韓国雑記帳~韓国草の根塾&日韓環境情報センター&ジャパンフィルムプロジェクトブログ

韓国に暮らして30年。なぜか韓国、いまだに韓国、明日も韓国。2022年もよろしくお願いします。

韓国の環境紛争調停制度について

2017-04-26 10:15:38 | 日韓環境情報センターの活動

4月20日から3日間、韓国の環境紛争調停制度の調査を日弁連の公害対策・環境保全委員会が行いました。通訳として同行しましたので、今回もらった資料を基にこの制度を少し紹介し、また韓国の環境保護運動との関係を説明しましょう。

韓国の環境紛争調停委員会は環境部の中に所属しています。ホームページはこちらです。→中央環境紛争調停委員会

また、地方(ソウルなどの特別市・広域市、京畿道などの道)には地方環境紛争調停委員会があります。今回の調査ではソウル市を訪問し、インタビュー調査をしています。→ソウル環境紛争調停委員会

まず、この制度が導入された経緯には、次の通りです。

1)環境紛争が増加し、被害の原因や当事者が複雑になってきた。

2)司法(裁判)による救済に限界がある。

3)そのため、準司法的機能を持った協議体行政機関として環境紛争調整委員会制度を、91年に導入した。

91年に始まり、いままで25年間に3657件の環境紛争を処理していますが、調停の種類はつぎの4つ。

・斡旋‐当事者間の話し合いで処理することを推薦し、誘導する。

・調停‐調停委員会が調停案を提示して当事者間で合意することを勧める。

・裁定‐裁定委員会が被害賠償の有無・金額を決定する。同意できない場合は、民事訴訟に持ち込める。

・仲裁‐仲裁委員会が被害賠償の有無・金額を決定し、裁判所の判決と同じ効力を持つ。(去年から導入)

全体の65%ほどが損害賠償が伴う裁定を行い、斡旋による合意が32%、調停が3%となっています。

去年のデータからどのような被害原因かをみると、総数162件の中で、騒音・振動(122)、日照(25)、大気汚染(10)、水質汚染(2)、その他(3)となっています。

また、賠償金額も2000万ウォン以下(77)、2000~5000万ウォン(6)、5000万ウォン以上(19)となっています。

紛争の対象は、次の通りですが、少しずつ対象を増やしています。

1991年=大気・水質・土壌・海洋汚染・悪臭・騒音振動

1997年=自然生態系の破壊

2002年=階間の騒音(マンションなどでの)

2006年=日照・眺望・通風妨害

2012年=人工光による被害

2015年=地下水の水位変化と水路移動による被害

そして、いままで事例はありませんが、一定の条件を備えた環境団体が調停の申請人になることができるという条文になっています。

さて、韓国の公害紛争調停制度の運用面を中心に紹介しましたが、感想をまとめると次の通りです。

まず、紛争の多くが工事現場などの騒音被害になっています。区役所などの苦情処理窓口で処理できないケースがこちらに持ち込まれるわけなので、実際には騒音被害の件数はもっと多いでしょう。ただ、このような生活環境被害は、工事の担当が事前に対策を取っていれば防げるものなので、行政の指導や業界の体質改善でこれからは件数が減っていくと思います。

つぎに、裁定の場合、損害賠償を含む決定が下され、被害に対する経済的な補償が迅速に行われるという利点があります。早いと3か月ぐらいで裁定が行われるので、被害者にとってはとても良い制度と言えます。また、被害金額ですが、騒音の場合は目安となる金額の一覧が公表されていますので、これを基にして裁定の申請が行われます。ただ、実際の金額は申請額の10%ぐらい(ソウル市はちょっと上で13%ぐらい)なので、金額が不服の場合は民事訴訟になりますが、それほど多くないと聞きました。

最後に、自然環境の破壊が調停の対象に含まれるという点に注目したいと思います。そのうえ、一定の条件を備えた環境団体が申請できるのですから、とても進んだ制度だと思います。ただ、いままでこれで調停が行われた事例は無いそうです。これは、韓国の環境団体が法廷の外での政治的な決定をめざして活動する場合が多く、工事の差し止めなどは仮処分の申請を行い、また被害に対しては民事訴訟で行うためではないかと思いますが、機会があれば、確認してみます。

地方の調停委員会も専任の審査官(公務員)がいる自治体は、余裕がある自治体(ソウルは3名)だそうで、ほかの自治体では兼任の場合も多く、なかなか審査のための調査などを集中して行えたない現状があるそうです。

これ以外にも、調停委員会の構成メンバーなど、いろいろな側面から話を聞きましたが、別の機会に紹介しましょう。今回の調査はかなり専門的な内容でしたが、韓国の環境行政の事例を見ることができ、勉強になりました。今回の調査をされた日弁連の公害対策環境保全委員会のみなさん、ご苦労様でした。また、機会があれば、よろしくお願いします。

 

 

写真は環境部の建物の屋上です。本来は市民に公開する予定でしたが、管理上の問題で市民の立ち入りは禁止になったそうです^^