はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

約 束

2019-05-25 20:19:28 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月11日 (土)

  岩国市  会 員   山本 一


 1969(昭和44)年4月25日に結婚。財産は月賦の終わっていない白黒テレビだけ。祝い金は1000円が相場の時代だ。あれから50年。「記念に海外旅行」と約束していた。
 が、今は全くその気がうせた。理由は飛行機に乗りたくないからだ。これまで海外に行く度に体調を崩した。おまけに「神経性下痢症」の持病もある。
 とはいえ妻は記念日好きだ。こんな時、「お姉ちゃんのいる京都へみんなで行こう」と近くに住む次女からの助け舟。「海外は娘たちと行って」と終活ノートに書こう。あの世で恨まれないように……。
   (2019.05.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


有りがたい

2019-05-25 20:02:45 | はがき随筆

 平成27年、病を得て入院手術。体重が8㌔近く減り体力も落ち、二つの体操教室を辞めた。市の月1の「初めての短歌」に入会した。3カ月、会員の方の昨歌を聞いていた。すると先生の「どうして出さないのですか」に奮発した。「もののふの修行のごとき句の世界 自分を鼓舞し門前に立つ」を生れて初めて作った。短歌は1首・2首と数える基礎さえ把握していなくて赤っ恥。しかし四苦八苦しつつ2年たった。

 思えば私の病はがんで、聞いたときは衝撃を受けた。が、新たな出会いもあり、ありがたいと思う今日このごろ。

 鹿児島県いちき串木野市 奥吉志代子(70) 2019/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載


マトリョーシカ

2019-05-25 19:56:02 | はがき随筆

 

 「ばぁ、ばぁ」孫娘が呼んでいる。アンパーンとかワンワンとか近ごろ話せるようになった。

 私の手を取りサイドボードの前まで連れてくる。上にあるマトリョーシカを取ってくれとせがむのだ。人形を取り出す度に「わー」と喜ぶ。二つに離れたものをつなげようとするがサイズ違いになってうまくいかない。一人で「あれ?」と言いながら、顔の部分だけを一列にきれいに並べていく。このマトリョーシカは船員だったた父が私たち姉妹に買ってくれたものだ。眠っていた人形がまた目覚めて私の孫と遊んでくれる。そして、私は優しかった父を思い出す。

 宮崎市 高木真弓(65) 2019/5/10 毎日新聞鹿児島


5円のはがき

2019-05-25 19:48:51 | はがき随筆

 古い箱から変色した5円はがきの束が見つかった。昔、県外で寮生活していたころ、私が父に宛てた便りで、結びはいつもお金の無心ばかり。先月の繰越金に続いて今月の収支明細など。夏休みに帰省するための旅費など含めてあと2000円欲しいとある。

 父からの返信は字が乱れすぎて判読できないが、2000円挟んであったっけ。驚いて帰省したら父は脳梗塞で倒れて言語もままならず、兄や姉の看病を受けていて数ヵ月後、他界した。何一つ恩返しできなかった親不幸ぶりは60年経ても申し訳なさに胸が張り裂けそうになる。

 熊本県玉名市 大村土美子(80) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島


上を向いて歩こう

2019-05-25 19:40:57 | はがき随筆

 某ホテルのロビーには白いグランドピアノが置かれた。孫らは夏休暇で、つい先まで渓谷の清涼な水と戯れていた。娘婿は半袖姿でポピュラーソングを奏でる。家族はピアノの周りで楽しそう。「上を向いて歩こう」のメロディーは親しみ深い。誰もが、いつでもハモる。ホテルのお客様も、知らない方々だが手をつなぎ輪になった。はちきれんばかりの歌声と手拍子、笑みを振舞ってロビーは和やかなムードに包まれ、幸せの瞬時に家族は強い絆に結ばれる。旅の思い出を大学ノートの隅のページに記した。未来の夢をつなげよう。上を向いて歩こう。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島


花よりだんご

2019-05-25 19:32:54 | はがき随筆

 今日は取ってくるかなぁ、いやだめかなぁと思っていた。

 夫は今日私の期待を背負ってゴルフ大会に行った。わが家のスキヤキは、ゴルフ大会の商品にかかっている。前回はブービー賞で、今回は雨のため大会は中止になり商品のくじ引きがあり、運がいいというか、ついているというか、何と3位を引き当てたという。ブービー賞より重い牛肉をちょっと照れ臭そうに持って帰ってきた。

 私にとっては、優勝でもブービーでもくじでもいい。花よりだんごがいい。さあ今夜は今年2回目のスキヤキ。いただきます。

 宮崎県日向市 黒木節子(72) 209/5/9 毎日新聞鹿児島


楽しい朝の電話

2019-05-25 19:24:34 | はがき随筆

 6時起床。近くの小学校でウオーキングそしてラジオ体操。みそ汁をこしらえ、朝食。新聞を片手にTVの朝ドラをのぞき込む。持病の薬を数えてはさ湯で飲み込む。やれやれとかけ声かけて椅子を立ち、食器を洗う。分刻みの行動には慣れているはず(現役時代の習慣)ですが、年のせいかなかなかしんどい。

 8時半、突然の電話。「Kです、おはようさま、お元気? 随筆書いてますか? 私90歳の大台を超したのよ。アハハー。遊びにおいでよ」と先輩女史の大きな声。「ハハハイ」と答えるだけ。しかし、楽しい朝の電話となりました。

 熊本市中央区 木村寿昭(86) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


母の旅立ち

2019-05-25 19:15:11 | はがき随筆

 好奇心旺盛な母だった。戦前は北京で暮らし、戦後は40歳を過ぎて洋裁学校に通い、若い人たちと一緒に学んだ。近所の学生たちを招いて麻雀とダンスも習った。麻雀で母は「ポン」と叫び身を乗り出すと、かつらが台の上に転がり、3人はびっくり仰天。自分も驚いたと、ちゃめっ気たっぷりに話していた。

 母は2月に103歳で旅立った。葬儀の献奏曲に母が好きだった童謡「ふるさと」をリクエストした。2人の女性がバイオリンとフルートで厳かに演奏したが、涙があふれてとまらない。私は促されて、やっと遺族を代表してあいさつした。

 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


水仙が揺れていた朝

2019-05-23 11:48:38 | はがき随筆

 

 「おばさんは、鯵の握り鮨を全部食べたらしいよ」。いつになく夫の声が明るかった。

 おばさんとは、わが家が数十年来親しくしている人だ。

 夫が釣った鯵をすぐさばいて、私が握った鮨を車で届ける。

 「誰が、こんげな旨いもんを食わせてくれるやろうか?」。その度に老夫婦でよろこんでいると聞いていた。

 それから半月過ぎた頃に、おばさんの訃報が入った。

 その日の朝は、黄色いラッパ水仙がかすかに揺れていた。

 柔らかい風に吹かれて、甘い香りが漂っていた。

 宮崎市 津曲久美(60) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


彼女へのエール

2019-05-23 11:40:51 | はがき随筆

 休日のお昼に家族そろいってよく利用する外食店がある。お店に入ると、いつもてきぱきと手際よく迎えてくれる外国人の女性がいる。

 きれいな日本語とチャーミングな笑顔が印象的でたまに見かけない日があると、シフトがかわったのだろうか、それとも勉強が忙しくて休んだのかしら、などと店内を見まわしてしまう。

 外国人労働者の受け入れを拡大する法律が国会で成立した。一生懸命学び、働いている彼女のような有能な若者が、今以上に良い条件でのびのびと力を発揮できる環境が整うように願っている。ガンバレ!

 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


仰げば尊し

2019-05-23 11:34:57 | はがき随筆

 先日、大成した教え子のことが話題となり、私にあなたはあの方の恩師だそうですね、と言われた。私は、担任でしたが恩師の恩は取ってください、恩の付くようなことはしていませんと返した。

 長年教職にあり卒業式で幾度となく表題の歌(師の恩と続くのだが)を生徒たちと歌ってきた。あの歌はなんとなく恩の押し付けみたいで気になっていた。本当に生徒たちのために尽くしてきたか、忸怩たる思いがするのである。

 同窓会などで大事にしてくれるが申し訳なさが湧く。今は彼らの多幸を祈るのみである。

 鹿児島市 野崎正昭(87) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


便利なお腹

2019-05-06 20:52:19 | はがき随筆

 あるイベント会場で、でっぷりと太ったゆるキャラを見つけた。建物の中に入り、エレベーターの前で待っている。会場の催し物に出演するらしい。エレベーターが開き乗り込もうとしたが、お腹が使えて乗ることができない。

 ゆるキャラは困った様子で思案していたが、すぐにスタッフの1人が着ぐるみの後ろに回って栓を抜き、着たままの状態で空気を抜き始めた。お腹をシワシワに縮めてすっかりスマートになると今度は余裕で乗れた。

 なるほど……。最近少々太めの腹を摩りながら「人間も、空気がぬけたらなあ」と思った。

 宮崎市 福島洋一(64) 2019/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載


光も風も

2019-05-05 16:08:29 | はがき随筆

 

 むせるような若葉の香りと緑の洪水に、全力を出し切ってやっとこ支えている住まいと、老いも溺れそうになる。

 お隣から分けてもらった種から、丹精込めて育てたヤグルマソウが両手を広げても届かないほどの大株になり、背比べするまでの草丈になった。ピンクやブルーが鮮やかな花々が輪になって、さざめきが聞こえてきそう。

 キラキラと差す木漏れ日と心地よく吹き渡る風。高く高く広がる空。もう初夏のコンチェルトが静かに流れ始めた。

 5月。日の本の若い令和の夜明けです。

 熊本市東区 黒田あや子(86) 2019/5/5 毎日新聞鹿児島版掲載


令和の風

2019-05-05 16:06:21 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月 1日 (水)

    岩国市  会 員   樽本 久美


 2年前、父は85歳で亡くなった。命日は4月29日の「昭和の日」。私の誕生日も祝日で「建国記念の日」に生まれた。よく父が「多くの人が国旗を立てて祝ってくれる」と言っていた。 
 大好きな父が亡くなって、いろいろあった。ふと、父が生きていたら、どんな言葉を掛けてくれたか?と考えてしまうこともある。
 一方、もうすぐ誕生日を迎える母は今、老人ホームに入っている。もうすぐ86歳になる。ホームに入って、おかげさまで少しずつ元気になっている。「三百六十五歩のマーチ」や「青い山脈」の歌に合わせて体を動かしている。
 ホームの人が楽しく一日を送れるように手を貸してくださる。本当にありがたいことである。感謝、感謝である。
 そのホームで毎週、自由に文字を書く遊書や川柳を教えている私。講座の前には一緒に体操をする。母と手をつなぐことができるありがたい時間である。 
 足の悪い母がいつまでも楽しく生活できることを祈りたい。手先が器用な母。保母をしていたので折り紙などは上手である。今は川柳作りに挑戦している。親子で新聞に川柳掲載を目指したい。
 私は4月から新しい仕事を始めた。長年の夢であった、書道の先生。子供たちに人としての振る舞いも私なりに教えたいので私自身も勉強が欠かせない。 
 令和の風が吹いている。焦らず、ゆっくり令和の風に吹かれていたい。そして背筋を伸ばして歩んでいきたい。
   (2019.05.01 毎日新聞「女の気持」掲載)


であい

2019-05-04 12:24:22 | はがき随筆

 「電話ですよ」「はあい」と受話器をとる。テレビで放映された私の描く「昭和の風景」を見た視聴者から「絵を見せてほしい」との突然の電話。懐かしいかやぶきなど生活にじむ絵をテーマに描きつづけている。数日して訪ねて来られた。ランドセルにおかっぱの風景画をじ~と見つめ、忘れていた思いが脳裏によみがえったのでしょう。目に涙をにじませ、この絵は私そのもの、癒されますと一言。涙にはうれし涙、悲し涙とあるが、きっと奥底に何かがあるのだろうと感じた。技術はないが、たった1枚の絵にこんな温もりのある出会いがあった。

 鹿児島県さつま町 小向井一成(71) 2019/5/4 毎日新聞鹿児島版掲載