昨年もそうだったが梅雨入り宣言があった後、しばらく天気のいい日が続いている。た
だその青空も今日が最後の様で、このあとは本格的に雨降りの日が続いていくみたいだ。
その梅雨の季節のように左膝もジクジクとしてあまり調子が良くはない。例年なら張り
切ってどこに出かけようかと考えるのだけれど、イマイチ気持ちが乗ってこないので、
奥様たちに『どこか歩きたい場所はありますか?』と尋ねたら、あっちゃんが『塩塚峰
に興味があります!』と返事かえってきた。
それじゃ~そのご希望に沿わせていただきますということで、霧の森の道の駅に集合と
なった。ここから栄谷から山に分け入り塩塚峰へと登った後、新瀬川へと下る周回コー
ス。もう18年も前になるが山の会の山行で、塩塚峰から栄谷へ下ったことはあるが、
新瀬川の道は初めてのルートになる。
道の駅の駐車場を8時36分にスタート。県道を南に少し歩いてすぐに分岐を左に入っ
て行くと、2kmに渡って12基の石碑が並んだ『志の道』になる。それぞれの石碑に
は各偉人の言葉が刻まれていて、その言葉を読み意味を感じながら歩いて行く。
またこの道沿いは『ミニ四国霊場』にもなっていて、道の脇には石仏が並んでいる。道
が四差路になる場所から左に栄谷へと登って行く。
しばらくの間は民家が点在する中の舗装路を歩いて行く。山間部とはいえ道路部分は日差
しを遮る木々もなく、もうすでに汗が噴き出ている。
舗装路はまだ続いていたが、道の脇に『少年自然の家』のNO.2の標識の立つ場所から左
に折れて山の中に入って行くが、YAMAPではここが登山口となっている。ここまで
駐車場から約45分。道の脇の沢からの冷気のせいかこの暑さの中、吐く息が白かった。
道は地元の方の手によるのかきれいに草刈りがされていたが、最終民家に人の姿はなか
った。
最終民家を過ぎると杉林の中の道になる。しばらく登って行くと石積みと石畳の道。そ
の石積みも一つや二つではなくかなりの数になる。以前に集落があったのだろうか?
道は少し荒れ始めたが、そのガレ道を登ると炭焼き小屋跡があり、ちょうど3合目の札
がかかっていた。
この栄谷のかなり上部にまで石積みは続いていた。『こんな山奥まで果たして?』という
疑念が沸いてきたが、畑作とかの石積みにしてはやはり立派過ぎる。
道は北東から南に折れて急登になった。谷あいで薄暗かった周りも少しづつ明るさを増
していき、いったん平道になると5合目の札がかかっていた。
植栽地の杉林の中を縫うように登って行くと右手は伐採地。一気に明るさが増した。
伐採地横から杉林の中、ひと登りすると林道に飛び出した。ここから946mの三角点
へと階段が続いている。登ってきた道への取り付きには少年自然の家の道標が建ってい
る。この道と下山路となる新瀬川の道は、少年自然の家からの小学生たちの学校登山の
コースとなっているらしい。途中草刈りをしてあったのはその為だったのかもしれない。
ここからは三角点には登らずに林道を北に歩いて行く。
『さぁ、ここから朝ドラの話が始まるんですかね~』と冗談で言うと、奥様たちは本当
に朝ドラの話をし始めた。
林道から三差路に出て今度は東に向かって舗装路を歩いて行く。三差路からすぐに以前
からあった霧の森の高原の施設が眼下に見えた。以前からあった建物とは別に、新たに
オートキャンプ場が整備され、道の上手にはグランピングの真新しい施設もできていた。
しばらくの間、東に舗装路を歩いて行くと次第に高原らしき草地が広がってきた。パラグ
ライダー場の道標に従い南に右折し道なりに歩いて行く。
すると振り返っての景色も一気に広がってきた。正面には法皇山系から東に続く稜線が
見える。稜線上に等間隔に鉄塔が続き、以前に縦走した時に歩いて横を通った廃棄物の
リサイクル場の施設が確認できる。
車道から山道へと入って行くと塩塚峰山頂へと続く階段が見えた。遮るものもなく、日差
しが照り付ける中の最後の踏ん張りどころだ。
たしか六甲全山縦走の時に『天国への階段』と名付けられた場所があったが、明るい空
へと続いているこの道もまさしく『天国への階段』だ。大きく息を吐きながら一段一段
登って行く。谷あいの水で濡らした冷感タオルももう既に乾いてしまっていて、流れる
汗を拭いても快適とは程遠い。
大汗をかきながらも何とか登りきると360度の絶景が待っていた。今まで登ってきた
峰々、そして歩いてきた稜線が見渡せる。そしてその先に汗を掻いてきた思い出が蘇っ
いてくる。山頂では爽やかな風に乗ってか、大きな虫が飛び交っている。『ここではお
昼ご飯は食べられないわね』とあっちゃん。『この東に東屋があるのでそこでご飯にし
ましょう』
東屋のある展望所までは3回ほどアップダウンを繰り返す。山頂から下った鞍部は新瀬
川への分岐になっている。そこからまた緩やかな坂を登って行くと聞き慣れない音が聞
こえてきた。眩しい空を見上げるとグライダーが飛んでいた。そして二つ先のピークに
は人影が見える。あそこからラジコンのグライダーを飛ばしているのだろう。
ラジコンを操作している人の所で話しかけると、『今日は少し風が弱い』とのこと。空を
飛んでいる姿はさほどではないが、近くで見ると結構な大きさだ。『エンジンで飛ばすの
ですか?』と尋ねると『モーターで飛ばしてあとは風で!』と笑顔で答えてくれた。
展望所の東屋の日陰に入るとさっきまでの暑さが嘘のように、乾いた風が心地よい。
汗を拭き椅子に腰かけあっちゃんがザックから取り出してきたのはインスタントの
焼きそばだった。『ほら夏の暑い時でもBBQでは焼きそばをたべるでしょ!』と自
慢げに話をする。『でもBBQの時はビールがあるでしょう』と言うと、少し不満げ
な顔をしながら『でも絶対美味しいはずよ!』と。『少し食べてみる』とルリちゃん
に勧めてみるが『私はいいわ!』とあっさり断られた。
せっかくなので少し分けてくれた焼きそばを一口。甘いソースが何とも言えずにいた
ら、『どう、美味しいでしょ!』と無理やり言わそうとする。『この夏は焼きそばで攻
めてみる!』と呆れ顔の二人を尻目にニコニコ顔のあっちゃん。
東屋には表示板に四方の山並みの山名が書かれている。
カガマシ山の左奥に工石山、そのさらに左に白髪山
中津山の左に特徴的な山容の烏帽子山
牛の背の笹原の上に天狗塚の頭が覗いている
お昼ご飯を食べたら一旦塩塚峰への鞍部まで戻り分岐から下って行く。グライダーを飛
ばしている初老の男性二人はお昼ご飯も食べずにいる。まるで遊びに夢中になって時間
を忘れている少年の様だ。
分岐からは新瀬川登山口へと下って行く。ストックの長さを変えて一歩一歩注意しなが
ら足を踏み出さないと転げ落ちそうなくらいの急な坂だ。この坂を下りきった所の道標
に『がまん坂』と書かれていたが、まさに新瀬川から登りぱなしの最後の急登。がまん
の為所だと思うが、私にとっては膝に堪えるガマンの下り坂。
がまん坂を何とか滑らずに下り終えると一旦車道に出た。そこからまた車道を横断して
山道に入って行くが、まだまだ急坂は続いて行く。危なそうな箇所にはロープが張られ
ているが、この坂を下から小学生がよく登って来られると感心する。
大岩の横を過ぎると丸太のベンチのある休憩所に着いた。左ひざを庇ってなのか右の股
関節や腰に張りが出てきた。先ほど東屋でずり落ちて半ケツになった着圧タイツを持ち
上げたら、持ち上げすぎて股間が窮屈になっているせいかもしれない。奥様たちには先
に行ってもらって、ショーツを下げてタイツの装着位置を直してみる。
休憩所から少し下ると沢沿いの道になる。昨日の雨で増水した沢の濡れた岩で足を滑ら
せ右足をドボンしてしまう。途中の合目を書いた札には励ましの言葉も書かれている。
九十九折の道は小刻みに右に左に曲がって、その斜度も急なので油断ができない。何
とか急坂をやり過ごすと先ほどよりは少し幅の広がった沢にまた出た。今度は左岸か
ら右岸に渡渉してまた下って行くとトドロの滝に着いた。
この間の沢沿いでは何カ所もの小滝があったが、このルートでは一番大きな滝となる。
昨日の降雨の後で水量も多いが、他県の轟の滝と比べると随分と小ぶりの滝になる。
トドロの滝から下って行くとこちらの沢沿いにも、栄谷と同じように石積みが点在して
いた。このあと右岸から左岸への木の橋を渡ると、最終民家の横に出た。
最終民家にはやはり人影はなかったが、さらに下の民家の横には洗濯物が干されていて
まだ住んでいる人がいる様子だった。それにしてもこの奥まった場所に不似合いな立派
な建物だ。その民家の横を通って下って行くと新瀬川の登山口に降り立った。
登山口にはコミュニティバスの停留所にもなっていて、一日何回かバスが来るらしい。
家に帰って色々と調べてみると、むらくもさんは以前にここまでバスに乗ってきて、
時計と反対回りに周回して栄谷へと下っていた。ここからの下道歩きを考えるとなるほ
どと感心してしまった。
登山口から秋田の集落の中を通り舗装路を歩いて行く。幸い緩やかな下り坂だがそこは
やはり舗装路、足の裏や足腰に堪えてくる。
道路脇の民家の横の畑には反りのある立派な石積み。これを見ると先ほどの石積みや栄
谷の石積みはやはり畑地だったのかもしれない?と思ってしまう。
その先では二人の男性が道の脇の草刈りの作業をしていた。さらに歩いて行くと木陰で
休憩をしている男性の姿があった。傍まで近づいて挨拶をすると、『塩塚峰に登ってたん
かな?』と聞かれた。『はい、栄谷から周回してきました』と言うと、『それはそれは疲れ
ただろう、一服していき!』とリポビタンDを3本差しだしてくれた。
『この辺りも若い人がいなくなってな~、私でも若い方から二番目なんや』と過疎化の現
状を嘆いていた。
道路上には日陰も少なく、舗装路の上で足の裏が熱くなり張りも随分出てきた頃、新瀬川
の登山口から約1時間で道の駅の駐車場に着いた。
駐車場で靴を履き替えているあっちゃんに『抹茶のソフトクリーム食べに行きます?』と
聞かれたが『今日はこれ以上歩きたくないので止めときます』と言って駐車場で別れた。
これから梅雨が明けて夏の暑さが本格的になって果たして、膝や腰や体力がもつのだろう
か?と不安な気持ちを抱えながら高速道路を東に車を走らせた。