風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

飯田のおたぐり・名古屋のひきずり 134号

2007年08月01日 12時27分55秒 | ワーキングホリデー飯田
援農体験の農家で食べた「おたぐり」は、長野県飯田市の郷土料理で、馬の腸を塩味でじっくり煮込んだホルモン煮である。ホルモンの語源には諸説あるが、関西弁で「捨てるもの」を意味する「放(ほお)るもん」がおもしろい。独特の匂いがあり地元でも好き嫌いは多いが、貧乏人の子である私は、低価格のイメージで好きなのである。下ごしらえをする際に、20m以上もの長さのある馬の腸をたぐりながら洗う手間賃を上乗せすると、結構高価になってしまう。「たぐる」ことに尊敬の「お」を付加して「おたぐり」である。

名古屋の方言の「ひきずり」はすき焼きのことで、すき焼き鍋の上で肉を引きずるように焼くことに由来している。肉は牛肉が常識であるが、「ひきずり」は名古屋コーチンの鶏肉が主役である。八丁味噌味もあるが、醤油が普通で、ひきずりだからイチビキという醸造元のものがよいというが、宣伝臭がする。

全国各地の食文化に根ざす名産が有るが、流人の島、伊豆諸島の特産品にクサヤがある。トビウオやアジなどの魚類をクサヤ液と呼ばれる臭気と風味をもつ液に浸潤させた後、天日干しにした干物である。発酵しているのは魚自身ではなく、クサヤ液であるから、味醂干しと同じであるが、その強烈で個性的な臭気の存在感は偉大である。クサヤ液は新島と八丈島では成分が違い、新島産の臭いが強烈なのである。

強烈な臭気は、琵琶湖の鮒の熟れ鮨も負けていない。子持ちニゴロ鮒の内臓を取りのぞいて、塩漬けにしたものを、御飯を詰めて約1年間、樽に漬け込んで鮒を醗酵させる。乳酸醗酵により、独特の酸味と、発酵によるタンパク質が分解、味の素であるアミノ酸になる。

琵琶湖固有種の子持ちニゴロブナが、伝統的な素材であるが、資源が枯渇してゲンゴロウブナが代替素材となっている。高木守道二塁手の趣味である釣りはゲンゴロウブナを品種改良したヘラブナが獲物である。農耕民族に守られた琵琶湖固有種の鮒は、狩猟民族に鍛えられたブラックバスやブルーギルの獲物であるから絶滅は時間との戦いで有る。勝負あったアメラグが時間を消化するのに似ている。

安土城天守閣より琵琶湖を見下ろし、天下統一に夢を馳せる織田信長の元に、わずかな鮒鮨を手に豊臣秀吉が駆けつける。大変気に入り、明智光秀に大量生産を命じて、一年後、なんと10樽もの「鮒鮨」と共に安土城に登城した。
信長は激怒して、皿を投げつけ、光秀は額から血を流し、この日以来の打倒信長の執念が「本能寺の変」の動機なのである。事実は小説より奇であり、食い物の恨みは怖ろしい。
実は光秀は大変な「鮒鮨」好きで、美味くて貴重な「子持ちの鮒鮨」を自分用に残し、子の無い鮒鮨を信長に献上した。光秀は我利我利亡者で、信長の怒りは仏教的には正当防衛である。

食に貪欲な人間は、ブラックバスやブルーギルを材料として、熟れ鮨を造る試みをしている様であるが、出世魚ボラの後の無いトドの詰まりと同様、食糧危機の「最期の晩餐」なら許されるが、悪い冗談である。松坂牛は黒毛和牛でなければ、和田金の昼食に8千円は支払わない。

生物の命を頂戴して、命を繋いでいる利己的人間は、感謝の気持ちを忘れずに、食料を大事に扱う伝統の心を養う教育改革が必要なのである。ブラックバス熟れ鮨の話を読み、気持ちが悪くなってきた。知りたくなかった。知らぬが仏である。焼酎を飲んで寝る事にする。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。