6月18日に韓国の古里原発の永久停止の記念式典が行われましたが、ここでのムン・ジェイン大統領の演説を日本語に訳してみました。韓国の新しいエネルギー政策がどのようなものか、非常に分かりやすく述べられています。ムン・ジェイン大統領の新しいエネルギー政策が示している内容は、日本の私たちにも大変参考になるはずです。少し長いですが、ぜひ読んでみてください。
実は、すでにソウル市では原発1機分の電力を節電と再生エネルギーで変えていくという宣言をしています。ソウル市の実験は韓国の新しいエネルギー政策と相互補完して、これから韓国の全土に拡がっていくでしょう。これからの韓国の脱原発と再生エネルギー政策に注目したと思います。
日韓環境情報センター(田中博)
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2017年6月19日0時、大韓民国は、国内初の古里原発1号機を永久に停止しました。
1977年に完工して以来、40年ぶりの事です。過ぎ去った歳月、古里1号機は 大韓民国の経済成長を下から支えました。稼働初年の1978年、韓国全体の発電設備容量の9%を担い、それ以降、増えていく原発によって、我々は経済発展の過程で大きく増えた電力需要に対応することができました。
古里1号機はわが国経済発展の歴史とともに記憶されるでしょう。1971年に着工を開始した時から今まで、古里1号機が運転された間に多くの方たちの汗と努力がありました。自分の青春と人生を古里1号機とともに記憶される方も多いと思います。今後、古里1号機を解体する過程でも、多くの方々が汗を流す事になるでしょう。
この席を借りて関係者の皆様の苦労をねぎらうとともに、特に現場、古里1号機の管理に努力してきた方々に深く感謝いたします。
尊敬する国民の皆様!
古里1号機の稼動永久停止は脱原発の国への出発です。安全な大韓民国に向かう大転換です。
私は今日を起点に韓国社会が国家エネルギー政策について新たな合意を形成していく事を期待します。
これまで我が国のエネルギー政策は低い価格や効率性を追求しました。安価な発電単価を最高と考え、国民の生命と安全は後でした。持続可能な環境に対する考慮も軽視されました。原発はエネルギーの大部分を輸入しなければならないわが国の開発途上国であった時期に選択したエネルギー政策でした。
しかし、もう変える時になりました。国家の経済水準が変わり、環境の重要性に対する認識も高まりました。国民の生命と安全が何よりも重要だということが、確固たる社会的合意として定着しました。
国家のエネルギー政策もこのような変化に歩調を合わせなければならないです。方向ははっきりしています。国民の生命と安全、健康を脅かす要因を除去しなければならないのです。持続可能な環境、持続可能な成長を追求しなければなりません。国民の安全を最優先とするクリーンエネルギー時代、私はこれがわが国のエネルギー政策が追求する目標だと確信します。
昨年9月の慶州(キョンジュ)大地震は、私たちに大きな衝撃でした。マグニチュード5.8、1978年の気象庁の観測開始以降、韓半島で発生した最も強い地震でした。幸い、死亡者はいませんでしたが、23人が負傷し、計110億ウォンの被害が発生しました。
慶州地震の余震は今も続いています。6日前にもM2.1の余震が発生し、今まで9ヵ月間で合計622回の余震が続いています。
私たちはこれまで大韓民国は地震から安全な国だと信じてきました。しかし、もう大韓民国が地震安全地帯ではないことを認めなければなりません。私たちは当面の危険を直視しなければなりません。特に地震による原発事故はあまりにも致命的です。
日本は世界で地震に最もよく備えてきた国と評価されました。しかし、2011年に発生した福島原発事故で、2016年3月現在、計1368人が死亡しており、被害復旧に計220兆ウォンという天文学的な予算がかかると申します。事故後、放射能の影響による死亡者やがん患者発生数は把握さえ不可能な状況です。福島原発事故は、原発が安全でなく、安くもなく、親環境的なものでもない事実を確に示してくれました。
その後、西欧先進国家たちは速やかに原発を減らし、脱原発を宣言しています。しかし、我々は依然として原発を増やしてきました。その結果、我が国は全世界で最も原発が密集した国になりました。
国土面積当たりの原発設備容量は勿論のことですが、原発別の密集度、半径30Km以内の人口数もともに世界1位です。
特に、古里原発は半径30Kmの中に、釜山248万人、蔚山(ウルサン)103万人、慶尚南道29万人など、合計382万人の住民が暮らしています。月城(ウォルソン)原発も130万人で2位にランクされました。
福島原発事故当時、住民避難命令が下された30Km内の人口は17万人でした。しかし、私たちはそれよりも22倍を超える人口が密集しています。その可能性は非常に低いですが、もし、原発事故が発生するなら…、想像もつかない被害に繋がる可能性もあります。
尊敬する国民の皆様!
私は前の大統領選挙で、安全な大韓民国を約束しました。セウォル号以前と以後が全く違う大韓民国を作ると約束しました。安全な大韓民国は、セウォル号の子供たちと交わした堅い約束です。
新政府は原発の安全性確保を 国の存亡がかかった国家安保問題と認識して対処します。大統領が直接点検し、配慮します。原子力安全委員会を大統領直属の委員会に昇格し、地位を高め、多様性と代表性、独立性を強化します。
原発政策も全面的に再検討します。原発中心の発展政策を廃棄し、脱原発時代を作ります。準備中の新規原発の建設計画は全面白紙化します。
原発の設計寿命を延長しません。現在、寿命を延ばして稼動中である月城(ウォルソン)1号機は電力需給状況を考慮してなるべく早く閉鎖します。
設計寿命がつきた原発稼動を延長することは、船舶の運航船齢を延長したセウォル号と思います。
今、建設中の新古里5、6号機は安全性とともに工程率と投入コスト、補償費用、電力設備予備率などを総合的に考慮して早期に社会的合意を形成します。
原発の安全基準も大幅に強化します。今、脱原発を開始しても、現在稼働中の原発の寿命が尽きるまでは、これからも数十年の時間がさらにかかるものです。その時まで私たち国民の安全が最後まで完璧に守られなければなりません。今の稼動中の原発の耐震設計は、福島原発事故後、補強されました。その補強が十分であるか、十分になされたのかもう一度点検します。
新政府の原発政策のオーナーは国民です。原発運営の透明性も大幅に強化します。これまで原発運営の過程で大小の事故があり、さらには原子炉の電源が切られているブラックアウトが起きる事態が発生したりしました。
しかし、過去の政府はこれを国民にきちんと知らせず、隠蔽する事例もありました。新政府ではどんな事でも国民の安全と関連されることなら、国民に隠さずに知らせることを原発政策の基本とします。
脱原発をめぐって電力需給と電気料を心配する産業界の恐れがあります。莫大な閉鎖費用を心配する意見もあります。しかし、脱原発は逆らえない時代の流れです。数万年この地で生きていく我々の子孫らのために、今始めなければならないことです。
私の脱原発、脱原発政策は原発を長い時間をかけて徐々に減らしていくことなので、韓国社会が十分に対応することができます。国民が安心できる脱原発のロードマップを早く作成します。
尊敬する国民の皆様!
新政府は脱原発と一緒に未来エネルギー時代を開きます。新再生エネルギーとLNG発展をはじめとする清潔で安全なクリーンエネルギー産業を積極的に育成します。4次産業革命と連携してエネルギー産業が、大韓民国の新しい成長動力になるように努力します。
今、世界はエネルギー戦争を繰り広げています。地球温暖化による異常高温、パリ気候協定など国際環境の変化に能動的に対処しなければなりません。
石油の国のサウジアラビアが'脱石油'を宣言して、国のファンドを作って太陽光のような新再生エネルギー事業に力を注いでいます。アップルも太陽光電気販売を開始しており、グーグルも'グーグルエネルギー'を設立し、太陽光事業に参入して久しいです。
韓国も世界的傾向に取り残されてはいけません。原子力発電とともに石炭火力発電を減らして天然ガス発電設備稼働率を増やしていきます。石炭火力発電所の新規建設を全面中止します。老朽化した石炭火力発電所10基に対する閉鎖措置も、私の任期内に完了します。去る5月15日、微細ほこり対策で30年以上稼働してきた老後石炭火力発電所8機の運転を一時中断したことがあります。石炭火力発電を減らしていく第一歩を始めました。
太陽光、海上の風力産業を積極的に育成して、4次産業革命に備えたエネルギー生態系を構築していきます。環境にやさしいエネルギー税制を合理的に整備して、エネルギー告訴費の産業構造も効率的に変えます。産業用電気料金を再編して、産業部分での電力の過剰消費を防止します。産業競争力に被害が発生しないよう中長期的に推進して中小企業は支援します。
尊敬する国民の皆様!
今日の古里1号機永久停止は、我々にはまた別の機会です。原発の解体に対するノウハウを蓄積して、原発の解体産業を育成できる契機になるからです。
原発の解体は多くの時間と費用と先端科学技術を要する高難度の作業です。脱原発の流れの中に世界各国で原発の解体の需要が多く発生しています。しかし、現在まで原発の解体の経験がある国家は米国、ドイツ、日本だけです。現在、韓国の技術力は、米国など先進国の80%水準であり、原発の解体に必要な商用化技術58件のうち41件を確保しています。
もっと急ぎます。原発解体技術力確保のために慶尚道地域に関連研究所を設立し、積極的に支援します。大韓民国が原発の解体産業先導の国になることができるように、政府は、努力と支援を惜しみません。
尊敬する国民の皆様!
私たちは今、新たな挑戦を始めています。慣れたものと別れて新しいものを創造しなければなりません。国民の生命と安全を守りながら…。安定的な電力供給も維持しなければなりません。
原発と石炭火力を減らしながら、これに代わる新再生エネルギーを私の時に安価に生産しなければなりません。
国家エネルギー政策の大転換、決して容易ではありません。政府と民間、産業界と科学技術界が一緒に動かなくてはなりません。国民のエネルギー認識も変わらなければなりません。脱原発や脱石炭(火力発電所)のロードマップとともに、環境にやさしいエネルギー政策を樹立しています。
多くの困難がありそうです。しかし、明確に進むべき道です。健康なエネルギー、安全なエネルギー、クリーンなエネルギーの時代に行きます。国民の安全と生命を最高の価値と考える安全な大韓民国を作ります。
ありがとうございました。
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