はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

若いとは思ってないけど

2019-05-04 12:17:12 | はがき随筆

 ウオーキングにでた。田の道から宮田川支流へ。道路に上がる手前で、スケッチする花を摘もうと立ち止まった時、後ろから男性の声がした。「あんた、よくまあ、あんな所を通ったな。わしでも怖かったが」と言いながら抜いて行かれた。

 「えっ、どこのこと?」。来た道を振り返る。木がせりだしていたあそこか。ウオーキングポールで支え、堤防のへりに下りたが、1㍍くらいの段差。怖いとはちっとも思わなかった。

 あの男性より私が年上? ポールを杖と思ったの? などぶつぶつ思っていたら、花を摘むのも忘れて帰っていた。

 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/5/3 毎日新聞鹿児島版掲載


退職の日

2019-05-04 12:02:24 | はがき随筆

 

 「お母さん退職したよ」

 「……」

 次は少し大きな声で「退職したよ」。「たいそうはせんよ」と返ってきた。

 昭和63年に就職し、平成30年度で退職することにした。母は以前「あと何年ね?」とよく聞いた。その母も96歳。もう一度「た・い・しょ・く・したよ」。「たいしょく?」「そうそう。お母さんかいてくれたから勤められたよ。ありがとう」。私が頭を下げると「どういたしまして」。母も頭を下げた。

 平成最後の桜の季節。病院の2階の窓から、母と2人で満開の桜を愛でた。

 熊本県荒尾市 城島としこ(56) 2019/5/2 毎日新聞鹿児島版掲載


今年の花見

2019-05-04 11:56:26 | はがき随筆

 

 桜の名所、慈眼時公園のすぐ近くに住んでいる。テレビの桜情報で桜満開を知って花見に。

 わーっ! 桜、桜……桜の花に引き寄せられて小走りする。花びらが優しく語りかけてくれるようで心ほんわり。モヤモヤ気分が吹き飛んで、るんるん気分になっていった。ふと桜の木の下のぶらんこに乗りたくなった。「まためまいがするぞ」。夫の声がきこえたときには、もうぶらんこをこいでいた。立ちこぎで天に届く勢いでと思ったが、勇気がでなくてゆっくりと座りこぎ。ゆうらり、ふわり、不思議な感じ。自分が老齢であることなど全く忘れて楽しんだ。

 鹿児島市 馬渡浩子(71) 2019/5/1 毎日新聞鹿児島版掲載


はじめまして

2019-05-04 11:34:14 | はがき随筆

 三寒四温をくり返しながら春本番となったある日、思わぬプレゼントが届いた。

 差し出し場所は、ハワイだ。東京に住む孫息子夫婦の新婚旅行のオミヤゲと気付く。ワクワクしながら箱をあけると、何と、縫いぐるみの海ガメだった。萌黄色の甲羅はビロード。つぶらな瞳は、ボタンで作られており一目で気に入り、思わず抱いてしまった。

 電話でお礼を言うと、「海ガメは幸せを運んで来る、と聞いたので迷わず決めました」と言った、2人の思いの深さに、ホロリとした。一日の終りの声かけが、安らぎとなっている。

 宮崎市 田原雅子(85) 2019/4/30 毎日新聞鹿児島版掲載


庭に春が

2019-05-04 11:25:17 | はがき随筆

 縁側でのガラス戸越しの日差しが心地良くて、日なたぼっこを楽しむ。そんな日が続いた夕暮れ、寒の戻りを予報士が言う。小寒い日の庭の一隅。日だまりのプランターに、密植したムスカリり根元に、土を割って紫色の小花がちらり。小さいながらその凛とした姿がうれしくて「えらいね! 頑張った!」とつい声を掛けてしまう。

 見渡すと、庭奥の山桜もピンク色の葉芽を見せている。

 そよそよと吹き渡る風。この風が葉芽の広がりを、つぼみのほころびを促すのね。そして築山の沈丁花やミツマタの香りを運ぶのね。

鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(82) 毎日新聞鹿児島版掲載


激励され奮発

2019-05-04 11:15:43 | はがき随筆

 遠い昔、夫と同僚の女性教師の方が、近くに居住されて懇意にしてくださる。新鮮な豆腐と手作り野菜を持参、溌剌とした笑顔で玄関に。夫に「先生が」と告げる。「もう先生では」と控えめ。いつものお返しは随筆一作をB4の用紙に絵、書、写真と共に貼り、コピーして仕上げ、兄弟、姉妹、知人に「どうぞ」と。思えば69歳からはや10年間、私の拙い文を数々掲載くださり、毎日新聞社に感謝します。でも文を書き尽くした感がして、投稿をためらい「さて今後は?」。すると先生に「ぜひとも続けて」と激励されて、沸き立つ心で奮発、ペンを握る。

 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(79) 2019/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載


令和の風

2019-05-02 22:20:52 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月 1日 (水)

    岩国市  会 員   樽本 久美


 2年前、父は85歳で亡くなった。命日は4月29日の「昭和の日」。私の誕生日も祝日で「建国記念の日」に生まれた。よく父が「多くの人が国旗を立てて祝ってくれる」と言っていた。 
 大好きな父が亡くなって、いろいろあった。ふと、父が生きていたら、どんな言葉を掛けてくれたか?と考えてしまうこともある。
 一方、もうすぐ誕生日を迎える母は今、老人ホームに入っている。もうすぐ86歳になる。ホームに入って、おかげさまで少しずつ元気になっている。「三百六十五歩のマーチ」や「青い山脈」の歌に合わせて体を動かしている。
 ホームの人が楽しく一日を送れるように手を貸してくださる。本当にありがたいことである。感謝、感謝である。
 そのホームで毎週、自由に文字を書く遊書や川柳を教えている私。講座の前には一緒に体操をする。母と手をつなぐことができるありがたい時間である。 
 足の悪い母がいつまでも楽しく生活できることを祈りたい。手先が器用な母。保母をしていたので折り紙などは上手である。今は川柳作りに挑戦している。親子で新聞に川柳掲載を目指したい。
 私は4月から新しい仕事を始めた。長年の夢であった、書道の先生。子供たちに人としての振る舞いも私なりに教えたいので私自身も勉強が欠かせない。 
 令和の風が吹いている。焦らず、ゆっくり令和の風に吹かれていたい。そして背筋を伸ばして歩んでいきたい。
   (2019.05.01 毎日新聞「女の気持」掲載)