を自分の心の内を見つめながら書かれて、しっとりとした文章に仕上げました。

 若宮庸成さんの作品。物の不足した時代、衣類に開いた穴にはツギを当てて大事に着ていました。今は使い捨ての時代ですが、だからこそツギを当ててくれた人の暖かさが見にししみて「心に咲いた花」とタイトルにした作者の気持ちが読者に伝わります。

 4日の竹本伸二さんの「食」、17日の古城正巳さんの「反省」も心に残りました。

みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田淳子


予想

2019-05-28 17:55:11 | はがき随筆

 平成最後の新年を迎えた1月5日の毎日新聞の社説に「新元号の発表4月1日」とあった。早速、妻と話し合い、お互い希望の元号を書いて封筒に入れ、発表時に開封しようと引き出しに保管した。

 待っていた4月1日、保管した引き出しを探すが封筒がない。まだボケてはいないよねとお互いを励ますが、分からないままに、昼前のテレビで「令和」が映し出された。考えもしなかった新元号誕生の瞬間だった。翌日の新聞に大きく「和やかな時代を願う」とある。

 私たちの元号案は「幸」のことを書いた覚えがある。

 鹿児島県出水市 宮路量温(72) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


新学期

2019-05-28 17:47:33 | はがき随筆

 生命保険の仕事で、昼休みの中学校を訪問している。職員室の中にいると、入り口で生徒たちがドアをノックする。

 「1年2組の〇〇です。△△先生に用があってきました。入ってもよろしいでしょうか?」

 声が小さいと中にいる先生たちには聞こえず「どうぞ」と言ってもらえない。言い直して「失礼します。こんにちは」と入ってくる。先生の机までの道順、職員室を出る時の挨拶。それらは細かく決まっていて、間違えるとやり直しをさせられる。

 当然ながら、2年生、3年生はスムーズだ。毎春繰り広げられるこの光景がほほえましい。

 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(62) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


言葉遣い

2019-05-28 17:38:56 | はがき随筆

 ある日、テレビを視聴していたら、演劇を鑑賞した人が「全然面白かった」。また、かなり以前のことだが、登山を終えた人が「全然きつかった」と口にした。

 全然という副詞にはその事柄を全面的に否定する言葉が付加するので「全然面白くなかった」「全然きつくなかった」と言うべきである。

 また「地震の被害者等(など)」と発音しているが、事物の場合は「机や椅子など」、人に関する場合は「熊本地震の被害者等(ら)」「市長等(ら)が出席して」と発音するのが正しい言葉遣いである。

 熊本市東区 竹本伸二(90) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


入院中

2019-05-26 22:06:34 | はがき随筆

 1日、2日の遅れながら息子便で病室へとどく新聞。今年ちょろっとしか桜を見ずにいたら、5月6日の歌壇・俳壇欄に「北上へ花を追い」と高田正子の花談がなにもかも語っていて、まるで私も同道した。

 さすがと感慨にひたり、心満ちつつ更に桜に思い及んだ。4.5年前、京の三条の春、加茂川の桜はこぶしを握りしめていた。二条のも。

 しかし、文で花や景をみると、おのずと心に浮かぶ表現力にみちびかれて楽しいし、なかなか消えない。「車窓の景色は季節を巻き戻してゆく」という。表現とともに。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


五月人形

2019-05-26 21:50:21 | はがき随筆

 昭和43年。大坂の専門店で大型の五月人形「兜差し」を買った。地下鉄、阪和線を乗り継いで最寄駅まで。そこから1㌔歩いた。ケースがかさぱって抱えるのに難儀しながら、休み休みようやく持ち帰った。

 東京、宮崎を転居後も、飾る度に天袋からの出し入れに難儀していた。年老いて昨年、ケースを廃棄し人形だけ養生し納めた。今年「令和元年」。天袋からの下ろしが容易であった。

 今までガラスケースに納まった人形が、ケースから解放され、よりたくましく立派に見えた。お陰で息子、孫、私を含め男たち。皆元気で活躍している。

 宮崎市 貞原信義(80) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


感謝

2019-05-26 21:43:37 | はがき随筆

 間もなく結婚50周年を迎える。結婚当初、夫は優しさとユーモアで包んでくれ、私はうれしく幸せだった。子どもが小さい頃、社会勉強と言って職場見学に連れていったり、息子とはよく相撲を取ったりとスキンシップや教育にも関わってくれた。

 ラジオで野村克也さんが、奥さんが亡くなり心残りだったことはなんですか、と聞かれて「結婚生活は幸せだったか聞きたかった」と言われていた。

 人生も残り少なくなり振り返って思うのは、思いやりのあるしっかり者の娘と、優しく暖かい息子を贈ってくれた夫への感謝です。ありがとう。あなた。

 熊本県合志市 古城紀久子(74) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載


今年も春が香る

2019-05-26 21:20:51 | はがき随筆

 

 

 母屋の玄関を開けると甘い香りがフワーッと流れ込んでくる。玄関のすぐ前にある棚に、カミさんが小鉢に株分けしたギンギアナム、その少し右手にはオガタマ、庭の中央ではシンビジウムが存在をアピールしている。花たちの間を通り抜けてくると、香りが迫って来る。

 写真を撮ってみた。目で見るのと違い、意外と見栄えがいい。「なんだか豪邸の庭みたいだわね。写真はがきを3枚作ってね」とカミさん。関東の友人への近況報告に使うのだ。

 毎年この時期になると、同じように香りを楽しみ、幸せをかみしめている老夫婦である。

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載

 


今夜は私を選んでください

2019-05-26 21:12:26 | はがき随筆

 「私を選んでください」「いや僕を選んでください」「私の方は1カ月もそのままなのよ」「僕はどうしてくれるんだね」「私なんて毎日使ってもらいたいのに」「私は彼女からのプレゼントなんですからね。もっとちゃんと使ってちょうだいよ」「僕なんてあんたの使い方が悪いから、ケガをしちゃったじゃないか」「ああなみなみと私を満たしてほしいわ」「私に口づけを」「あなたの優しさを証明して」「もうこれ以上こんな所に引っ込んでるのは嫌だぜ」……。

 棚に並んだぐい飲みたちが囁く。さて今日はどれを選ぼうか。だれやみの始まりです。

 宮崎市 谷口二郎(69) 毎日新聞鹿児島版掲載


退職祝い

2019-05-26 20:58:59 | はがき随筆

 若い日に職場が共通した縁で、交流が続く4人の仲間がいる。飲み会は酒量が増すにつれ放談で笑いの渦が巻く。孫を持ち風貌は変わったが、会のスタイルに変化はなくストレスを発散し近況を確認し合う場となる。仲間が退職するとその度に祝い、今年は4回目となった。私は料理教室に通い多少の心得があったので手料理のお祝いを恐る恐る提案した。

 さて、私の中華料理数種と母直伝の白あえに妻の料理を並べた。不安は仲間の食欲が吹き飛ばしてくれた。その夜も心は青年期にタイムスリップし話題は果てしなく広がっていった。

 熊本市北区 西洋史(69) 2019/5/21 毎日新聞鹿児島版掲載


犯人検挙

2019-05-26 20:52:48 | はがき随筆

 今回は尾籠な話になり恐縮ですが……。

さてその瞬間はあっけなく来た。排尿のとき何かがチンチン内を通過した。と思った。腰を浮かして便器の底を注視すると……。あるある。拾い上げた。アサガオの種大の茶褐色でギザギザした石だ。なんと半年もの間、私の体内に無賃で間借りし、たびたびの激痛のもととなった犯人である。

 体内に潜んでいるところを衝撃波で粉砕したこともあったが、この手で検挙したのは2度目。これで危惧していた荒治療も免れスッキリだ。ありがとうございました。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載


鶴は千年亀は万年

2019-05-26 20:45:34 | はがき随筆

 「子供ん頃、誕生日は必ずそうめんと巻きずしだった」と言ったらカミさんが「なんでそうめんと巻きずしなの?」「好物だから」。

 早食いの私はささっと食べられるものが好きなのだ。炊事は祖母が全てやっていたが、献立の明確な誕生日は作りやすかったのだろう。

 祖母は私の早食いをいさめて、「ツルツル飲みこんだら千年やけど噛めば万年や。よう噛んで長生きしィ」と言った。質素な家族そろった誕生日の夕餉。あれ以上の何をも望むべきでなかったと、今は思う。

 私の早食いは直らなかった。

 宮崎市 柏木正樹(70) 2019/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載


旅人のひとり言

2019-05-26 20:38:21 | はがき随筆

 妻を亡くしてむなしい。でも九州の長官としては悲しんでばかりはいられない。2月にしては暖かで風も穏やかなので梅見の宴を開いた。山上憶良君と唐の文学論を交わしたのも一興。濁り酒を飲みながら皆で32種の歌ができたので私が漢文で序を書いた。

 何だか下界が騒がしい。私のくだんの序文から2文字を選んで令和という元号にしたそうだ。意味は美しい調和だと。それは少しこじつけのような気もするが、まあ良いか。騒ぎすぎのような感じもするがね。ま、一杯飲んで私はまた眠りにつこう。

 熊本市中央区 増永陽(88) 2019/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載