農家に滞在、農作業三昧の三日目の夜、主人と近くの居酒屋に行った。徒歩数分の距離にある。
店の主人は在日十年になる中国黒竜江省ハルピン市が故郷の美人、三十四才。
旦那は古希を迎える老人だそうだ。生存競争の為なら手段を選ばない。
縄のれんの居酒屋の女将は男で苦労させられ波乱万丈の人生の海原に翻弄された喜怒哀楽の人情話が出来る老婆が似合うと思うのであるが、互いに面識有る近隣の古希を迎える老農夫夫婦の常連客で結構繁盛しているのは、親を見捨て都会に逃走した娘の面影を中国娘に求めているのだろう。
リンゴ談義で盛り上がった。
昔懐かしい今は店頭から姿を消した国光・印度・紅玉・祝。
米国バージニアの国光は交配を重ねふじに、インディアナの印度は王林に、ニューヨークの紅玉は津軽やジョナゴールドに進化した。
アメリカ産の祝はアメリカの戦後教育が宗教を除外したからお盆の供物の青リンゴは消滅した。
若い元気の良い枝より曲がった古い枝先のリンゴ、表面がザラザラし醜いリンゴが美味いが対面販売が否定され対物販売主流のスーパー商法では顧客は外見の美しい不味いリンゴを競って購入する悲劇が生まれる。
果樹園に足を運び、出荷停止の農夫が食べる醜い本物のリンゴを手に入れる人間が本物の美食家である。